第4話ジュピターメタル

この扶桑には4箇所の研究室がある。今回はその一室を利用し、ジュピターメタルの解析を行っていた。ジュピターメタルは云わばゴミと呼ばれている金属だ。木星宙域に無尽蔵に存在し、ダイヤモンドよりも硬い金属。日本が発見し、全世界に広まった。各国の科学者が解析し、発見から6年で結果が出た。現状、人間にこの金属の加工は不可能である。それは国連を通じて全世界に報道され、ジュピターメタルは硬いだけの邪魔者として評価を受ける事になったのだが、、、


「ははっ、マジでジュピターメタルを加工しやがった」


「七美軍曹のお父上は秀才ブー。でも、驚きブー。まさか、血液を一滴足らすだけで加工が可能になるなんてブー」


確かにそうだ。人間の血液を与える等といった行動は普通考えつくはずがない。いったいどの様な考えで行ったのだろうか。だが、今はそれどころじゃない。


「ピッグマン、サマナとネヴィルにも話すなよ」


「それは理解してるブー。それよりも七美軍曹は大変ブーな」


「えっ?何故ですか?」


「七美軍曹、これからジュピターメタルの加工法を艦長に報告する義務がある。素晴らしい事だぞ、七美軍曹の昇進は確定だろうな。出港から1日で、、、素晴らしいよ。もしかしたら、俺より階級が上がるかもな」


七美軍曹は理解していないのか、良くわからないと言った表情を此方に向けてくる。


「詳しく説明してやりたい所だが、此方としても時間が惜しい」


俺は直ぐに艦長室へと向かった。


「蓊艦長、遊佐龍馬中尉及び藤木七美軍曹であります。入室の許可を頂きたいのですが」


「うむ、入れ」


「はっ!失礼します」


七美軍曹は初めての入室と言う事もあり、ガチガチに固まっていた。


「機密性の高い情報という事もあり、こうして直接艦長をお伺いした所存であります」


「ふむ、では聞こうか」


「はっ!簡潔に申します。我々はジュピターメタルの加工法を確立しました」


「、、、そうか流石に簡潔すぎる。詳しく話してくれないか?」


「はっ、事の発端は、、、」


そこから俺の機体の改造からジュピターメタル加工へ至った流れを話した。蓊艦長は時折、考えるように目を瞑りながら話を聞いていた。


「では、藤木七美軍曹の功績という訳か。本国への報告はどうする?我々は現在ワープ航法を用いて木星圏にいる。この場合一番近い基地となると、、、国連宇宙軍のガニメデ基地となるが」


「藤堂元帥に報告すればどうでしょうか?あの方ならば功績を全て自分の物にする事は無いでしょう」


藤堂元帥は蓊艦長にとっても旧知の中である。あの方なら此方の報告を無下にする事は無いだろう。それにガニメデ付近にはジュピターメタルの集積地があったはずだ。これはジュピターメタル発見当時の名残で古い資材と集めただけのジュピターメタルが腐る程ある。


「それはわかったが、中尉。いや龍馬、ここからは父親として話を聞きたい。ジュピターメタルで何をしたいんだ?」


「小官専用機をグレードアップしたいのです。重装甲と高起動、これは小官専用機のコンセプトでもあります」


「ふむ、、、嫌駄目だ。これは高度な政治問題に関わる。ジュピターメタルは硬い。つまり防御力が高い、それだけでミリタリーバランスは崩れる事となる。七美軍曹には悪いが、報告は避けさせて貰う。話は以上か?」


