第26話 組み合わせ抽選会と真っ黒な会議2
抽選会場から帰ってきたキャプテンを加えて、西神田以外の野球部員全員が集まったのは、偶然ではなくくずはの手配によるものだ。
マネージャーには用事を頼んであるのでここにはいない。
くずはと渚が転校の真相を話すと、野球部員たちは本気で荒れ狂った。
入部からわずか数日の間で、新人男子マネージャーによる癒しマッサージは、部員全員を虜にしていたのだ。
「はぁ? あのゴッドハンド癒しマッサージ大天使様を追放とか? アタマ沸いてるんじゃないんですか?」
「あの極上トロフワ極上癒しマッサージの良さが分かんないとか、マジでレベル低すぎでしょ!?」
「その結果マネージャーどころか渚にも逃げられるなんて、クソダサすぎてあたしのざまぁが有頂天なんですけど!!」
そして、男子マネージャーには内緒で聖鷺沼高校野球部に復讐したいという話は、満場一致で可決された。
少し難色を示されたのは、くずはと真希、涼葉も助っ人として参加したいという部分だ。
「くずは様の陸上の実力はよく知ってるんですけど、野球となると……」
「まあ、ボクたちの実力を見なくちゃ納得いかないよね。もちろんいいよ?」
部員とくずはたちが、道具を持ってグラウンドへと移動する。
「じゃあピッチャー涼葉ちゃん、キャッチャーは真希ね。野球部は、渚以外で一番打てるバッターをお願いしようかな? もちろん交代もオッケー。それで勝負に勝ったら出場していい、ってことでどう?」
「了解です。それで勝負の条件は?」
「野球部は何打席でも好きなだけ打っていい、勝利条件は……少しでもボールがバットに掠ったら、ってところでどうかな?」
「はあっ!?」
なにその条件舐めすぎでしょ、と部員たちが憤慨したのも涼葉が一球投げるまでのことで。
「涼葉ちゃん、野球部準備オッケーだって」
「では投げますね──」
制服姿のままの涼葉が、ダイナミックなフォームで脚を上げる。
涼葉の短めのスカートがまくれて、純白のパンツが丸見えになった。
あれ、これ素人にしてはフォームよくなくなくない? などとキャプテンが思った次の瞬間。
ズドオォォォォン!!!!
轟音が響くと同時に、ボールがミットに瞬間移動していた。
少なくともバッター含めて、渚以外の野球部員たちには、そうとしか見えなかった。
真希のキャッチャーミットからは、白煙とともに焦げ臭い音が立ち込めているような気がした。
「なっ……!? ななっ……!?」
言葉にならないキャプテンに渚が苦笑する。まあ普通そうなるよね。
この状況は言うなれば、幼稚園児の野球ごっこで、メジャー最速の投手が本気で投げたようなものだ。
というか実際は、多分それ以上の実力差。
自分は辛うじて球筋が見えたけど……打てる気なんて全然しない。
というか投げた涼葉はもちろん、あの球を平然と受ける真希だって相当のバケモノだ。
「涼葉ちゃん、どんどん投げていってー」
「分かりました……どれだけ投げても、渚ちゃん以外に打てるとは思えませんけどね?」
ドゴオォォォォン!!!!
チュドォォォォン!!!!
はっきり言ってキャッチングの音とはとても思えない爆発音が響き、ボールは誰が何打席立ってもワープしてるようにしか見えない。
野球部員のプライドはズタボロだった。
野球部でもなんでもない子の投げる球を、見ることすらできないのだから。
「ご、ご、ごめんなじゃぃっ……あだじだぢの、まげでずぅ……ヒック……」
「──あれ、どうしたんですか? キャプテンが泣く必要なんてどこにもありませんよ? じゃあ次は打つ方をやりましょうか?」
「ど、どうするつもりですかっ!?」
「簡単ですよ。野球部のピッチャーが投げた球を、ボクたちが必ず場外ホームランにします。もちろんそちらのピッチャーが投げられる限り何球だって……」
「ややや止めてくださいお願いしますからっ──!!」
くずはは知らなかった。
打撃練習で場外ホームラン──学校の外までボールを飛ばすと、回収やら事故の危険性やらなんやらで、大変面倒くさいことになるのだ。
キャプテンがマジ泣きしながら、止めてくださいと絶叫するのも当然なのだった。
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