第78話 両親参戦!
時は流れ、学園の文化祭前日。
「まあ、ここが王都!なんだかすごく賑やかね!」
「母さん、あまりはしゃがないでくれ...恥ずかしい」
俺はヌレタ村から王都へやってくる両親を出迎えていた。
初めての王都にテンションの上がる母さんとそれをやんわりと窘める父さん。父さんが母さんを注意するなど珍しい。その逆は数え切れないほど見てきたが。
「父さんはせっかくの王都なのにいつも通りだね」
「ああ、昔に何度か来たことがあるからな。この街並みや喧騒にも慣れている」
その理由を父さんへそれとなく聞いてみると、そんな返答が返ってきた。
なるほど。いつもは母さんの尻に敷かれているから忘れがちだが、かつての父さんはある程度名の売れた冒険者だったんだっけ。
そう言えば、俺の冒険者ランクっていくつなんだろうか。最近は冒険者カードを全く使っていないし、最後にランクの欄を確認したのは、それこそ冒険者カードを作ったときかもしれない。
まあ、ここ数年は冒険者らしいことを特に何にもしていないからな。アルクターレにあったカイナミダンジョンを攻略してからは本当に何もしていない。ランクは多分Fのまま、良くてもE止まりだろう。
ふとそれが気になった俺は、はしゃぐ母さんを横目に冒険者カードを財布から取り出す。
「!?、Dランク!?」
俺の冒険者カードのランクの欄には、Dという文字が刻まれていた。
Dランクとは、全冒険者の上位40%に属していることを示している。流石にこれはおかしい。
俺は冒険者カードの詳細欄を確認する。これは自身の行った冒険者としての活動がどのようにポイント化され、どのようにランクに反映されたのかがわかる代物だ。
「ええっと...モンスターの討伐ptとか素材ptが少しだけ高くついてるな...まあ、当時は未発見ダンジョンのモンスターだった訳だし、少し高めになるのも納得いく。あと...ダンジョン踏破ボーナス (初) (ソロ)?なんだこれ?ダンジョンを踏破するとボーナスがつくのか?初踏破ってのと、ソロでの踏破ってことで更にボーナスが乗ってるっぽいな。」
どうやらダンジョンを初制覇、もしくはソロで制覇をするとランクが若干上がりやすくなるらしい。しかしこれだけのボーナスが乗ったとしても、Dランクにはまだ届かないだろう。
「あれ、なんだこれ。ギルド貢献 (アルクターレ)..?」
詳細欄の一番下、詳細欄の中で唯一ダンジョンに関連していない項目を見つけた。
なんだこれ。って、これだけでダンジョン踏破ボーナスと同じくらいのポイントが入ってるんだが、一体どういうことだ?
ギルド貢献?あ、未発見ダンジョンをソートさんに伝えたやつか。彼女曰く、アルクターレに人が増え、ギルド的にも大助かりだったとかなんとか。それがギルドに貢献したって判定になったのか?
そしてダンジョンの制覇のポイントにそれが相まって、俺の冒険者ランクはDになっていると。
「アルト、どうしたんだ?」
「へ、え?いや?なんでもないよ!さあ、父さんと母さんの宿を探そうか!」
「おお、そ、そうだな。」
俺は素早く冒険者カードを背に隠し、父さんに返答する。
......俺がDランク冒険者だという事実は誰にもバレてはいけない。たとえ、実の親であってもだ。確実に面倒なことになる。
そう決意した俺は急かす様に両親の背中を押し、王都へと繰り出すのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
両親が王都にやってきた翌日、つまり学園の文化祭当日。
「ここがアルトの通っている学校ね!すっごく綺麗!お城みたいね!」
「母さん...恥ずかしいから落ち着いてくれ...」
現在時刻は午前10時。俺は両親を連れて学園の文化祭に来ている。
昨日と同様に学園の入り口ではしゃぐ母さんを横目に父さんの方を見てみると、父さんも学園の景色は珍しいのか少しウズウズしていた。おい、父さんまではしゃぐんじゃないぞ。
「ほ、ほら!早く入るよ!学園は広いんだから、早くしないと回り切れないよ!」
そんな風にはしゃぐ母さんと父さんの背中を押し、俺は彼らを無理矢理に学園の敷地内へと入れる。
実際、文化祭の本祭は1日しかないのだ。早くしないと学園内を回り切れない。
因みに文化祭は前日祭と本祭の2日間に渡って行われるのだが、前日祭は在校生のみで執り行われるため一般の人が参加できるのは本祭のみだ。
前日祭?俺はもちろん参加してない。本祭に関しても両親が来なければサボる予定だったし。
まあそんな事は置いておいて、今回両親が学園に来るにあたり、俺はぼっちであることがバレないようにある作戦を考えた。
名付けて、両親を楽しませて俺がぼっちであることに気付かせないようにしよう作戦。
今日一日中、俺は両親をとにかく学園内に連れ回す。これだけはしゃいでいる彼らだ。学園中を案内し続ければ、それに夢中で俺の人間関係などに意識は向かないだろう。ああ、なんでシンプルかつ大胆、完璧な作戦。
Simple is the best.
