第6話 異世界活動報告(10歳) : 才能

さてさて、俺もやっと10歳になった。

俺はグレース剣魔学園に入学するための特訓を続け、着々と力をつけている。


剣術については十分な筋力及び体力がついたということで、二年ほど前から父さんの空き時間に稽古をつけて貰えるようになった。


聞けば父さんはヌレタ村の出身ではなく、ここに住む前までは王都近郊の街で冒険者をしていたらしい。その際、街の宿屋に住み込みで働いていた母さんに一目惚れし、猛アタックにより母さんのハートを見事に射止めた父さんは母さんの故郷であるこのヌレタ村に住むことになったんだとか。


まあ、その辺は正直どうでも良く、重要なのは父さんが元々は名の売れた冒険者であったということだ。父さんは母さんと結婚する前まで、冒険者としての仕事のみで生計を立てていたらしい。

そりゃあ、ある程度の筋力と体力がないと稽古つけてくれないよね。下手したら俺が死んじゃうかもしれないし。


そんな元々名の売れた冒険者だった父さんから稽古を受けられるだけの力があると認められていることは純粋に嬉しい。また、父さんは俺に期待していると言っていた。

そんな父の期待を無駄にすることがないよう、厳しい稽古でも頑張って食らいついている。


魔法に関しては、なんとか中級魔法までは無詠唱で発動できるようになった。想像力は偉大だ。しかし魔法の練習を進めて行くにつれて、ある事実が浮き彫りになっていた。



どうやら俺、魔法の才能がないらしい。



魔法には属性があり、火、水、風、土、光、闇の6つに分類されている。人によって属性との相性は異なり、その中でも特に自分と親和性の高い属性のことを適性という。自分の適性である属性の魔法は上達しやすく、またその威力も高くなる。 

自分がどの属性に適性を持つかは、透魔石と呼ばれる無色透明の鉱物に自分の魔力を送る事で判断する。


適性を持っていなければ魔石の色は変化しないが、火属性に適性があれば赤色、水属性であれば青色、風属性であれば緑色というように、適性を持つ者が魔力を送ると透魔石の色が変化するのである。


魔法において才能とは適性を持っているか否か、それだけで決められるものではない。適性を持っている者でも、魔力量の少ない者や制御の出来ない者がいるからだ。しかし適性を持っていない者は、みな須く魔法の才能は無いと判断される。



さて、魔法と才能について述べたところで本題に戻ろう。

結論から言えば、俺は魔法の属性による得意不得意は特になく、どの属性の魔法も同程度に使うことが出来る。現在で言えば6つ全ての属性の魔法を、中級魔法まで無詠唱で発動させることができる。


それは全ての属性が適性であるということではないのか。当初、俺はそう思い喜んでいたがそれは大きな間違いであった。


このヌレタ村に透魔石のような希少な鉱物は売られていないため、実際に透魔石を用いて適性が無いことを確認したわけでは無い。そのため必ずしも適性が無いとは言い切れないのだが…俺は自分に適性がないことを確信している。



俺の魔法の威力は、適性持ちのそれと比べて著しく劣るのである。



光魔法を例に取ってみよう。

光魔法の中には傷などの治療を行える回復魔法が存在する。この魔法を学園入学時の、光属性に適性を持つセインが使うと初級魔法ヒールでも小さな傷は一瞬で消える。これは俺が前世で実際に書いた内容なので間違いない。


そして俺が初級魔法ヒールを使って傷を治そうとすると、どんなに小さな傷でもその傷を完全に消すのに30秒はかかる。中級魔法ハイヒールでも10秒はかかるのである。

つまり、俺の光魔法はセインのそれと比較して効果が何十倍も劣るのである。



これらの検証を行い、自分に適性が無いという真実を知ったとき、俺は悟った。適性がある奴の魔法は俺のそれとは格が違う。

俺は全ての属性の魔法を使えるが、そのどれもが適性持ちには絶対に敵わない、ということを。


俺が全ての属性の魔法を使うことができたのは属性の適性がなかったからこそ、魔法の使い方に癖がついていなかったからだろう。



上手く説明できないのだが、魔法は属性によって発動させるときのイメージが少し異なる。例えば風魔法は、魔力を自身の体の周りに集め、それらを素早く動かすようなイメージで発動させる。その一方で土魔法では、魔力を足下に集めてから地面に魔力を送り、任意の場所で魔力を突き上げるイメージで発動させる。


このように属性によって魔力の操作の仕方が異なるため、適性をもつ者は特に魔力の使い方に癖がつく。例えば風魔法の適性を持った者は、風魔法を多用するうちに魔法を発動する際、無意識的に自身の体の周りに魔力を集めることが癖になってしまう。このような癖がつけば、発動時のイメージが異なる土魔法などの魔法を発動させることは難しくなってしまうのだ。


因みにセインは水属性と光属性の2つの属性に適性を持つが、なぜそのように2つ以上の適性を持つ者がいるのか。


それは水魔法と光魔法は発動の仕方が全く同じではないものの、多少似通っているためであると考えられる。


水魔法と光魔法はどちらも魔力を体の中心に集めるイメージが必要になる。まあ、体の中心に魔力を集めた後の魔力の動かし方のイメージは若干異なるが。


個人的には水属性と光属性、火属性と風属性、土属性と闇属性の魔法の発動の仕方が似通っているように思う。


この世界において魔法を使う事のできる人間は多くないため適性は無いことが普通だし、仮にあったとしても基本は1つの属性のみだ。2つ以上の適性を持つなんて俗に言う天才というやつである。まあ、そんな天才達が王国の各地から集結するのが、俺の目標としているグレース剣魔学園であるのだが。


確か学園に入学する者は、少なくとも1つは適性を持っていたはずだ。…あー、自分で言ってて、入学できる自信がなくなってきた。このアルトにも適性があることを期待していたのだが、現実はそう甘くないらしい。


多分だが、誰でもやろうと思えば全ての属性の魔法を使うことはできるのだろう。しかし一般の人は魔力の操作に不慣れであるし、魔法の才能がある者については適性でない属性の魔法を練習するよりも、自分の適性である属性の魔法の練習をした方が自身の力になることは明らかだ。そのため、適性でない属性の魔法の練習はしないのだろう。


そんな背景もあり、全ての属性の魔法を使う者はいないのだろうと俺は結論付けた。


「まあ、魔法の才能がなかったのは残念だけど、それだけで学園の入学を諦めるのは早すぎる。入学を諦めるのは試験に落ちた後だ。今はただ愚直に練習するしかない。」


そう自分に言い聞かせながら、俺は引き続き魔法の特訓を続けている。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


まあそんな剣術と魔法についての話はさておき、俺には10歳になったらやろうと思っていたことがある。今日はそれを実行する予定の日だ。


何をするのかって?

それは凡人である俺と、国の未来を背負うようなエリート達との才能の差を埋める可能性を秘めているものであり、また異世界転生ものの王道とも言える————




「チートスキル習得の時間だ。」

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