第25話 組み合わせ抽選会と真っ黒な会議1
キャプテンには「ねえ渚。本当に予選抽選会、行かなくていいの?」と何度も聞かれたけれど辞退した。
世間ではどう騒がれようと、この野球部で自分はただの新参者にすぎない。
渚はその代わり、くずはが権力にものを言わせて手配した、学校の理事専用防音会議室で、キャプテンからの連絡を待つことになった。
会議室には渚のほかに、佐倉前三姉妹と、西神田の妹である涼葉が呼ばれていた。
会議の目的はただ一つ。
聖鷺沼高校野球部をいかに叩き潰すか、その計画を練ることである。
「──さてみんな、ようやく
「あのゴミクソどもは〜、トーナメント表の〜、反対側のブロックだね〜」
「そうだよ真希。一回戦とかで当たれば面倒なかったけど、まあこれはこれでメリットあるし」
「メリットって〜?」
「決勝戦っていう、最高に目立つところでぶっ潰せる」
「そっか〜」
くずはがホワイトボードに書いたトーナメント表を眺めながら渚に聞いた。
「渚、あのゴミ虫どもはちゃんと決勝まで残れそう?」
「ん……大丈夫……」
「ホントに?」
「……有力校はほぼ全部、こっちのブロックに来てるし……それにボク以外にも、マネージャーに癒しマッサージされてた選手が何人かいる……たとえボク抜きでも、負けるとか考えられない……」
西神田という超敏腕マネージャーの手で、およそ一年以上癒しマッサージされていた部員が何人もいるという事実は、くずはたちにとってそれだけで勝利を既定路線とするに足る要素だった。
「で、ウチの野球部はどう?」
「……大丈夫。絶対勝つ……」
「心配はしてないけど、でも有力校が集まってるんじゃないの?」
「……ボクとマネージャーが一緒なら……メジャーリーグのチームにだって勝てるよ……」
風の杜学園の入ったブロックは、いわゆる死のブロックと呼ばれる、強豪校のひしめくブロックだった。
トーナメント表を追っていくと、勝ち進んでいくごとに、嫌がらせのように強豪チームに当たりまくることが予想される。
それでも渚は、絶対に勝つと断言した。
「まあ渚を信じるけど。もしヤバい時には、ボクたちがフォローするから言ってね?」
「……分かった。でも大丈夫……全打席ホームランを打てば、普通勝つから……」
ホームランを打てばいい、という結論は一般的にに考えておかしい。
けれど渚に関してそのことを疑う人間は、日本のどこにもいないだろう。
なにしろ渚は現在までに、甲子園や国体などを合わせて公式戦100本以上のホームランを放っているのだ。
その凄まじさは、渚があまりに打ち過ぎたせいで『スポーツマンシップにもとる』として禁止された敬遠を復活させようという論議すら起きたほどだ。
とはいえ渚の派手なホームランを見たいという意見が圧倒的多数を占めた結果、敬遠復活を擁護する意見は散発的に立ち上がっては、すぐに集中砲火を浴びて消えるの繰り返しである。
「……それでも負けそうになったら、ボクが投げる……」
「渚って、ピッチャーの経験あるの?」
「無いけど……この前、軽く投げてみたら160キロ出た……普通の高校生に打てるはずない……」
キャッチャーがまともに捕球できるかはともかく、プロでさえほぼ打てないのは間違いないだろう。
ましてや相手は高校生なのだ。どう考えても絶対負けない。
「とはいえ渚のメインは打撃だしね。ターゲットは決勝なんだし、それに合わせて勝っていきましょう」
くずはの言葉に頷く一同。予選の途中はほどほどでいい。
自分たちのメインディッシュは、別にあるのだから。
そして会議は佳境を迎える。
「それで、決勝戦であのゴミクズ野球部相手にどうするかってことだけど……」
くずはが一同を見回して、
「まず、璃沙以外のボクたち全員がスタメン出場する。渚は当然として、ボクと真希、涼葉ちゃんが加わるから、全部で四人ね」
「ええっ? くずはお姉ちゃん、ボクは?」
「あのね璃沙……何をどうやっても、中学生が高校野球の公式戦に出場するのは不可能なのよ……」
「がーん!!」
「そんなの考えなくたって分かるでしょ……その代わりホラ、璃沙はあのドブゴミ野球部を最後までぶっ潰し続けられるわけだから……ね?」
「どうせその前に潰しちゃうつもりのくせに……」
璃沙はくずはの性格をよく知っている。
あの弟くんを追放なんて真似をした相手を、くずはが立ち直れる程度の屈辱なんかで済ませるはずがなかった。
どうするつもりか分からないけれど、遅くとも数年後には、野球部はとっくに廃部になっているはずだ。
ひょっとしたら学校自体が消えて無くなっているかもしれない。
「話を戻して、その決勝戦──渚には全打席、場外満塁ホームランを打ってもらうから」
渚がさすがに息を呑む。
全打席ホームランを要求されるのは、正直言って予想していた。
けれど満塁ホームランを打つためには、打順が回ったときにランナーが三人いなければいけないのだ。
「……どうするつもり?」
「簡単でしょ。ボクたちがいるんだから、渚の前にボクと真希と涼葉ちゃんが塁を埋めればいい」
「あっ……」
「いっておくけど渚、もし一打席でも場外ホームランにしなかったら、次の打席からボクたち好き勝手に打つからね? その意味分かる?」
「……もちろん」
くずはたちが好き勝手に打つということは、絶対に特大場外ホームランを打つという意味だろう。
つまりそれは、渚のホームランがソロホームランにしかならないということ。
「とはいえ渚が派手に満塁ホームランでぶっつぶすのが一番ざまぁで、敵に最大ダメージを与えられると思うから、渚に花を持たせてあげる形になるけど」
「うん……」
「でもその実力が無いってなったら、ボクたちによる粛正タイムが始まるわけ。そこはきちんと認識しておくように」
「……がんばる」
決意を秘めた渚の顔つきに、くずはが軽く頷いた。
「じゃあこれから、野球部に挨拶でも行きましょうか」
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