そんな作戦の元、俺は両親を連れて学園中を練り歩くのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
両親と共に学園内を散策すること2時間弱。現在の時刻はお昼どき。
校門から校舎へと続く一本道には文化祭ということもあり、多種様々な飲食店の屋台が出店している。両親の希望もあり、俺たちはそこで昼食をとることになった。
「まあ、本当に色々な食べ物があるのね〜。アルトは何を食べたいのかしら?」
「...母さん。食べ物はなんでもいいから、子供扱いはやめてくれ」
未だテンションの高めな母さんが、俺の頭を撫でながら尋ねてくる。...流石に恥ずかしいのでやめてほしい。
「あ!やっと見つけた!アルトさん!」
「ん?」
頭から母さんの手を退けてこれ以降止めるよう抗議していると、人混みの中からこちらへ走ってくる人影が見えた。
あれは...
「アーネ?」
「アルトさん!」
「ぐふッ!!」
「お久しぶりです!」
「お、おう...久しぶりだな、アーネ...」
人混みを掻き分けて恐ろしい速さで近づいてきたその人影ことアーネは、勢いそのままに俺に抱きつき輝く笑顔をこちらへ向けてきた。
アーネさん、本当に足が速くなって...今の俺では受け止めるのが精一杯だよ...
「というか、アーネはなんでここに...?」
「あー、それはですねー」
彼女による不意の突進をなんとか受け止めた俺は、素朴な疑問を尋ねる。
アーネの話によると半年ほど前、特訓をしていた彼女の元に我が学園長であるアーレットが訪ねてきたらしい。そして、彼女はセインと同じように推薦者としての権利を手に入れたのだとか。
そのとき彼女が俺について尋ねてみると、俺が入試に合格したこと及び会いたいのなら学園の文化祭に来ればいいという旨の返答があったのだとか。
「なるほどな。どうだこの学園は?いいところだろ」
「そうですね。とても綺麗で賑やかです」
学園の敷地内を絶えず流れる人と、その後ろに聳え立つ大きな校舎を見て彼女はそう感想を漏らす。
そうかアーネは推薦者だったのか。
あ、そういえばアーネの才能を見抜いたお婆さん。あれはアーレットの親族だったな。その存在をアーレットが知らない訳ないか。
「それにしても、よく俺の場所がわかったな。GPSでもつけてるのか?」
「じーぴーえす?ですか?それが何かは知らないですけど、あれです。周りの人たちに黒髪の人を見なかったかと聞いていったら辿り着けました」
「なるほど」
何度も言うが、俺のこの黒髪と黒眼という容姿はこの世界においてとても特徴的だ。
一度見ただけでもかなり印象に残るだろう。それをもとに彼女は俺の所まで辿り着いたのか。
「ところでアルトさん。そちらの方々はもしかして...」
「ああ、俺の両親だ」
「!?」
俺の言葉にアーネの顔が少し強張る。
ん?どうしたんだろうか。
その様子に少し疑問を抱きながらも、こちらを静かに見守っていた両親を呼ぶ。
「えーっと、この子はアーネ。俺がアルクターレへ修行に行ったときに知り合った女の子だ」
「あ、あの、アーネ=エルトリアと言います!アルトさんには数年前に危ないところを救っていただいて、その後もとてもお世話になりました!え、えっと、よりょしくお願いします!」
両親へアーネを紹介すると、やはり彼女は緊張しているのかやや早口でそう自己紹介をした。完全に噛んでいたが…本人が気づいていないならいいか。
「あら、ご丁寧にどうも。アルトの母です。アーネちゃん可愛いわね〜、こんな可愛い子となんて、アルトも隅におけないわね!」
「別に、俺とアーネはそんな仲じゃないぞ」
アーネの登場に、妙にテンションの上がっている母さんの言葉を俺は即座に否定する。
「ふふふ〜、そうなのねそうなのね!」
それに対し母さんは、ニコニコとしながらまだ緊張している様子のアーネを見ていた。
あー、これは聞こえてないな。
「おい、アルト。あのアーネっていう子かなり強いだろう。それに美人だ。あんな子をゲットするなんて、お前やるな」
「だからそんなんじゃないって」
母さんに引き続き、その隣にいた父さんも小声でそんなことを言ってきた。あー、めんどくせぇ。
