最終話 さらば斗いの日々、そして
私立風の杜学園高校、理事専用防音会議室。
時に秘密作戦会議、時に秘密転入試験などが行われた──ようするにくずはが権力を振るって、外部に復讐関係の秘密を漏らさないために使用する場所である。
そんな、いわば『男子マネージャーざまぁ全ての発信元』とも呼べる場所で、くずはが最後の『弟くんの敵絶対殲滅団』の秘密会議を終わらせようとしていた。ちなみに団名を付けたのは当然くずはだ。
「──最後に聞く! お前らの野望はなんだ!!」
「……マネージャーに一生らぶらぶ癒しマッサージしてもらうこと……あとめっちゃ甘やかして養いたい……」
「ボクは〜、にーくん専属の〜、ボディーガード兼殺し屋兼お嫁さんになることです〜」
「ボクは……お兄ちゃんにもっと、頭ナデナデしてほしい……」
「涼葉は、これからも兄さん唯一の妹として、オンリーワンの立場で優位に立ち続けることでしょうか?」
「お前ら欲望に正直すぎ! でももうボクたちの敵はいない! だからそれぞれの野望の火をたやすことなく、己の道をつき進みなさい!」
くずはが目に涙をじわりと浮かべて、
「今日限りをもって、弟くんの敵絶対殲滅団を!! 解散する!!」
これで弟くんの復讐劇が終わるかと思うと、とっても感慨深い。
──なんて思ってたのは、くずは一人だったようで。
次女の真希がパンパンと手を叩くと、三女の璃沙と西神田涼葉がなにやら会議室の模様替えを始めた。
「はいはい〜、じゃあ次の会議始めるから〜。ていうか即決軍法会議〜。裏切り者は死刑〜」
「え? なにそれ聞いてないよ?」
「言ってないから〜。だって被告は、姉さんと渚だからね〜」
「えっ!? ボク本当に、軍法会議とかされる覚えないんだけど!?」
「……どういうこと?」
「いいからそこに正座しやがれなの〜。早く〜」
真希は口調こそユルいが、その目は完全にマジだった。
完全に人殺しの目だ。
戸惑いながら机の前に正座する二人に、真希が裁判長っぽいそぶりで偉そうに言った。
「二人の罪はただ一つ〜。ぼくたちに黙って抜け駆けして〜、にーくんと勝手にセックスしやがったことです〜」
「「……!!??」」
「いや、くずはお姉ちゃんも渚お姉さんも、なんでバレたんだって顔してるけど、普通に考えたら分かるでしょーが?」
「……ねえ璃沙? 参考までに聞くけど、どこでそう思ったわけ?」
「あのね、くずはお姉ちゃん? 世界大会でテレビ越しでも丸わかりなくらい滅茶苦茶上機嫌で、そのうえ今までの自己ベストぶっちぎりで世界新記録更新しまくって、しかも会場にお兄ちゃん呼んでたでしょ? どうしてあそこまで天元突破で上機嫌かつ絶好調かって考えたら、答えなんて一つだからね?」
「ボクは〜、激励会とかぬかして連れだしたお泊まり温泉旅行が〜、とっても怪しいと思います〜」
「くっ。わが妹たちながら、なんて見事な推理……ああ、その通りさ!」
罪状をゲロりながらも、自分これでも弟くんと結ばれちゃいましたしー的なドヤ顔をかます佐倉前くずは被告の態度に『このバカ姉、マジで今すぐぶん殴りてぇ──』と二人の妹の心がシンクロした。
その横にいる渚が不思議そうに首を捻って、
「……じゃあ、ボクはどうして分かったの……?」
「だって渚ってば〜、世界大会のくず姉を野球部みんなとテレビで見てたときは激ギレしてたのに〜、にーくんが帰ってきた翌日には〜、滅茶苦茶上機嫌だったよね〜?」
「だから学校の保安システムにハッキングして、野球部部室と保健室と体育館倉庫に設置されてる監視カメラの映像を確認したってわけ。……ったく、どれだけ媚びメス顔炸裂させてるんだっての。お兄ちゃんに甘えすぎてて、腹立たしいことこの上なかったよ?」
「……監視カメラとか……なんて卑劣な罠……!」
結局、二人の被告人は犯行をあっさり認めた。
二人とも犯行時のシーンを脳内で再現しているのだろう、表情がニヤけまくっているのがまた腹立たしい。
裁判長兼検察官兼死刑執行人の真希は、とっとと判決を下して二人を気の済むまで殴り続けることを決意した。
カンカンカン、と小道具として用意していた木槌で机を叩いて、
「じゃあ最後に〜、いちおう弁明を一人ずつ聞いていくから〜。最初にくず姉から〜」
「言っておくけど、ボクのセックスは弟くんから誘われたんだからね? 具体的なシチュエーションを言えば、二人で一泊三十万円の高級旅館、清風閣の特別室に泊まって美味しい食事を食べさせっこして、その後に満天の星空が広がる露天風呂で綺麗な星空を眺めていると弟くんが言うわけよ。『ぼくね、お姉ちゃん専用の、スペシャルな癒しマッサージを用意したんだよ……よければ受け取ってほしいな』ってね♡」
「妄想乙〜」
「妄想だねえ。それにお兄ちゃんはくずはお姉ちゃんのこと、くずはさんって呼ぶし」
「も、妄想じゃないもん! たしかこんな感じだったもん!!」
「まあ寝言は〜、寝てから言いやがれということで〜」
普通なら『向こうから誘われたから』というのはそれなりの論拠であり、確かめる必要がある事項だけれど、今回の場合はハナから無視されている。
もしそうだったとしても、姉への怨みつらみが倍増するだけだから。
「渚は〜、なにかある〜?」
「……ある」
「なに〜?」
「……ボクが罪を受けるのは仕方ない。でもマネージャーの童貞を奪ったのは、くずは……だから、くずはは極刑に処して欲しい……」
裁判員の二人ははっとした。そうだった。
この抜け駆け姉はみんなで大事に大事に育ててきた、童貞すらも奪いやがったのだ。
それを聞いたくずは本人もニヨニヨしながら「いやあそうだよねえ、ボクってば、弟くんの童貞捧げられちゃったわけだもんねえ。童貞は二度捧げられないもんねえ」とか
童貞は二度捧げられないけど、お前は007よろしく二度殺してやろうかと真希が拳を強く握りしめたその時。
「──みなさん何を言ってるんですか? 兄さんの童貞は、涼葉がとっくに頂いていますが」
『はあぁぁぁ!!??』
今までずっと黙っていた涼葉が、とんでもない爆弾発言をしやがったのだ。
「どうにも話がおかしいと思っていたんですよ? なぜみなさん、兄さんとどっちが早くセックスしたとかしないとか、そこまで騒いでいるんだろうって。──ですが、兄さんを初物だと勘違いしていたのなら理解できます」
『………………』
「ちなみに、兄さんと涼葉が童貞と処女を仲良くダブル喪失したのは、涼葉がまだ幼稚園の頃で、寝ている兄さんのおちんちんを涼葉が勝手に挿入したのが最初でしたね」
『………………』
「もちろん今でもたまにやってますよ? 睡眠ックス。兄さんはまったく気付いていませんが、これも妹の特権というやつでしょう──おやみなさん、なにかご不満でも?」
『あるに決まってるだろうこのクソビッチがッッッッッッッッッッッ!!!!』
それからその場で、涼葉vsその他全員という、血で血を洗う殴り合いが勃発した結果。
防音会議室どころか校舎がまるごと全壊し、立て直しを余儀なくされたという話。
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