第7話 チートスキルとお金

チートスキル、と一口に言ってもスキルには色々と種類がある。その中で俺が何のスキルを習得する予定かというと、威圧スキルと変身スキルの二種類のスキルだ。


威圧スキルとはその名の通り、対象を威圧するだけのスキルである。威圧することで相手の戦意を喪失させたり、そこまでいかなくとも一瞬だけ動きを止めることが可能だ。


このスキルを発動させている間、有効範囲内にいる生物は常に威圧をされている状態となる。またスキルの有効範囲や対象は魔力の操り方次第なので極論、任意の範囲にいる任意の生物に対して威圧使うことが出来る。まあ、その対象が俺よりも大きく格上である場合は威圧の効果は無くなるのだが。


このスキルを欲しい理由としては簡単に言うと、さっさと相手に降参してほしいからだ。


どういうことかというと、俺が学園に入学するまでにどの程度まで強くなっているかは不明だが、学園への入学後、俺は自分の実力、特に剣術と魔法については周りにひけらかすつもりはない。


何故かと言えば、実力を周りに晒してただの強い人という認識をされるよりも、実力を隠しておいていざという時に実力を示し、本当はめっちゃ強い人という認識をされた方がカッコいいと思うからだ。うん、本当にそれだけ。だから俺は、学園であまり実力を晒す真似はしたくない。


しかし、学園では生徒の実力を測るイベントが数多く用意されていることだろう。自分でも面倒な性格をしているとは思うが、強い人間だと思われたくない一方で、弱い人間であるとも思われたくない。なので、それらのイベントで棄権や降参という選択をすることも嫌だ。


話をまとめると、俺は実力を出して戦うこともしたくないし、かと言って降参して意気地なしだとか、弱い奴だと認識されるのも嫌だ。


では、どうすればいいのか。


そこで俺は閃いた。

戦う相手の戦意を喪失させて、降参して貰えばいいじゃないか!と。


相手が勝手に降参をすれば俺は勝つことができるし、しかも実力を出して戦う必要がなくなる。ああ、なんて素晴らしいアイディアなんだ!やはり俺は天才なのかもしれない。


まあ、この話は俺が学園に入学できることを前提としたものであるし、入学することが出来たとしてもその相手は真のエリート達だ。

手を抜く必要があるか分からないし、なんなら全力でも落ちこぼれる可能性だって大いにある。しかしいずれにせよ、威圧スキルは持っていて損はないスキルなので取っておきたいところである。


2つ目の変身スキルだが、これも文字通りで頭の中で想像したものに変身をすることが出来るスキルである。実際に見たことがないものに変身をすることも可能だが、変身の精度は想像の精確さに依存するため見たことのあるものの方が精密に再現できることは自明である。

俺がこのスキルを欲しい理由だが、端的に言えば情報収集の為だ。小さい動物に変身すれば、人間では入れない場所に忍び込み、色々な話を盗聴したりすることができるだろう。


俺とセインは平民であるため、俺たちが学園へ入学することを面白く思わない連中もいることだろう。そんな奴らが、俺たちに対して嫌がらせをすることは容易に想像できる。なんなら俺は前世で、セインに一部の貴族達が嫌がらせをするシーンを書いたしな。

そいつらの嫌がらせや妨害などの計画の内容をこのスキルのおかげで盗聴し、それらの対策を講じることができるのだ。



更に!このスキルの有用性はそこだけに留まらない!


なんと!猫などの小動物に変身すれば、ヒロインの女の子達に近づきやすくなるし、なんなら可愛がって貰えるかもしれない、いや可愛がって貰えるだろう!

まあ、こちらも学園に入学できることを前提とした話ではあるのだが。


もし手に入るのであれば、鑑定スキルや隠密スキル、瞬間移動スキルなどの超チートスキルも欲しいところではあるが、それらは入手難易度が高すぎる。入手の仕方はある程度覚えているのだが、超高難易度ダンジョンの攻略報酬だったり、超危険な森の最奥に眠っていたりするので現状では流石に無理だ。普通に死んでしまう。


まあ今は焦る時では無い。それらのスキルはもっと実力をつけてから。今は手の届く範囲で出来ることをするべきだ。

以上のような理由から、俺は威圧スキルと変身スキルを手に入れることにしたのである。




威圧スキルや変身スキルなどのスキルと呼ばれる魔法は、普通に訓練を積む事では習得をすることができない。では、どうやって習得するのか。

それは専用の本を読むことで習得することが出来る。俗に言う魔導書というやつだ。


魔導書を開くと、本を開いた者の頭の中に一瞬にしてその魔法の概要や理論などのありとあらゆる情報が流れ込み、次の瞬間には魔導書を開いた張本人はその魔法を使えるようになっている。そして、数秒前まであったはずの魔導書は忽然と姿を消している。


更に魔導書から魔法を習得した者は、その魔法についての説明を求められてもうまくその魔法の内容を言語化出来ず、その者達からスキルを教えてもらうこともできない。そのため、スキルを習得するには誰にも読まれていない魔導書を読むしかない……という設定にしたはずだ。


では一体、その魔導書はどこで手に入るのか。それは、ダンジョンで稀に出現する宝箱の中からだ。


そのダンジョン内に出現した魔導書は、冒険者が取ってきてギルドなどに売却する。その売却された魔導書は魔道具店へと卸され、一般人でもそれを購入することで手に入れることができるというわけだ。また魔導書にはランクがあり、鑑定スキルや隠密スキル、瞬間移動スキルなどの超レアレアレアなスキルはそもそも市場に出回らない。出回ったとしても、一般人では一生かかっても稼ぐことのできないくらいの高値がつく。

一方で、俺が現在欲している威圧スキルと変身スキルはそこまでランクが高いものではなく、それらのスキルの魔導書は市場に流れてくることが比較的よくある方だ。


そんなわけで、俺はヌレタ村に一店舗しかない魔道具店に10万Gゴールドを握りしめて来たわけだが...


「まさか、威圧で100万Gゴールド、変身に関しては200万Gゴールドもするとか聞いてないって...」


そう、どちらの魔導書もあることにはあった。だが、クソ高かった。この世界での通貨単位のG《ゴールド》だが、日本円で1円 = 1G《ゴールド》と考えてくれれば問題ない。


俺はこの世界においても、お金がとても大切であることを知った。


...そういえば、学園に入るためには剣術や魔法の実力をつけることも必要だが、学園に通えるだけの資金を用意しなければならないのではないか?


勿論、学園の学費はタダではない。特待生になれれば多少は減るが、それでもタダにはならない。入学試験を突破することだけを考えていて、すっかり忘れていた。

異世界で金の問題に直面するとは...ファンタジー万歳とか言っていられる場合じゃないな。


「こうなったら、遂にアレをするしかないかな...」


そして俺は、最終手段である作戦を実行することに決めた。残念そうな声音とは裏腹に、俺の心はどこかウキウキとしている。




「決めた、俺は冒険者になる。」

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