「あ、そうだ。アーネちゃん、この後一緒に文化祭を回らない?案内はアルトがしてくれるわよ?」
「え!いいんですか?」
「勿論よ!」
俺と父さんが話している間に、母さんは学園の見学にアーネを誘っていた。どうやら俺は彼らの案内役に就任したらしい。まあ、2人を案内するのも3人を案内するのも大して変わらないので別に構わないが。
「そ、それなら是非、私もご一緒したいで———」
「お、アルトじゃないか」
す、とアーネが続けようとしたところで、彼女の後方から俺を呼ぶ声がした。
「あ、イヴェルさんとシエルさん。お疲れ様です」
「こんにちは、アルト君。久しぶりだね」
目を向けてみるとそこには、生徒会と書かれた腕章をつけたイヴェルとシエルがこちらに歩いてきていた。生徒会の見回りだろうか。
「お久しぶりです。生徒会は文化祭に向けてお忙しそうでしたからね」
「ああ、だが、こうして無事に今日を迎えることができた。準備した甲斐があるというものだ。また時間ができたら、あっちの方もよろしく頼む」
あっちの方というのは、魔法の練習のことだろう。
文化祭が近づくにつれてイヴェルとシエルは生徒会の仕事で忙しくなっていったため、二人と会うのは数週間ぶりだ。まあ猫の姿ではしばしば会っていたのだが、これは秘密。
「アルト、そちらの方々は?」
両親とアーネの存在に気がついたイヴェルは、彼らの方を見てそう尋ねる。
「ああ、えっと、俺の両親と——昔馴染みの子です」
両親は両親でいいのだが、アーネのことをどう紹介しようか迷った。まあ昔馴染みの子で間違ってはいないだろう。
「で、えっと、この学園の生徒会を務めているイヴェルさんとシエルさんだ」
それに伴い俺は両親とアーネへ、イヴェルとシエルの紹介を行う。
「そうか。アルトのご両親か。——私はイヴェル=ラーシルドと申します。アルト君には常日頃からお世話になっております。以後、お見知り置きを」
「同じく、シエル=ハースエルです。以後、お見知り置きを」
俺の紹介に合わせ、イヴェルとシエルが両親に向けて頭を下げる。流石、現代の剣聖と聖女。作法がしっかりとしている。
「あらあら、ご丁寧にどうも。アルトの母です。よろしくお願いします。またこんなに可愛い女の子が......アルト、後でお話がありますからね?」
「へッ!?」
急に母さんとのお話——ほぼ確実にお説教——が確定し、俺は思わず声を出す。
イヴェルとシエルへ挨拶をする母さんの顔はいつも通りの笑顔に見えるが、そのオーラからはなんか怒っているような感じがする。なんでだ。
「して、そちらはアルトの幼馴染ってことでいいのか?」
「ええ、そんな感じですね、ってアーネ?」
イヴェルに目を向けられたアーネはというと、俺の服の裾を掴んで背後に隠れるように立っていた。そして様子を伺うようにイヴェルの方を見ている。
「え、ええっと、この子——アーネは俺の一つ下で、来年のここの入試を受けにきます。きっと合格して、後輩になる子ですよ」
「そうか。アルトがそこまで言うのなら間違いないな。アーネ、といったか。宜しくな」
「よ、よろしくお願いします...」
イヴェルに挨拶されたアーネは、顔を半分俺の服に埋めながら返答する。あれ、アーネってこんなに人見知りだったっけ。
「では、私たちは見回りへ戻る。ではな、アルト」
「アルト君、ばいばーい」
最後にそう言うと、イヴェルとシエルは警備に戻っていった。あの2人が警備しているのであれば、この文化祭は安全だろう。
「さて、あの2人も行ったぞ。アーネ」
2人を見送った俺は、未だ後ろにへばりついているアーネに声をかける。
しかし彼女は、俺の服に顔を埋めたまま首を横に振った。どうしたんだこの子は。
と、そのとき。俺は真後ろから発せられる冷たいオーラを感じ取った。
ギギギ...と油の刺されていないブリキ人形のような動きで後ろを振り向くと、そこには笑顔で冷たいオーラを発する母さんが立っていた。
「か、母さん?」
「アルト?少しお話がありますからね?」
それから約30分間、俺は文化祭真っ只中の学園のど真ん中で、なぜか怒っている母さんに盛大に叱られたのだった。
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