男女逆転世界なのに追放された天才癒しマネージャー ~今さら野球部に戻ってくださいとギャン泣きされてももう遅い。ぼくにメロメロな最強爆乳美少女たちが、お前らを絶対許さないってマジブチ切れてるんですが?~
間話 川中島ちゃんの憂鬱、あるいは渚の新人男マネ採用試験1
間話 川中島ちゃんの憂鬱、あるいは渚の新人男マネ採用試験1
それは夏の甲子園が終わり、国体が終わり、神宮大会も終わった晩秋のある日のこと。
私立風の杜学園高校一年野球部、先輩からも同級生からも『川中島ちゃん』と呼ばれているその少女は、練習からの帰り道、もう二度と見ないだろうと思った顔に囲まれていた。
もっとも川中島からしてみれば二度と顔も見たくない連中だったので、ただの不幸でしかなかったけれど。
「なあ川中島、マジで頼むよ!」
「渚センパイに会わせてくれるだけでだけでいいからさぁー!」
「あとはおれたちで、渚センパイに頼むから!」
……この目の前にずらりと並ぶアホ男子10人が、はたして人間の知能を持っているのか疑ってしまった川中島である。
困り顔の川中島を囲んでいるのは、休部状態のまま先日ついに廃部が決定した、聖鷺沼高校野球部のマネージャーだった男たち。
川中島は今年の夏まで、こいつらと同じ高校の野球部だった。
けれど野球部がズタボロに負けて、なおかつ世間の極めて激しい非難に晒されていたある日、川中島の前に現れたくずはが風の杜学園高校への転校をあっせんしたのだ。
川中島は一も二もなく食いついた。
もちろん、家族みんなも転校に大賛成だった。
今の聖鷺沼高校野球部は、あまりにイメージが悪すぎる。
ちなみに転校をあっせんするのに際して、男子マネージャーの追放事件に川中島たちが積極的に関わっていたか否か、くずはが徹底的に調査していたことを知ったのはだいぶ後の話。
そうして転校した先で、川中島を含めた数人の転校メンバーはすぐに新しい野球部に溶け込んで、充実した学生生活を送っていた。
転校前と比べれば圧倒的に部員の少ない野球部で、川中島たち転校組も男子マネージャー手ずからの癒しマッサージを受けて感激すると同時に、こんなに素晴らしい先輩男性マネージャーを追放した転校元野球部への不信感をどんどん膨張させていって。
川中島たちもまた、身をもって知ってしまったのだ。
あのアホ男子マネージャーどものヘタクソな癒しマッサージは、先輩男子マネージャーの極上天国癒しマッサージなどとは到底比較にもならない、遙かに下劣なものだということを。
それにもう二度と会うつもりもなかったし、会うこともないと思ってた。
それなのに──
「ね、ねえっ、なんでわたしなのかな? そんなの渚先輩本人に言えばいいと思うし、他にもあっちの野球部レギュラーメンバーがいっぱい転校してるのに、なんでわたし……?」
「渚さん、なんか全員着拒してるんだよ」
「そーそー。おれたち誤解されちゃったみたいでさ」
「他のセンパイたちに頼んでもそっけなく断られるしー、暁烏なんか返事すら来ないしー、それからみんな着拒しやがったしー」
「だから川中島に頼むってわけよ」
具体的に言えば、この男子どもは西神田を除く転校した元野球部員全員に連絡を取ろうとしている。
けれど今日までに川中島以外の全員からは着信拒否、メールも受信即削除の扱いを受けていた。
川中島がそう設定しなかったのは、単純に気が弱いからである。
「じゃあよろしく。本当に頼んだぞ!」
「ダメだったら野球部に押しかけるからなー!」
「そ、それは本当に、止めた方がいいと思うけどな……?」
あのアホ男子どもが強引にこっちの野球部に押しかけでもして、万が一先輩男子マネージャーと揉めたりして、そんな場面を渚先輩が目撃したら、まず間違いなく血の雨が降るだろう。
そんな、いかにもあり得そうな展開を思いついて、川中島はぶるりと震えた。
渚のこれから続く輝かしい野球人生を、ゴミ相手の殺人事件でフイにするわけにはいかない。
だから川中島は、男どもの背中に向かって精一杯叫ぶ。
「あ、あのっ! すぐに連絡するから! それまでは絶対こっち来ちゃだめだからね!」
「へーへー」
気の抜けた返事を気にする余裕もなく、川中島は難しい顔でスマホを取り出す。
さて、ここで誰に相談すればいいか。
自分の緊急回避能力が試されるこの場面で、川中島は灰色の脳細胞を必死に働かせた。
渚先輩に相談すれば、きっとブチ切れた先輩が大暴れするに違いない。
先輩男子マネージャーに相談? ムリムリ、あのお方こそ事態のヤバさを一番分かってない。
それ以外の誰に相談しても、行き着く先は結局くずは先輩だろうし。
……だったら直接、相談した方が早いよね?
そんな消去法による思考の結果、川中島はくずはの番号をタップした。
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