第9話 姫に守られる勇者って、ありえなくない?
あぁ、そうなっちゃう。
うん、分かってたよ?
マリウスの『勇者』はタイトル詐欺なんだって、そんなことくらい分かって……たまるものですか!
「ねぇ、マリウスさんって、本当に勇者なの?」
「い、いやだな。本当に勇者ですよ? ほら、免許もあります」
いや、それ免許じゃなくて、冒険者ギルドの登録カードだよね?
確かに『勇者』って、書いてあるね……。
信じられない。
あれ、勇者って称号みたいなもんだから、ギルドカードに記載されないんじゃないの?
でも、眼を擦って何度見ても勇者だね。
「きしゃー」
「うっさい!今、取り込み中なのよ」
茂みから飛び出して襲い掛かってきたゴブリンに裏拳を叩き込む。
グシャって、何かが潰れるような嫌な音を立てながら、ゴブリンだったモノが空高く飛んでいった。
イラッときたから、力加減を失敗しちゃったみたい、てへっ☆
「それで勇者さまがどうして、わたしの後ろで何もしないのかなぁ? ねぇ?」
「ええと、それはその……どうしてかな」
わたしの後ろで小刻みに震えていた(自称)勇者のマリウスさんは視線を泳がせながら、おどおどしたいわゆる挙動不審な態度。
最近の勇者って、こんなのでもいいんだ?
それ言ったら、最近の魔王もわたしみたいなのでいけるんだから、ありなのかな?
いや、ないでしょ。
勇者って、夢とか、希望を守るこうキラキラしたのじゃないの?
「あぁっ、もう。分かったわ。わたしがやれば、いいんでしょ」
他の階への移動が一瞬で便利な転移装置があるのは五階ごと。
わたしが今、いるのは五階。
五階まで我慢するのは本当、きつかった。
出てくる魔物に言うこと聞かせるのって、勇者の仕事じゃない。
わたしって、姫役だよね?
本当なら、待っているだけでいいはず。
おかしい、絶対におかしい。
「マリウスさん、着替えてくるから、その辺で適当にしてて?」
「え!? ちょっ、僕を一人にするんですか!?」
うん? 何か、言ってる?
でも、ほら着替えないと無理だから、ちょっとくらい一人でも大丈夫だよね。
だって、勇者でしょ。
転移装置で最上階の管理区に戻って、アンソニーを蹴っ飛ばしつつ、ローブ・デコルテなんて冒険に向いてない服から、軽く補強された装甲板が付いたチュニックとショートパンツに着替えて、髪もポニーテールにした。
魔石を嵌めた篭手と脛当てを装備して、準備は完了!
「たっだいまー……って、大丈夫?」
マリウスもといお客さまが待っている五階に戻ったわたしの目に映ったのはスライム相手に構えたロングソードが震えでガタガタしてる何とも情けない勇者さまの姿だった。
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