第14話 この恋の終わり方
彼はいつものように、そのもじゃもじゃの頭をぽりぽりしきりにかきむしっていた。
「何か悩みごとですか」
「ん?」
私が彼を覗き込むように話しかけると、彼は夢から覚めた子どもみたいに私を不思議そうに見た。
「悩み事ならおねえさんに言ってごらんなさい?」
「うん・・」
私がふざけた口調で言うと、彼はそれには反応せず、その場に寝ころんで、天井を見た。
「ちょっと考えていたんだ」
「何を?」
「この恋の終わり方をね・・」
「恋の終わり方?」
「うん」
「なんでそんなこと言うの」
私は少し興奮気して言った。
「いや、なんか、どんな恋もいずれは終わるだろ。僕たちのこの恋はどんな終わり方をするんだろうって、そんなことをふと、考えてね」
「終わんないかもしれないじゃない。結婚するかも」
私はなんかむきになった。
「う~ん、まあ、そうなんだけど、でも、結婚したって、恋は冷めるだろ。夫婦としての愛情は続くかもしれないけどさ。恋って感じは終わるじゃない」
「でも、結婚してもずっと続く恋もあるかもしれないじゃない」
私は言い返す。
「うん、でも、続いたとしても結局、いずれはどちらかは死ぬわけでさ。結局終わりはくるじゃない。だからさ、どんな終わりなのかなって」
「私たちの恋は永遠に不滅よ」
私はむきになって言い返した。いつになく興奮して、無茶苦茶なことを言い切る私を、少し驚いて彼は、少し身を起こして見た。そして笑った。
「ほんとなんだから。永遠に不滅だよ」
「うん」
彼は笑う。
「絶対終わらないわ」
「分かったよ」
私の剣幕に彼は、少し困った顔をしながら笑う。
「ほんとだよ」
「うん」
私の過去の恋愛は全部自然消滅だった。しかし、私の生来の鈍さ故、連絡来ない、連絡しても繋がらない、それでも気づかず、そして、彼の家に行き、「気づけよ」とキレられ、初めて終わったのだと知る。いつもそんな感じだった。普通なら家に行く前に態度でなんとなく察し、そのまま本当に自然な形の自然消滅なのだろうけど、私は本当にどうしようもなく鈍く、はっきり目の前で言われなければ理解できなかった。
「・・・」
今回もそうなるのではと、私はいつもどこかにそんな不安を抱いていた。この恋の終わり方は、私の方がいつも考えてしまっていることだった。だから、だからこそ、彼の考えをどうしても受け入れられなかった。認められなかった。それは真実だったから・・。
「もしかしたら、僕たちが憎しみ会う時が来るかもしれない」
彼がさらに言った。
「来ないわ」
私はまたむきになって言い返した。
「ははは」
彼は私の剣幕にまた笑った。
「絶対来ないから」
私はさらに強い口調で言う。
「分かったよ」
彼は笑った。
「僕たちの恋は永遠に不滅だよ」
彼は私をなだめるように言う。
「そうよ、永遠に不滅なんだから」
私は口を尖らせて言った。
「ほんとなんだから」
「分かったよ。もうこの話はやめだ。ごはんにしよう」
「うん・・」
私は、なんだか納得いかなかったが、うなずいた。
「お腹が減ると、腹が立つんだ」
「うん」
「コロッケを買ってきたんだ。吉田屋さんのだよ。ここのコロッケはうまいんだ。それに安い」
そう言って、彼は台所に立った。
「少し離れてみる?」
彼は包丁を手に握りながら、また突然言った。
「はい?何を言っているの」
私は驚いて彼を見る。
「いや」
「私のこと嫌いになったの」
私は不安になった。
「違うよ」
「じゃあなんで」
「恋は逆境であればあるほど燃え上がるんだ」
「はい?」
「誰か、作家が言っていた。演出家だったかな?」
「?」
「だから、ちょっと距離をとってだね。その逆境を意図的に作ってみるってのはどうかな、なんてね」
「何を言っているの」
「はははっ、冗談だよ」
「冗談にもほどがあるわ」
私は怒り口調で言った。
「まあ、そうだな」
しかし、彼は笑っている。
「愛する者同士は、ずっと一緒にいるのよ。それだって誰かが言っていたわ」
「そうか」
彼は笑った。
「ずっとずっと一緒にいるの」
「死が二人を別つまで?」
「死も二人を別てないわ」
私は彼の傍に行って、彼の背中に思いっきり抱き着いた。
「ほんとだよ」
「そうか」
彼は私に抱き着かれたまま笑っていた。
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