第40話 スキル習得

カイナミダンジョンを出て空を見上げると、ちょうど太陽が昇り始める頃だった。時刻は朝の5時くらいといったところか。


清々しい空気の中、宿へと戻った俺は数十分程で荷造りを終えた後、鞄から空間収納の魔導書を取り出た。

この魔導書を開けば、空間収納を習得することが出来る。魔導書によってスキルを習得するとはどんな感じなのだろうか。


「ふぅ———」


一度深呼吸をした後、意を決して魔導書の表紙を開く。


その瞬間、魔導書は独りでにページがどんどんと捲れていき、空間収納に関する膨大な情報が直接脳内へと流れ込んできた。


魔導書を開いてから数秒後には魔導書は最後のページまで捲れていき、その裏表紙が閉じると本は光の粒子となって消えていった。

魔導書は消えてしまったものの、俺の脳内にはその本の内容がバッチリと記憶されている。



なるほど。魔導書で手に入れたスキルについては説明できないとはこういうことだったのか。


簡単に言えば、情報量が膨大すぎてどこから話せばいいのか全くわからないのだ。どういう原理で空間収納が発動するのかは分かる。しかしその原理を説明するためには、他の事柄についての説明も必要となるのだ。


そのスキルについて1を説明しようとすると、それに伴って他の10を説明しなければならなくなる。そしてその10のことを説明しようとすると、更に100のことを説明する必要があるのだ。


それほどこのスキルは複雑であり難解なのである。そんな難解なスキルを読むだけで習得することのできる魔導書は、間違いなく人智を越えた代物なのだろう。


しかし、魔導書を読んだ後は確か———そう思ったところで唐突に強い眠気に襲われた。


やっぱりか。魔導書を使うと膨大な情報が頭の中へ流れ込んでくるため、脳への負担がとても大きい。そのため、使用者自身は疲れを感じていなくても脳は休憩を欲しがる。その結果として、魔導書の使用後には猛烈な眠気に襲われるのである。


「瞼が...重....い.........」


強い眠気に襲われた俺は、這うようにして布団へと潜り込む。一応、宿屋に戻ってからスキル習得をしてよかった........

そう思いながら、俺は深い眠りへと落ちていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



目を覚まして窓の外を見てみると、陽はすっかり落ちて辺りは既に暗くなっていた。


「圧倒的、昼夜逆転...」


それに気がついた俺は急いで外へ出る支度をして、ギルドへと向かった。

受付時間ギリギリにギルドへ到着した俺は、いつものように変装用の仮面と帽子をつけてから、いつも通りソートさんの担当する受付へ並ぶ。


「こんばんは。素材の買取をお願いします」


「こんばんは。あ、アルトさんですか。お疲れ様です。素材の買取ですね、承知しました。......相変わらずの素材の量ですね。では、冒険者カードをお願いします」


いつものように冒険者カードを預ける。

彼女は素材の量について少しだけ触れたものの、それ以上は何も言ってこない。素材の出所を詮索することは辞めたようだ。


「では、明日の朝までには査定を終わらせておくので、明日またいらしてください」


「了解しました。...ところで、ソートさんはこの素材の出所とか気になりますか?」


普通に教えてもよかったのだが、彼女の反応を見てみたかったので俺は少し面倒な聞き方をしてみる。


「そうですね。気にならないと言えば嘘になります。ですが、詮索はギルドから禁止されていますので、私からアルトさんに聞くことは何もありません。では、明日またいらしてください」


俺の聞き方から教えるつもりがないと悟ったのか、彼女は随分と淡白に答える。

まあ、今までずっとはぐらかしてきたからな......


彼女が本気にしないことは至極当たり前で、悪いことをしたと思いつつ俺は言葉を続ける。


「実はエクリプスダンジョンから北西に3kmくらい進んだ場所に、草木に隠されるようにダンジョンの入り口があります。そのダンジョンはまだ公にされていないのですが、これらの素材はそのダンジョンで手に入れたものです。では、また明日の朝にまた来ますね」


「へ?え、いや、ア、アルトさん!い、今のは.....よ、良かったんですか?」


振り返って呼び止めた彼女の顔を見てみると、彼女は酷く驚いているように見えた。

おー、これは珍しいものが見れた。


「俺は先程、そのダンジョンを攻略し終えましたから。もう秘密にする必要がありません。俺は目立ちたくないので、その情報をどうするかはソートさんにお任せしますよ。」


彼女は何かを言いたそうにしていたが、伝えることを伝えた俺はさっさとその場を立ち去った。




アルクターレでは俺のように辺境の村出身の冒険者が多いため、馬車などを利用した他の村への送迎サービスの需要が高い。

そのため、都市内にはそれらの専門店が数多く存在している。


ヌレタ村へ帰るのにそれらサービスを利用するため、ギルドの近くにある送迎サービスの専門店を訪ねた。


因みにヌレタ村からここへ来るときは、一旦ヌレタ村からほど近い少し大きな街まで移動し、そこからアルクターレへ向かう商人の馬車に乗せてもらった。流石にアルクターレから直接ヌレタ村へ向かう商人などいないので、帰りはこういったサービスを利用する必要がある。


「御免くださ〜い」


適当に入ったその店は随分とこぢんまりとした店だった。店内には机が1つと椅子がいくつかあり、壁にはアルクターレ周辺の地図や目安となる到着までの時間と料金の表が貼られていた。


「は〜い。こちらの席へどう...?」


従業員とみられる女性が自身の対面の席へ、俺を案内しようとしたところで、その言葉が途切れた。


「えっと...どうかしましたか?」


「アルトさん、ですよね?」


その女性は確認するように、俺の名前を言い当てた。

うん?俺はこの人と何処かで会っている?確かに、どこかで見覚えのあるような…?


「...!!貴方は確か、アーネの親御さん...?」


「はい。お久しぶりです。アーネの母のカイル=エルトリアと申します。その節は親子共々お世話になりました」


そう言って、その従業員とみられる女性ことアーネの母親であるカイルさんは、深々と頭を下げた。

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