第20話 回復潰し
俺の考えた作戦は至極単純なものだ。
簡単に言えば、こちらからは一切攻撃をせずにセイカの攻撃を避け続ける、というものだ。
先程まで行っていたことと変わらないと思うかもしれないが、異なる点が2つほどある。
1つは、俺からはセイカに対して攻撃を一切しないこと。そして————
「おいおい、こんな攻撃し易い相手に何もしないとかありえないよな?」
「キュアァァァァァァァァ!!!」
「あー、怖い怖い」
セイカが叫んだかと思うと、空中にいくつもの水球が生成され、それらは俺へ向かって一斉に飛んできた。俺はその水球を最小限の動きで避ける。
「あーあ、また外しちゃったか... まあまあ、落ち込むなって!!次こそ当たるかもしれないからさ!!」
そしてもう一つの違いは、セイカをめちゃくちゃ煽りながら立ち回っていることだ。
スタバ、セイカといった階層主と戦っている中で1つ気がついた事がある。こいつら階層主は知性はあるものの、頭はあまり良くないらしい。
そのため、俺はわざとセイカが攻撃のしやすい場所に移動し、彼女を煽ることで攻撃を誘発しているのだ。まあ、セイカ達階層主が言葉の意味を理解しているかは知らないが、何か喋っていた方が気分が乗るので俺はずっと口を動かしながら戦闘を続けている。
そんな感じで行動と言葉で煽りながらセイカの攻撃を避け続けていると、作戦開始から2時間後には、地面や壁にできたクレーターの治りが目に見えて遅くなってきた。
そこから更に2時間。そろそろ集中力が切れはじめ、撤退という選択肢が現実味を帯始めた頃。地面や壁に出来たクレーターなどの傷は全く治らなくなっていた。
「やっと回復力が尽きたか...」
セイカを倒すための作戦を実行に移してから約4時間。彼女との戦闘を始めてから、実に6時間強。遂にその回復力は尽きたようだ。
また戦闘を続けていくうちに、セイカの動きには他にも変化が見られるようになっていた。
「ついでに言えばお前、魔力も尽きてきてるだろ?さっきから魔法で攻撃する回数が少なくなってるよな?」
「グギャァァァァァァ!!!」
そう言うや否や、セイカは俺に向かって突進を仕掛けてくる。
「図星だな?」
その突進を避けると、セイカは地面と激しく衝突する。
「ガァァァァ!!!」
大きな衝突音と共に、セイカの身体と地面の両方に大きな傷がつく。それらの傷はもはや治らない。
「こんな局面で自滅か。お前もストレス溜まってたんだろうな...」
俺とセイカの戦闘は6時間超にも及んでいる。実際、俺ももう集中力が切れそうだ。体の疲れや魔力はポーションで回復が出来るものの、集中力はどうしようもない。
対するセイカの回復力と魔力は共に尽きていおり、更には怒り狂っているため正常な判断を下すことができないだろう。
「もはや、俺とお前はお互いに限界ギリギリだ。前世で死ぬ直前まで数年間、ずっと限界ギリギリだった俺と、その俺が生み出したモンスターであるお前。どちらが先に倒れるか。最後の勝負といこう。」
俺はここまで貯めていた魔力を振り絞り、風魔法を打ち込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「グルルァァァ—————」
「はぁ、はぁ...倒せた...のか?」
セイカの回復力が尽きて、死闘を続けること更に3時間以上。セイカとの戦闘を始めてから、実に10時間弱。透き通る様な青色から黒い赤色に染まったセイカは地に落ち、ピクリとも動かなくなった。
「改めて、セイカの回復の仕組みを突き止めていなかったらと思うとゾッとするな。」
今となっては、ずっと綺麗だった地面や壁もクレーターなどでボロボロだ。またその地面には、元々ポーションの入っていた瓶の破片なども散乱している。
今回も持ってきたポーションを全て使い切ってしまった。スタバの時よりも多めに用意した筈なのだが。
「お前はよく頑張ったよ、セイカ。」
俺はセイカの亡骸に手を合わせる。
すると5層のときと同じように、セイカの亡骸は光の粒子となり、そこに淡く光る扉が現れた。
「そして今度は、青いブレスレットか。」
これもまた5層のときと同じように、扉の前に一つのアイテムが落ちていた。
今回は青いブレスレットだ。銀色のリングに、セイカと同じ深い青色をした小さな宝石が1つ埋め込まれている。
一応、そのブレスレットを右腕に身につけてみる。うん、やはり何も起こらない。
現在、右手の中指には赤い宝石の埋まった指輪がはめられている。
「赤い指輪の存在、完全に忘れてたな。今すぐにこれらのアイテムの検証...といきたいところだけど、今回も魔力が枯渇寸前だからお預けかな。」
そんなわけで俺はまた戦利品を身につけるだけにして、10層を後にしたのだった。
最終的に、6層から10層は3ヶ月弱で攻略をすることができた。
1層から5層では4ヶ月掛かったことを考えると、まずまずの結果ではないだろうか。
「流石に今日は疲れたな...明日は休んで明後日から11層以降の攻略をしようか。」
俺は冒険者であるため、働き方は自分の一存で決めることができる。つまり俺は自分の休みたいときに休むことができるのだ。
「かつて研究室に100連続以上で通学していた身からすると、休みもあるし金も入る冒険者ってほんとホワイトな職業だよな。」
そんな幸せを噛み締めながら、俺は宿への帰路へ着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます