第4話 異世界活動報告(4歳) : 勉学

時が流れるのは早いもので、俺はもう4歳になった。因みにこの世界での生き方を決めたのは1歳のときである。


猿みたいな顔だったあの頃に比べて、自分の顔立ちも大分わかるようになった。顔が整っているかはよく分からないが、まあ至って普通の顔だと思う。ただ唯一違和感があることとしては、俺の容姿は黒色の髪の毛に加え、瞳の色も黒色というthe 日本人みたいな見た目だったことだ。

俺の両親はどちらも茶髪で母の瞳は青く、父の瞳は緑色である。


「遺伝的には明らかに、あの両親から黒髪で黒い目をした子供が産まれることはおかしいんだけど...よく分からないな。なんにせよ、それが原因で浮気云々とかの喧嘩をしなくて良かった」


髪の色や瞳の色についてあまりにも両親と俺が似つかなすぎたため、母親が浮気でもしていたのではないかとか、この世界には遺伝という概念が存在していないのではないかなどと思考を巡らせたのだが、当の両親は大して気にしていない様子だった。


また自身の身にも転生という非科学的なことが起きていることを思い出し、俺はこれらの問題について深く考えることをやめた。


そんなことはともかくとして、体の方は少しずつ成長し、もう一人でしっかりと歩けるようになった。また、体を流れる魔力についても少しずつ感じることが出来るようになっていた。


そう、勿論この世界には魔法が存在する。まあ、ラノベを読み漁った青年が異世界転生の小説を書く上で魔法の存在が無い方がおかしいだろう。しかし今はまだ魔法は使えない為、これらの説明は後に取っておくことにする。



さて、本題の学園に入学するための特訓についてだが、身体的な面についてはまだ体が出来上がっていないために特訓という特訓は何もしていない。魔法については、体に流れる魔力を意識的に体の一点に集中させたり、体全体を循環させたりするなど魔力操作の練習をしている。しかし、こちらもまだ体が成熟していないため、それ以外の事は何もしていない。



ではこれまでの期間、俺は主に何をしていたのか。それはズバリ”お勉強”である。


グレース剣魔学園の入学試験では剣術試験と魔法試験、それに筆記試験を加えた3つの試験が課される。


剣術試験では、ランダムに選ばれた他の受験生と実際に1vs1で木刀を用いた立ち合いを行う。そして審査官によって、その立ち合いの内容についてのみを評価される。つまり、立ち合いの勝敗は評価に影響しない。そのため立ち合いに勝利したとしても良い評価をされているとは限らないし、敗北したとしても自分の全力を出し切れていれば落ち込むことはない。


魔法試験では、人と同じ大きさの人形に1人3回まで自由に魔法を放ち、それらの威力や精度などについて評価される。


筆記試験については、文字の読み書きや計算、歴史上の人物、魔法の簡単な理論などについて問われた問題が出題される。それら3つの試験の点数配分は同等であり、どれも手を抜くことは許されない。


戦闘の才能があっても阿保では賢い奴に利用されるだけなので学園にそれらは必要ないということである。まあ、当然逆もまた然りであるが。



俺は前世の記憶を手に入れたことで脳が非常に発達しているらしく、赤ん坊の頃から様々なことを考えることができた。これは他の受験生と比べて、間違いなく大きなアドバンテージとなるだろう。そこで俺は、体が成熟し剣術及び魔法の本格的な特訓を始めるまでは勉強の方を優先的に行うことにした。そして後々、剣術及び魔法の特訓を行うようになったらそれらの時間を多く取ることにしたのだ。


というわけで今日も今日とて、俺はお勉強に励む。因みに、ヌレタ村は辺境の村ではあるものの紙や本は珍しいものではない。流石に個人で本を購入することは難しいが、ヌレタ村には1つだけであるが小さめの図書館があるのでそこへ行けば誰でも本を読むことができる。俺はその図書館へ毎日のように通っており、朝から晩まで一日中ずっと本を読んでいる。


更に言えば、この世界の教育水準は日本に比べてかなり低い。例えば、グレース剣魔学園の入学試験の算数は小学生でも少し考えれば解くことのできるレベルであるし、他の科目についてもほとんど同じような難易度の問題が出題される。


前世において俺は普通の人よりも長い時間机に齧り付いていたこともあり、現時点で筆記試験においてはほぼ確実に満点を取れるレベルまで達することができたと思う。だからといって何もしないわけにはいかないので俺は現在、入学試験とは関係なく様々な本を読んでいるところだ。



この世界の創造者とも言える俺ではあるが、だからと言ってこの世界の全てのことを知っているわけでは無い。


どういうことかと言えば、今俺が手にとっているこの本。表紙には魔法工学入門、とある。俺は物語を記す上で、魔法工学なんてものを定義した覚えはない。


つまりこの世界には、小説の中で俺自身が設定していない、もしくは定義していないものに関しては独自の進化を遂げているものが存在する。というか、このアルトという少年自体、それに該当する一例だろう。それらの知識を新しく学ぶことは非常に興味深いことだ。


そんな訳で当面の目標は、この図書館内にある本を全て読破することである。小さいとはいえこの村にある唯一の図書館だ。所蔵されている本の数は決して少なくはない。


「知識をつけておくことに越したことはないだろうし、どうせ今は剣術も魔法もまともに練習出来ないしね。」


この図書館内の本を一通り読み終える頃には体もある程度成長しているであろうと、魔法工学発展と書かれた本に手を伸ばしながらそう思った。

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