第39話 男マネを追放した野球部の崩壊3
どこで話そうか、という段になって渚は考えた。
どうせこの三人のこれからの事は、くずはたちに相談することになる。
ならば最初から聞かせた方が楽だろう。
「……もう一人、一緒でもいい?」
けれど三人は否定的な反応を示す。
「えー? せっかく渚と水入らずなのに?」
「身内ならいいけど……そうでない人はちょっと……」
身内。身内か。
マネージャーの幼馴染みは、身内に入るのだろうか。
「……質問。マネージャーの幼馴染みは、身内に入る?」
「いや入らないっしょフツー」
「間違いなく入らないと思うけど?」
「……じゃあマネージャーの妹は?」
「ううん……それはギリ入る、かな……?」
じゃあ、と渚が涼葉のスマホを鳴らす。
ラッキーなことに一発で出た。
「……あ、涼葉……いま前の野球部の……うん……そう……今ここに……えと、まだ殺しちゃだめ……」
ちょっぴり不穏な通話をする渚を尻目に、小石川みのりがヒソヒソと囁く。
(ねえ、ひょっとしてアレなのかな? 渚はすでに、マネージャーと家族ぐるみのお付き合いとゆーことなのかな?)
(くっ……信じたくないであります軍曹!)
(いやいや、転校先の学校で知り合ったとかかも知れないし!)
「……うん……連れてく……処刑はもう少し待っ……あ、切れた」
渚が三人を振り返って宣言した。
「これからマネージャーの家に行く。マネージャーはいないけど妹がいるから」
****
三人が連れて行かれたのは、どこにでもある民家……の庭先にある秘密通路を降りた先に存在する、謎すぎるトレーニング施設だった。
日本国内なのにシューティングレンジがあって、遠くに人型の的が見える。
冗談みたいに大きいバーベルがそこかしこに転がっている。
そして現れたのは、渚に輪を掛けて滅茶苦茶可愛いうえに、胸まで大きすぎる清楚系美少女だった。
ただしタンクトップのトレーニングウエアを着て汗だくなので違和感が凄い。
「わたしが、兄さんの妹の涼葉です」
「あ、どうも。マネージャーにはいつもお世話になって……」
「いいえ? 兄さんはもうとっくに、あなたがたのマネージャーではないはずですが?」
涼葉のあまりに冷酷な目つきに、三人が震え上がる。
「その様子だと、まだ何も知らないようですね。──いいでしょう。兄さんがどんな目に遭ったのか、そしてこれからあなたがたがどんな目に遭う予定なのか、逐一説明してさしあげます」
そして涼葉は説明した。
兄に襲いかかった突然の追放劇。
兄以外の男子マネージャーが兄に向ける、くだらない嫉妬。
知能がサル以下の監督、顧問、キャプテン、そして校長のしでかした所業。
三人は号泣した。
知らなかったとはいえ、自分たちが守ってあげられなかったマネージャーに、誠心誠意謝罪したいと願った。
そして涼葉の話は続く。
兄の追放劇が、絶対に触れてはいけない人間の逆鱗に触れたこと。
佐倉前くずはを長女とする三姉妹、そして兄の妹である自分。
どうやって復讐するのが一番効果的か、何度も話し合ったこと。
三人は号泣した。
知らなかったとはいえ、自分たちを公開処刑で地獄に突き落とす、まさに復讐の鬼というべき悪魔の計画に、どうか自分たちだけは見逃してくださいと誠心誠意土下座をかました。
「……なるほど。つまりみなさんは、野球部のレギュラーピッチャーとキャッチャーだったんですね」
「ぞうでずぅぅぅっ゛!!」
「ゆるぢでぐだざぃぃぃl!」
「じんじゃいまずぅぅぅ!!」
「ですが、理不尽に追放された兄さんの味わった苦しみに比べれば、試合でメッタ打ちされる程度では生ぬるいにもほどがあると思いますが? 渚さんもそう思いますよね?」
「……普通、バッテリーが一試合で何十点も取られたら……心が死ぬ……」
「心が死ぬくらい別にいいじゃないですか」
『ダメでづうぅぅぅぅぅ!!』
西神田涼葉。
兄以外の相手には、とことん情け容赦ない少女だった。
その後、三人が涼葉の裾にしがみつきながら必死で説得しまくった結果。
ついに涼葉から、
・兄に誠心誠意、命がけで謝罪すること。
・兄を含めた他の人間も許すこと。
・公開処刑の邪魔をしないこと。
それら三つを条件に、三人をとりあえずは叩き潰さないであげるという、大幅な譲歩を引き出すことに成功したのだった。
──それってどこが譲歩なの? などと聞くような人間は、そこには誰もいなかった。
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