「はっ!失礼しました」


七美軍曹を連れて艦長室をでる。ある程度離れた所で、俺は七美軍曹に謝罪した。


「すまない、俺が焦った。七美軍曹、君に恥をかかせてしまった責任は俺にある。本当にすまなかった」


「え?あっいえ、気にしてはいません。それよりもピッグマンさんの所に戻りましょう。きっと格納庫に帰ってますよ」


七美軍曹の言うとおり、ピッグマンは格納庫でスカーフェイスのメンテナンスを行っていた。


「ふむ、駄目だったブーか」


「ミリタリーバランスを考えてなかった俺のミスだ。七美軍曹に恥をかかせちまってな」


「七美軍曹、僕もごめんなさいブー。ミリタリーバランスは僕も考えてなかったブー。何気に押したのは僕も同じブーから」


「もう!気にしないで下さいって言いましたよね?!私はもう大丈夫ですから、ほら周りが見てますから!恥ずかしいですから!」


確かに、人目につく場所では不味かったな。後で何か贈り物を考えておこう。そんな時だ。扶桑の警報が鳴り響いた。


「エマージェンシー発令民間船が宇宙海賊に襲撃されているもよう、トーリスリッター連隊は機体にて待機せよ」


「?!ピッグマン、スカーフェイスは使えるか!」


「使えるブー!けど外装のほとんどが外されてて、ほぼスケルトンブー!」


※スケルトン

ドールの外装が外されて、内部機構を保護する最低限の装甲しか施されていない事


「なら」


話を続けようとした時、スカーフェイスのモニターに連隊長が映った。何時もと違うのは謎のプレートを持っている事だ。


「よお連隊長のロバートだ。今回は出現する奴をルーレットで決めようと思う。うちの150ある小隊から3小隊、、、ダン!なんと第97小隊、第14小隊、第66小隊だ。では宇宙海賊討伐にいってこいよ!」


連隊長の行動は子供っぽいが、これなら誰が出現するかでもめる事は無いだろう。援軍が必要なら後から送れば良いんだ。まぁ、ドール60機を宇宙海賊ごときが破れるとは思わないがな。


「ゆっくりできるブー、でもスクランブルが無いとも言えないブー。サマナ君、ネヴィル君、外装取り付けるブーよ」


「「了解ですチーフ」」


「私もやります!」


「七美軍曹ありがたいブー、ならコックピットの外装をお願いするブー」


「邪魔になる前に消えるさ、んじゃな」


軽い別れを告げ、俺は格納庫を後にした。格納庫を見渡せる位置まで行き、ふと考える。分隊として訓練をしていない事を。小隊規模での訓練でも良いが、そうヤりたいって奴もいないだろう。


「仕方ない、射撃訓練でもするか」


俺は通信機を展開すると分隊員に連絡をした。今の時間は1600なら、30分後辺りが妥当だな。


「第1小隊第1分隊、各員これより4訓練場にて射撃訓練を行う1630迄に集合せよ」


俺も急いで向かう。格納庫から一番遠い第4訓練場を選んでやったんだ。俺より先に何人かは来ている事だろう。と思って来たは良いものの、現在啓と未来准尉、剛少尉の3人つまり分隊の半数と共に歩いている。


「これで花菜の奴が先にいたら俺は終わる。きっと殺されるだろうな」


「龍馬中尉、流石に言い過ぎだと思いますけど」


「まあな、死ぬは言い過ぎかな」


「先輩!逃げて下さい!」


そう言って俺の前に転がって来たのはグレネードだった。しかもスイッチが入りタイマーが作動している。残り秒数が1秒を切り、0となった。


「クソガァァァ!」


バァン


けたたましい音とペンキが俺の制服を襲う。訓練場と言うことで、助かった。これが本物だったら俺の体は木っ端微塵に吹き飛んだ事だろう。


「あの~、龍馬中尉。タオル有りますけど」


「未来准尉、君は言ったな?言い過ぎだと、もし今のが本物だったらどうする?まぁ良いがな!第1分隊、これよりVRにて射撃訓練を行う。ミッション内容は敵拠点の制圧だ。良いな!」


※VR訓練

バーチャル空間にて現実に近しい環境を作り、訓練を行う事。特殊なポッドにて吊り下げられる状態で行われ、地面の感触は戦場にて兵士が嗅ぐ匂いや受ける風の感覚、武器を所持し、撃つ感覚、そして痛みをナノラによって擬似的に体験させられる。なお、殺された瞬間その人物は接続を絶たれ、ポッドから出される。


「それでは皆さん。私もサポートさせて頂きます。龍馬中尉、開始のアイズをお願いします」


いきなり現れた扶桑に驚くが、元々俺達は彼女の中にいるんだ。彼女が何処に現れても不思議じゃない。


「では扶桑、1分後に自動開始を頼む。各員は死ぬ覚悟を忘れるなよ」


「「了解!」」


こうして初めての分隊訓練が始まった。












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