第47話 温泉旅館で癒しマッサージ2

 結局、くずはの動けないアピールは半日で終わった。


 その理由はしごく単純。

 朝になって、心配そうな顔で「もう大丈夫そうかな? お姉ちゃん……?」と聞いてくる弟くんにキュン死しすぎて、思わず「お姉ちゃんもうすっごく元気だよ!」などとアピールをしてしまったからだ。

 再延泊はできそうにもない。


「それよりお姉ちゃん、今が人生の中で一番身体の調子がいいんだけど? ひょっとして弟くん、なにかしたりした?」

「う、うんっ……あのね、ぼくのせいでくずはさんが苦しい思いしてるって思ったら、眠れなくなっちゃって──」

「弟きゅん……♡」

「それで一晩中ずっと、くずはさんの全身をね、心を込めて癒しマッサージしてたんだ」

「ファッ!!??」

「くずはさん元気になーれ、くずはさん次の大会で頑張ってねーって……その、ふとももは特に入念に揉みほぐしちゃったりしたんだけど……」

「フトモモ入念モミモミ!!」


 やー、そっかー。そうだったのかー。

 脚にあった違和感の原因やっと分かったわー。


 くずはがそう思いながら自分の下半身を見る。

 良く分からないけど、自分のただでさえ最上質の大腿筋が、さらに一回りパワーアップしたような印象があったのだ。朝起きたら上位レベルの脚部に付け変わっていたような。

 その違和感の原因は、弟くんのふともも揉み揉みで間違いない。

 感極まったくずはが西神田を抱きしめた。


「く、くずはさん!?」

「もう、弟くんってば凄すぎだよぅ……世界一速いお姉ちゃんを、これ以上速くしてどうするつもりなの?」

「え? え?」

「弟くんが一晩中癒しマッサージしてくれたおかげで、お姉ちゃんはまた速くなっちゃいました!」

「そ、そう言ってくれるならよかったけど……?」


 戸惑いながらそう答える西神田に、くずはが内心でそっと溜息をつく。

 まったく、弟くんってば自分がどれだけのことをしたか、全然分かってないんだから。


 ****


 食べさせっこは一日目の夜で終わったけれど、二日目の食事は三食とも、くずはの膝上で食べさせられた。


「く、くずはさん? どうしてこうなるのかな……?」

「弟くんは夜になったら、露天風呂でお姉ちゃんを膝の上に乗っけてくれるでしょ? だからその分、食事の時はお姉ちゃんが弟くんを膝の上に乗っけるのが、これ公平ってものじゃないかな?」

「そんな公平は聞いたことないよ!?」


 宿の食事は今日もとても美味しかった。

 そして夕食を終えて一休みした後、くずはが露天風呂に入ろうと誘った。

 もちろんと西神田が返事をして、二人で星空の広がる個室露天風呂に入る。


 くずはが気付かれないように弟くんの裸体をチラ見していると。

 西神田が緊張した面持ちで、くずはに向かって口を開いた。


「あ、あのね、くずはさん」

「なにかな弟くん?」

「──くずはさんに『ぼくに温泉旅行で、お風呂膝乗せ抱っこ癒しマッサージされたい』って言われたときからぼく、ずっと考えてたんだよ」

「どんなこと考えてたの?」

「くずはさんが一番気持ちよくなる、くずはさん専用のお風呂膝乗せ抱っこ癒しマッサージをするには、どういう風に工夫したらいいのかなって……」

「弟くん、嬉しい……♡」

「というわけでくずはさん、始めてもいいかな?」

「いいとも!」


 ねえ、これって告白? むしろプロポーズ?

 犯してくれって言ってるでしょこれ!

 くずはは体内のけものが荒ぶるのをなんとか抑え込みながら、そっと西神田の膝の上に腰を下ろす。

 最後まで迷った、白濁湯が売りの温泉旅館にしなくてよかった。

 だって温泉の中に、弟くんのおみ足がバッチリ見える。


「くずはさん……」

「弟きゅん……♡」


 嬉しすぎて頭がフットーしそうなほど興奮するくずはの前に、ずっと奪いたくて仕方なかった唇が近づいてくる。

 くずはが飛びつくように口づけした。


「んんっ♡ んんんんっ♡♡」


 長い長いキスの後ようやく唇を離すと、唾液の橋が二人の間に架かる。


「あ、あのねっ、くずはさん──」

「う、うんっ」

「ぼくがまだ、誰にもやったことのない、マッサージの。いつもお世話になってるくずはさんに、ぼくになにができるかって考えて……」

「ごきゅり♡」


「す、すっごく恥ずかしいけど……ぼくのエッチな癒しマッサージ、くずはさんの身体の中までグリグリって揉みほぐして、最後は真っ白に染め上げる、くずはさん専用スペシャルサービス……受けてみない、かな……?」

「受けりゅうッッッッッッッッッッッッ♡♡♡♡」



 そして二人は、一つに繋がった。

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