第3話 くずはに癒やしマッサージ
くずはにマッサージをお願いされた西神田が
「もちろんだよ。じゃあくずはさん、ベッドに座ってね?」
「んっ♡」
マッサージしやすいように、くずはが制服の上着を脱ぐ。
くずはのブラウスは下から双球にきつく押し上げられて、ぱんぱんに張り詰めていた。
「くずはさん、また大きくなったよね。いま何センチあるの?」
「三日前に測ったときは、130のWカップだったよ。ブラも三ヶ月前に買ったやつだから、もう小さくて……だから今度いっしょに、弟くんと新しいブラ買いに行きたい」
「は、恥ずかしいから……」
「ダメ? どうしても?」
「も、もうっ。くずはさんはしょうがないなあ」
「やった♡」
くずはの身体は全身凄まじく鍛え上げられており、とくに下半身の発育ぶりは世界一と言っても過言ではない。
くずははいわゆる陸女というやつだった。
それも小学四年生の時に50メートル小学生世界記録を塗り替えて以来、陸上界のトップを走り続けて、高校二年時の去年には世界で唯一100メートルで8秒台に突入した、ありえないほど異次元の才能の持ち主だった。
少なくとも世間ではくずはを陸上の女神、もしくは陸上モンスターに違いないと信じられていた。
けれどくずはが自分の才能に慢心したことはない。
くずはは知っているのだ。
今の自分の100メートルベストが、元世界記録を一秒半も上回っているのも。
バスケットボールを遙かに上回るバストを誇りながら、なおタイムが伸びているのも。
すべていま自分の目の前にいる、唯一無二の存在である弟くんに、十年以上自分の肉体をずっと癒して、マッサージし続けていただいた結果なのだということを。
「くずはさん、物足りなかったら遠慮無く言ってね」
「んっ……♡」
西神田の手がくずはのふとももに伸びる。
「しょこ、癒されすぎるよっ♡」
くずはの全身に、甘い電流が走った。
週刊誌やネット掲示板などでは、オトコに癒しマッサージしてもらっても気持ち良くなんてない、またはオトコに揉んでもらったけど思ったほど気持ち良くなかったという意見がある。
理由一つ目。オトコのマッサージでは、女が望むような力強く荒々しいマッサージは難しいこと。
理由二つ目。オトコは女の身体のツボが分かっていないこと。
理由三つ目。オトコが癒しマッサージしてやってるんだから気持ちいいに決まってるだろう的な考えが透けて見えること。
理由その四。オトコが筋肉を揉むときは基本イヤそうな顔をしているので見ていると萎える。
いずれの理由も説得力があり個別の反論もほとんど無く、争点は『それでもオトコに癒しマッサージしてもらったほうが気持ちいいか否か』であり、大半の女性はそれでもオトコに揉んで欲しいと結論づけるのがお約束だ。
けれどくずはは知っている。
そんなのは、本当の癒しマッサージを知らないだけなのだと。
「も、もうっ♡ 弟くんのマッサージ、いつもにも増して気持ち良すぎるよっ……♡」
くずはの知る最高のマッサージは、自分で揉むのと比べものにならないくらい、遙かに気持ちいいものなのだから。
****
癒しマッサージが終わって軽くスキンシップしていると、くずはがこんなことを言い出した。
「ねえ弟くん。お姉ちゃん来週月曜から三日間、陸上の合宿があるんだけど。一緒に弟くんも来ない?」
「え? だってぼく部外者だよ」
「そこは大丈夫。ボクにはこれでも、専属のマッサージマネージャーを捻じ込むくらいの実績と権力があるから」
「えー。でも……」
「本当に絶対平気だよ? だってボクがいいって言ってるんだから。ボクの機嫌を損ねたら、お偉いさんの首なんて簡単に総入れ替えだからね」
それはそうかもと西神田は思う。
なにしろくずはの機嫌を損ねれば、絶対確実の金メダルを何個も失うことになるのだから。
「でも平日は学校があるから……」
「そこも平気。お姉ちゃんが公休取れるように根回ししておくから」
自分の学校や部活行事でもないのに、どうして公休が取れると言い切れるのか謎だ。
けれどくずはがそう断言したとき、今まで必ずその通りになってきた。
だから何か手があるのだろう。
「それになにより、お姉ちゃんが弟くんと一緒に合宿に参加したいんだけど……ダメかな?」
「くずはさんは仕方ないなあ。分かった、ぼくも行くよ」
本日二回目のお願いに、西神田はあっさり折れた。
なんだかんだ言って、彼もくずはのことが好きなのである。
だからお願いは、できるだけ聞いてあげたいのだ。
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