第2話 幼なじみの三姉妹長女、佐倉前くずは
西神田がふらふらとした足取りで自宅に戻る途中、後ろから声を掛けられた。
「弟くんじゃない、こんな所で出会うなんて偶然だね?」
西神田が振り返ると、嬉しそうに笑顔を浮かべていたのは佐倉前くずは。
西神田家の元お隣さん家の長女で、今年高校三年生の才媛である。
「くずはさんこそ、こんな早く帰るなんて珍しいね」
「んー、ちょっとトラブルで部活がお休みに……って、どうしたの一体?」
ラッキーな偶然に浮かれていたくずはだが、西神田の様子がおかしいことに気づいた。
くずはが優しい表情で、西神田をふわりと抱きしめる。
長さ30センチの定規が縦にも横にもすっぽり埋まるくずはの爆乳の谷間に、西神田がすっぽりと包まれた。
「ねえ弟くん、久しぶりにボクの部屋いこっか?」
「え? でもくずはさん、マッサージするならぼくの部屋の方が準備が」
「そんなのいいから、帰ったら弟くんのお話いっぱい聞かせて? お姉ちゃんがなんでも聞いてあげるから……ね?」
「……うん。ありがとう」
いつの頃からか、くずはは西神田のお姉ちゃんを自称するようになった。
弟くん、と呼ぶようになったのもその頃からだ。
ある時、なんでそう呼ぶのかと聞いたことがある。
普通の姉は弟のことを名前で呼ぶのではないかと。
くずははさも当然だと言わんばかりに答えた。
名前で呼ぶ人間は他にもいるけど、弟と呼べるのは自分しかいないでしょ、と。
「……ところでくずはさん、そろそろ解放してくれない?」
「なんで? 弟くんならお姉ちゃん、いつまででも抱きしめてあげたいな?」
「いやそもそもこのままじゃ歩けないし」
「そこは大丈夫。お姉ちゃんがお姫様だっこで連れて行くから」
「え、ちょ……!?」
お姫様が王子様にすると言われる横抱き、いわゆるお姫様だっこ。
道路の真ん中でそんなことをされれば、さすがに恥ずかしい。
「くずはさん、ちょっと!」
「だれにも弟くんだって分からないから平気だよ? だって弟くんの顔はお姉ちゃんのおっぱいで隠れて見えないから」
「くずはさん、痴漢で逮捕されても知らないからね?」
「……その時は弟くん、ちゃんと弁護してよね?」
「えー、どうしようかなー。くずはさん横暴だしなー」
「そ、そんなことないよ!?」
慌てて否定しつつも解放しないくずはは、やっぱり横暴だと西神田は思った。
****
最初は心配そうにしていたくずはだが、マネージャー追放のことを話し始めるとすぐに顔を真っ赤にし、話し終えるころにはまさに笑顔の般若としか言いようのない、羅刹のごとき存在となっていた。
「──というわけなんだ、くずはさん」
「わかったよ弟くん。そいつら皆殺しにするね♡」
「ダメだよくずはさん!?」
「安心して、簡単になんて殺さないから。──お姉ちゃんがきっちり全身の骨を擂り潰して、内蔵を破裂させて、目を抉って……これ以上無い苦しみを味合わせて、殺してくださいって哀願しても無視して、完全に気が狂ってからこの世界に肉片の一つも残らないように、完膚なきまでに擦り潰してあげるからね?」
「それじゃ完全に悪の裏ボスだからね!?」
「お姉ちゃん、弟くんのためなら悪魔にだって魂を売りたい」
「それ売っちゃだめなやつだから! 落ち着いてお姉ちゃん!」
西神田が慌ててくずはに飛び込み、力の限り抱きしめた。
くずはが暴走したときの最終手段。
どんなにくずはが怒り狂っても、これをやられると猫がマタタビを嗅いだように大人しくなるのだ。
「……ふにゃぁ♡」
「くずはさん、少しは落ち着いた?」
「う、うん……ごめんね? 弟くんが耐えてるのに、お姉ちゃんがブチ切れちゃって」
「ううん。ぼくの代わりに怒ってくれて、ちょっと嬉しかった。でも暴力はダメだよ?」
「……分かった。直接的な暴力は控える」
「かなり不安だけど、分かってくれてうれしいよ」
くずはの身体から頭を離すと、くずはが物足りなそうに胸元を見て言った。
「でもね、ちょっとだけ良かった、って思うことはある」
「えっ?」
「そんなクズどもには、たとえ一秒でも弟くんにマッサージして欲しくないから」
「どうして」
「弟くんの癒しマッサージは、そんな連中には勿体ない素晴らしいものだからだよ。弟くんはもっと自覚すべき。そんなゴミ女どもにどう言われたって、弟くんのマッサージは凄い。だからそんなゴミクズは無視して、自分の癒しマッサージはすごいんだぞって、胸を張ってなくっちゃダメだよ?」
「う、うん。分かった」
「というわけで弟くん」
くずはは自分の爆乳をたぷんっと揺らして言った。
「さっそくだけど、お姉ちゃんにマッサージ──お願いしていいかな?」
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