第9話 新たなる決意
「そんなわけで、ダンジョンに挑戦できるようなったんだ!」
「それはおめでとう!やっぱりアルト君はすごいね。じゃあ暫くの間、孤児院には来れなくなるの?」
「そうなるかな。あまりダンジョンに長く潜るつもりはないけど、今までみたいな頻度では来れないかな。」
「それは少し寂しくなるね...」
さてさて俺は今、父さんに許可をもらいダンジョンに挑戦できるようになった旨を報告している。
誰に報告をしているのかって?それは勿論セインにだ。
何故こんなにも俺とセインが仲良くなっているのか。実は俺はこの1年間、時々孤児院へ顔を出してセインの暮らしぶりを観察していた。観察をしていた理由としては、10歳の時点でセインが剣術、魔法、勉学それぞれにおいてどれくらいの水準にいるのかを確かめたかったからだ。
そして観察を続けていくうちに、俺はセインについてあることに気がついた。
そう、セインはめちゃくちゃ凄いやつであり、良い奴であるということに。
セインは10歳時点で、剣術においては大の大人をも打ち負かすことが出来るほどの才能もち、魔法においては水属性と光属性の2つの適性を持っている。まあ魔法については、まだセイン自身はその力を知らないのだが。
またセインの学習意欲は凄まじく、それに加えて頭の出来がとても良い。圧倒的な学習意欲とそれに対応することのできる頭を持ったセインは、与えられた知識をスポンジの様に吸収している。孤児院のボランティアの教師曰く、一度教えたことを忘れることは無いのだそうだ。
そして極め付けはあの王子様のようなルックスだ。男の俺から見てもめちゃくちゃカッコいい。正直、観察を始めて1ヶ月くらいは嫉妬で頭がおかしくなりそうだった。
しかし、そんな非の打ちどころのない才能の塊であるにも関わらず、セインはそれらをひけらかすことはせず、その力は孤児院の子供や本当に困っている人のために使うようにしていた。決して、自分が楽をするためなどの理由では自分の力を使おうとしなかった。そしてセインは俺がいつ孤児院を訪ねても、いつも忙しそうにしているのに決まって笑顔で出迎えてくれた。
そんなセインの生活を1年間、間近で見ていた俺は何度も過去の自分を殴りたくなった。
セインから主人公の座を奪う?何を言っているんだ。俺はもう性格の時点から主人公争いに負けていたんだ。いや、戦いにすらなっていなかった。この世に生を受けた時点から勝敗はついていたのだ。俺は心からそう思った。
また、セインは俺の書いた小説の主人公である。つまり、俺が丹精込めて考えて創造した人物であり、頭を痛めて産み落とした我が子なのだ。その子が、めちゃくちゃ良い子であると分かったのだ。
それらを悟ったとき、俺の心は親心としか言い表せない気持ちで溢れた。そして主人公の座を奪うなどと、本気で考えていたことについての罪悪感も同じくらいに溢れた。
そして俺は、セインと一緒にグレース剣魔学園に入学し、彼が楽しい学園生活を送ることができるように全力でサポートしようと、あくまで主人公はセインで俺は目立たないように裏からそのサポートをしよう、と。『勇者セインの学園英雄譚』は未完結のまま止まってしまっているが、こちらの世界でのセインの物語は著者としてしっかり紡いでいこうと。
そう、心に決めた。
それがちょうど半年前のことだ。
そして俺はセインのサポートという観点からも威圧と変身は必要なスキルであり、金も必要であるという結論に至った。
だからこそ俺はこれから、自分の為にも将来のセインの為にもダンジョンに挑む。
「まあまあ、今生の別れでもないし半年に一回くらいは顔を出すよ。セインも元気でね。」
「うん!アルト君こそ、気をつけて!」
そんな新たな決意を胸に秘め、俺はダンジョンへと挑むためヌレタ村を出る準備を進めた。
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