第5話 散歩
「ラムネありがとう」
彼がそう言いいながら手を振る。
「バイバ~イ」
私も手を振る。おっちゃんたちも笑顔で手を振り返す。私たちはホームレスのおっちゃんたちと別れ、そして、再び川に沿って河川敷を歩き出した。
「なんかいい感じだね」
「うん」
河川敷はなんか気持ちよかった。決して環境だけの影響ではない、ここにはなにか不思議と心地よい空気が流れていた。
「よく、お金が無くて本当に食えなくなった時には、あの人たちに飯食わせてもらってるんだ」
彼が言った。
「ふふふっ、ホームレスの人たちに?」
私は彼を見る。
「うん」
なんの悪びれもなく、彼は無邪気に頷く。
「ふふふっ、はははは」
私は笑ってしまった。
「おかしいかな」
「ううん、おかしくないよ。でも、ホームレスの人にたかる人ってすごいね」
「いや、ホームレスの人たちは、すごいんだよ。僕なんかより、全然生活力があるんだ。この社会で生き残るための色んなサバイバル術を知ってるんだ。どこに行けばどんな食料が手に入るかとか、どこに行けばこんなものが拾えるとか、だから、今日もラムネとかビールとか普通に出て来ていただろう」
彼は力説する。その姿がさらにおもしろかった。
「うん」
「僕なんかよりよっぽどリッチだよ。彼らは」
「そうだけど・・」
私はやはり笑ってしまった。やっぱり、ホームレスに食べさせてもらう人ってなんかおかしい。
「おかしいかな」
彼はしきりに首を傾げた。そんな彼のしぐさがまた面白くて私はさらに笑った。
その時彼が空を見上げた。私もつられてその方を見る。
「あっ、カモメだ」
たくさんのカモメの群れが上空を旋回していた。ここは海に近い河口付近なのでカモメがたくさんいた。すると彼がポケットから、パンの固まりを取り出した。
「どうするの」
私が聞くと彼はニッと笑うと、それを千切り、空に投げた。するとそれをカモメが見事に口でキャッチする。
「おおっ、すごい」
私は思わず、声に出していた。
「やってみる」
「うん」
私も彼からもらったパンを千切り、空に投げる。
「あ、やったぁ」
私の投げたパンの欠片もカモメが見事にキャッチした。
普通に働いている人なら絶対に、歩いていない時間帯だった。その時間にこうしてゆったりと二人で散歩が出来ることはなんて幸せなことなのだろうとその時私は思った。
帰りに、おばあさんの頼まれごとのついでに、スーパーで私はすき焼きの材料を買った。何か楽しいことがある時はすき焼き。それが我が家の伝統だった。だから、今夜はすき焼きにしようと思った。
「大丈夫?」
彼が心配する。
「うん」
アルバイトの身だったが、お金はギリギリなんとか足りた。さすがに牛肉は高かったが・・。すき焼きを豚肉には出来ない。それはすき焼きではないから。
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