第154話 目的
ゴーン、ゴーン...
重厚な鐘の音が教会中、いや都市中に響き渡る。聖王国へ来てから何度か聞いた、正午を知らせる鐘だ。
「いや、まだ!この盾さえ壊せれば!!」
正体さえ分かれば壊すのは容易い。
きっとこの盾は光属性の魔法。先程のように闇魔法を当てればすぐに破壊できる。だからその後すぐシエルの救出をすれば———
鳴り響く鐘の音に構わず、盾の破壊を続けようとしたそのとき、
「———!!!!!」
ただでさえ膨大であった魔法陣内の魔力量が更に10倍、20倍へと跳ね上がった。その間、わずか数秒。しかもそれに比例するように魔力の邪悪さも上がっていく。
「クッソ!!!!」
流石に身の危険を感じ、俺は魔法陣からの退避を余儀なくされる。
魔法陣から離れると、その膨大な魔力はシエルの体を包み込むように巨大な球体へとその姿を変えた。
「無事かアルト!なんだこの禍々しい魔力は!」
その直後、イヴェル達生徒会の面々が扉を勢い良く開けて屋上へと姿を見せた。
その中にシャーロットの姿はない。きっと礼拝堂にいるのだろう。
「あの魔力の正体は分かりません…ですが、あの中心部にシエルさんが…」
「何!?あの中にシエルが?救出は、」
「…間に合いませんでした。本当にすみません」
魔法陣の方を見据えながらイヴェルへ謝罪をする。シエルを救えなかったのは完全に俺の油断が原因だ。
「…そうか、分かった。——ルミリエル大司教、シエルに何をするつもりだ、貴方の目的は一体何だ」
部分的な説明ながらもイヴェルは大体の状況を察知したようで、魔法陣の前でニコニコと笑みを浮かべるルミリエルへと問う。
「ほ、ほ、ほ。どうせすぐに分かることではあるのですが…まあいいでしょう。今の私は機嫌が良いので特別に教えて差し上げましょうか。まず私が何故、女神祭に合わせて寵愛者と巫女の二人をここへ招いたか分かりますか?」
「…?、それは2人に女神の代行者として女神祭を楽しんでもらうためにと——」
「そう!その通り!寵愛者と巫女の2人に女神の代行者となってもらうためです!つまり、寵愛者と巫女には女神の器たる素質があると言うこと!勿論、その母体は女性である必要がありますし、その他諸々の条件もありますが——今回、それらがすべて揃いました!」
かなりテンションの高めなルミリエルはイヴェルの言葉を横取りし、手を大きく広げて自慢するように言った。
寵愛者と巫女は女神の器になり得る?たが、母体は女性でなければならない?それってどういう——
「——!!、つまりお前の目的は、」
「ええ、私の目的は女神を巫女の体へ降ろすことです。…ここまで本当に長かった。あの天啓の流れ星を見たあのときから——聖女への工作、女神を降ろすための魔法陣や詠唱の準備、時間帯などの条件の調査。一番大変だったのは女神を降ろしやすい環境を整えることでしたが——男の寵愛者に光魔法を扱える巫女、そして光魔法の使い手が複数いれば十分でしょう」
「まさか、オスカーを使ってアイラを誘拐したのも」
「そうですね。厳密には結果的にという形にはなりますが、グレース王国の王族がこの真下に3人。そのうちの2人は素晴らしい光魔法の使い手なのだとか。ここまで条件が整っているのです。きっと私の目的は達せられることでしょう」
ルミリエルの言葉が切れると同時、掛け時計の秒針が丁度一周し、その分針が右にひとつだけずれた——次の瞬間。
「!!、魔力が消滅した…?」
つい先程までシエルのことを覆っていた球状の膨大な魔力が嘘のように消滅した。
そして、一瞬前まで大量の魔力があった魔法陣の中心には相変わらずシエルが横たわっている。一見、特に変化は無さそうに見えるが…
「シエル!!」
その姿を見たイヴェルがシエルの方へ駆け寄ろうとする。
「…アルト?」
「イヴェルさん、駄目です。あれはもう、シエルさんじゃない」
俺はそのイヴェルの手首を掴み、それを制止した。
「貴様!あれが副会長ではないというのはどう言うことだ!どう考えても副会長に違いないだろう!何を考えている!」
「…お前には分からないかもしれないが、あれの魔力の流れ方は普段のシエルさんと全く違う。外見上はシエルさんでも、中身は全くの別物だ。あと、俺もここからは集中したい。うるさくするなら下で賑やかしでもしていてくれ」
それらの行動にいちいち騒ぎ立てるルーカスへ、一度強く忠告をする。
シエルの魔力の様子から、彼女に別のナニカが宿ったことは間違いない。それが女神エリーナであればまだいい。エリーナは神という立場にある自分の行動を弁えていた。事情を話すことができればなんとかしてくれるだろう。
だが、宿ったものがエリーナではない他のナニカだった場合。例えば邪神、悪魔、幽霊などだってありうる。それらだった場合、シエルから追い出すことが非常に面倒、もしくは厳しい可能性が高い。
まずは、あのシエルの中に入っているものが何かを見定める必要がある。そのためには彼女の一挙一動を注意深く観察しなければならない。ルーカスに構っている暇などあるはずもない。
「ん〜、ん?あれ?ここ、どこ?」
直後、目の前にある魔法陣の中からそんな間の抜けた声が聞こえてきた。
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