第115話 VS.100層
気がつくと、そこは色鮮やかな花畑だった。
あれ...ここは、どこだ...?
辺りを見渡すと、少しだけ離れたところで四人の少年少女が楽しそうにお喋りをしていた。ゼル、ホロウ、ライカ、レーテルの四人だ。こちらに気がついた彼らは、俺へ向けて笑顔で手を振る。
どうやら、俺を読んでいるようだ。
ああ、今そっちに行く。
俺は彼らのいる方へ向けて走り出す。
10秒と経たないうちに彼ら元へたどり着く、はずだった。
あ、れ?
しかしどれだけ懸命に走ろうとも、彼らとの距離が縮まることはなかった。むしろ、時間が経つにつれてその距離は遠ざかっていく。
待って、待ってくれ。
俺を、置いて行かないで———
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「かハッ!はぁ、はぁ、はぁ.....夢、か」
飛び起きた俺の目に映ったのは、殺風景な石造りの通路だった。ここは…グレースダンジョンの中か。
なんとも嫌な夢を見たものだ。
まあ、ここ最近は眠るたびに悪夢しか見ないのだが。果たしてこれは過去のトラウマから来るものなのか、他にもっと明確な理由があるのか。はたまたその両方か。
「…久しぶりに結構寝れたな。」
嫌な汗をかきながらも、寝る前と比べて自身の体が大きく回復している事を感じる。
悪夢に苛まれるようになってからというもの、あまり良く眠れた試しがなかった。特に、あの日の直近の3日間は一睡も出来なかった。
だが今日はよく眠れて良かった。何故なら今日は———
「この先が100層...遂に辿り着いた。すぐに攻略してやる」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの日からどれだけ時間が経ったのかは分からない。もしかしたら1ヶ月程度かもしれないし、既に1年を過ぎているかもしれない。
そんなことを意識する暇などないくらいにダンジョンの攻略は熾烈を極めた。
正直、75層まではなんとかなった。階層主の強さもカイナミダンジョンのそれと同程度であり、それらに苦戦した記憶はない。
だが、それ以降が地獄だった。
空を飛ぶワニ、腕が容易く吹っ飛ぶ威力のレーザーを放つ蟻、様々なモンスターの能力を併せ持つ猿etc...。
階層主のみならず、一般の階層で現れるモンスターでも非常に厄介なものが多かった。戦闘後に気絶したり身体の一部が欠けることは当たり前、そこの前後の記憶がポッカリと無くなっている階層もあった。死にかけた回数など、両手では到底数え切れない。
そんな超極限状態だったからこそ、俺の身体にもさまざまな変化が起きた。
まず、純粋な身体能力の向上。
大小を問わず絶えず発生する怪我により、回復魔法を使い薬草を摂取しまくっていたせいか、俺の体は前までよりもかなり機敏に動けるようになっていた。こういうのを超回復っていうんだっけか。
更に目も良くなった。単なる視力的な話ではなく、動体視力の話だ。その結果、相手の一挙一動を注意深く観察できるようになった。それに頭も対応して、今では初見だとしても相手の行動からその弱点まである程度の予測をすることが出来る。
他にも魔力操作の技術が向上して魔力の出力がより円滑になったり、空中歩行をほぼ完璧に使いこなせるようになっていた。
「お、ぶねぇ!」
俺は100層の階層主——真っ黒な体に真っ赤な瞳の巨大な地龍——のブレスをすんでのところで避ける。身体能力がかなり上がったとはいえ、このダンジョン内ではギリギリ戦えるというくらいの水準だ。
このドラゴンと100回戦ったら99回は俺が死ぬ。だが、残りの1回を今持ってくればいいだけだ。
「グルルルルゥゥゥゥゥ....」
闇雲に攻撃をしても意味がないことを悟ったのか、ドラゴンはこちらの様子を伺うように一定の距離をとる。
「そうだよな。お前は賢い。自分の力を過信せず確実に勝てる方法を考える。だがな、」
ドカッ
俺との距離をとるため、更に後ろへ一歩に下がった地龍は一瞬でその姿を消す。そしてその直後、大きな質量のナニカが床に落ちるような音が響いた。
ドォォォォン!!!!
「それは所詮、強者の賢さだ。弱者の賢さを舐めんな」
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