第19話 属性相性

6層から9層で出現するモンスターは1層から4層で出現したモンスターの属性が火属性から水属性に変わっただけで、その見た目や特徴にあまり変化はなかった。

そして俺は風魔法を使うことができたため、さして攻略をする上で問題はなかった。


これもまたお約束であるが、魔法には用いる属性によって有利不利、つまるところ相性がある。例えば火属性のモンスターには水属性の攻撃が有効であり、風属性のモンスターには火属性の魔法が有効である。そして今回相手にしている水属性のモンスター達には風魔法が有効となる。


また光属性と闇属性はお互いに有効な属性となっているが、土属性は少し特殊で火、水、風属性には有利であるが、光、闇属性には効果が無いという性質を持つ。光と闇属性には効果がないものの他の3属性に有利を取れるため強い属性だと思われるかもしれないが、そんなに事は上手く進まない。


なぜかと言えば、土属性の魔法は防御系の魔法がほとんどであり攻撃をするための魔法は少数しか存在しないのだ。一応、攻撃系の魔法である地震や地割れ、噴火を意図的に起こす魔法もあることにはあるが、それらの魔法は最上級魔法もしくは究極級魔法であるため扱える人間はそうそういない。斯く言う俺も、それらの魔法を扱うことはできない。


そんなわけで、土魔法は基本的に防御でのみ用いられる魔法である。土魔法は攻撃魔法が少ない反面、防御魔法の種類の豊富さと頑丈さに関しては、右に出るものはない。そのため土属性の魔法を扱う者は、たとえ攻撃魔法が使えなくとも必要とされることが多い。


土魔法の防御を破る最も簡単な方法としては光属性もしくは闇属性の魔法を使うことだが、それらの属性の魔法を使うことができる者は少ない。


では、光属性と闇属性の魔法を使うことができない者はどうすればいいのか。

その答えは至極単純で、物理攻撃でその土魔法で作られた盾などの障害物をぶっ壊せばいいだけだ。まあ、魔法で突破できないなら物理的に突破しちゃおうということだ。覚えておくと良い。




俺は風魔法を中心に使うことで、6層から9層を問題なく進んでいくことができた。


1層から4層では、出てくるモンスターが全て初見であったため——まあ、かつての自分が考えたモンスターであるはずなんだが——対応に時間がかかり、突破が遅くなってしまった。

しかし、どんなモンスターが出現するのか予め分かっていれば恐れるものはない。他に問題となり得るのは魔法の制御のみであって、これに関しては何の問題もなかった。


まあそれでもダンジョンの攻略には時間がかかるもので、俺は6層の攻略に着手してから約三ヶ月かけて9層までの攻略を終えることができた。


そして、


「よし、行くか」


2度目の階層主の討伐に挑むべく、10層へ足を踏み入れたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「さてさて、遥々10層までやって来た訳だが...」


やはりというか予想通りというか、10層は5層と同じように広大な一つの部屋のような造りになっていた。その一方で5層のときと大きく異なる部分がある。

それは5層では階層主が部屋の中心でじっとしていたが、この10層の中心部にはそれらしきモンスターの姿が見えないということだ。


「どういうことだ?記憶ではここの階層主は——」


たしか、と言葉を続けようとしたところで真上から嫌な気配を感じ、すぐ横に飛び退いてその場を離れた。


ゴァァァァァァァ!!


その瞬間、つい先程まで俺のいた場所には、巨大なクレーターが出来上がっていた。


「いやお前、生みの親に対して不意打ちは酷くないか?悲しくて泣きそうだ」


その攻撃の飛んできた方向——真上へ顔を向けるとそこには、鱗から髭の先に至るまで全身が深い青色に包まれた1匹の龍がこちらを凝視していた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



セイブ • カイリュー、通称セイカ。

このモンスターは四神の青龍をモチーフにして作ったモンスターだ。


その見た目の特徴は全長20mはあるのではないかという長い体と全身が透き通るような深い青色に染まっていることだろうか。


性能面においては、セイカは魔法による攻撃を得意とするモンスターだ。最初に放ってきた水のレーザーも代表的な攻撃の1つであり、それらの威力及び精度は非常に高い。また、回復力がとても高く体力も多いことが挙げられる。


「確か体力はスタバよりも少し低い程度とか書いた気がするけど、こんなことなら、体力はもっと少なく設定しておけば良かった!」


そんな悪態をつきながら、俺はセイカへ風魔法で攻撃を加えていく。放った風の刃はセイカに見事に命中し、その体に傷をつける。しかしその傷は瞬く間に塞がり、数秒後には何事もなかったように綺麗になってしまう。


「くそッ…このままじゃ埒があかない」


俺は高い回避力から、セイカは高い回復力から、どちらも長期戦を得意とするタイプだ。


そのためこのまま何の工夫もせず戦い続けていても時間だけが過ぎ去り、お互いの集中力が削れていくだけだ。その場合、俺の攻撃を受けても一瞬で傷を治癒することのできるセイカと、彼女の攻撃を一発でも食うと致命傷になる俺とでは圧倒的にこちらが不利になる。

そのような状況になることは、是が非でも避けたい。そのためは、俺から何かしらの手を打つ必要があるだろう。


とはいえ、回復力の高いセイカに対して、何をすることが有効なのだろうか。確か小説内でセイン達は、パーティ5人による集中砲火により首を落とすことで攻略していたはずだ。


しかし俺はソロでの攻略をしており、また風属性への適性を持っていないため火力はセイン達に比べて大きく劣る。そのため、火力で押し切って倒すのは現実的でないだろう。


なんとかして、あの回復力さえ封じることができれば勝機が見えるのだが...





「あれ?」


セイカの攻撃を避けながら考え込んでいた俺はある違和感に気がつき、10層全体を見渡す。


「おかしいよな、綺麗過ぎる...」


ここはカイナミダンジョンの10層で、俺の真正面では宙に浮いたセイカがこちらを睨みつけている。当たり前だがその身体は全くの無傷だ。


前述のようにこの10層は、5層と同じように階層全体が一つの部屋のようになっている階層である。

そのため、視界にはセイカの他に、広大で綺麗な地面と壁も入ってきている。そう、あまりにも綺麗な地面と壁が。


俺はこの階層に入ってすぐのセイカの不意打ちを間一髪で避けたし、その他の攻撃は全て避けている。だから俺は無傷であるわけだし、仮に攻撃を一発でも貰っていたら確実に死んでいるだろう。



では、その外れたセイカの攻撃は何処へ飛んでいっているのだろうか。



自然に消滅した?そんなわけがない。きっとそれらは地面や壁に直撃していることだろう。現にセイカの不意打ちの結果、地面には一度大きなクレーターができていたはずだ。


しかし今、地面を見てみるとどうだろう。

そんなクレーターらしきものは何処にもなく、周りの地面や壁はまるで何事もなかったかのように綺麗である。そう、明らかに綺麗すぎるのだ。


同じく階層主との戦闘が行われた5層では戦闘終了後、5層の地面や壁にはクレーターが無数に点在していて、その戦闘の激しさを物語っていた。


つまり、ここで起きている地面や壁の再生、言い換えるとそれらの回復は、セイカ自身の回復力に起因するものであると考えられる。

これはあくまでも推測だが、彼女の高すぎる回復力が勝手にこの10層にあるもの全てを回復させてしまうのだろう。


この理論でいくと俺のような挑戦者すら回復させてしまうことになるが、セイカの魔法の威力をもってすれば普通の人間など一撃で葬り去ることができる。


死人は死人。死んだ者に回復魔法を施しても決して生き返ることはない。死んだものを生き返らすには、別に蘇生魔法というものが必要となるのだ。そのため、セイカは挑戦者を回復させたところでさして問題ないのだろう。


「まあ、ものは試しか」


確認のため、俺は地面に剣を突き立てて傷をつけてみる。その剣を引き抜くと地面につけた傷はすぐに塞がり、何事もなかったかのように綺麗になった。まるでセイカの身体につけた傷のように。


「これは確定か。これが分かればこっちにだって打つ手はある。」


俺はこれからの作戦の内容を頭の中でまとめ、自分のすべき行動を決定する。


「さあ、ここからが正念場だ。前世で培った気合いを見せろよ!」


自らのことを鼓舞するために、そう叫ぶ。

俺たちの戦いは中盤戦に差し掛かっていた。

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