第6話 謎解きは得意なの(物理的に)

 勇者に平和的に帰ってもらって、問題解決したと思ったら、次の日も平然と現れた。

 勇者はすごく暇なのかな?

 わたしはまだ、学院に入学してないから、本当なら習い事だけですごい忙しいってことはないんだけど、ママのせいで忙しいんだよね。

 今日もまた、面倒なことが起きたんじゃない?


「ぬぁんですって! どういうこと?」


 アンソニーの報告にわたしの顔色は真っ青になってるに違いない。

 メイドさんが全員、引き抜かれたって、どういうこと?

 え? 無理じゃない?

 カフェとして、もう無理でしょ。

 そんなのってないよ!


「いやあ、姫さま。これは営業が出来ませんね。どうします?」

「どうしますって、どうしよう?」


 アンソニーの報告ではメイドさんはうちよりも好待遇を約束されて、引き抜かれてる。

 それだけの余力があるところに引き抜かれたってことだよね。

 つまり、正面から殴りかかっても返り討ちに遭うってこと。

 じゃあ、どうすればいいか。

 わたしの力をフルに使うしか、ないかな?


「カフェやめよう」

「姫さま……三日坊主より早いですよ」

「でも、このまま続ける意味ある? メイドさん、新しく募集しても前より、質落ちちゃうでしょ? それに引き抜かれたってことはライバルがいるってことじゃない」

「ではどうされるのですか?」

「時代は今、謎解きクリアなのよ。来たれ、勇者!ろーぐらいくってのを体験させてあげるのよ」

「また、姫さまが変なこと考えだしたか……」


 わたしの力は創造クレアシオン

 創造っていうとすごく何でも出来そうな力のように思えるけど、全然そんなことない。

 制限があるから、自由に何でも創り出せるって訳じゃないからね。

 まず、創り出せるのは先祖伝来のこの屋敷の敷地内って、限られてる。

 逆に言うと敷地内では自由にやれるってことなんだけど、敷地内じゃないと何も出来ないので便利とは言えない。


「顕現せよ、我願うは天を衝く尖塔なり! 創造クレアシオン

「姫さま、力を使う時は後先考えましょうか?」

「え?」


 創造クレアシオンの力で白亜のお姫さまが住むお城って感じなメイドカフェ兼屋敷が作り替えられて、六十階建ての巨大な塔になったのだ。

 住居エリアっていうか、要はわたしたちが生活するエリアは最上階になった訳で……


「降りるの大変じゃない、どうするのよ?」

「どうするって、姫さまがやったんでしょうが!」

「あいたたたっ、それ、やめなさいって」


 恒例のこめかみグリグリをされてるけど、今回は甘んじて受けてやるわ。

 さすがに今回の失敗は痛い。

 調子に乗って、どうせなら六十階建ての塔にすれば、攻略し甲斐があって、お客さん来るかも、なんて考えたのがまずかったのね。


「むー、分かった。一階までちょっと行ってくるわ。テストプレイって、大事だよねっ」

「あっ、姫さま。お待ちを……って、聞いてすら、いないか」




 アンソニーが何か、後ろで言ってた気がするけど、華麗にスルーして、自室で着替えることにする。

 メイドさんいなくなったので髪は軽くポニーテールでまとめておく。

 本当はもっときれいにまとめて、アップにしたいんだけど手先が器用じゃないから、諦めるしかない。

 戦う必要もありそうだから、動きやすい服装の方がいいよね?

 着やすい、脱ぎやすいのは重要だから、ワンピースでいいかな。

 クリーム色のシンプルなデザインのワンピースを着て、魔力を上げる効果がある宝石が嵌め込まれた篭手と脛当てを付ける。

 ミスリル製の先祖伝来のうんたらななんたらだよ?

 うんたらが何かは何度、教えられても頭に入らなかったけどねっ。


「よしっ、準備完了。どんな感じなのか、楽しみね」


 この時、わたしは自分で設定していた忘れていたのだ。

 挑戦するたびに構造が変わるタイプのタワーであるってことを。

 テストプレイする意味なんか、ないってことに気付きかず、わたしは一人、スキップしながら、ワクワクした気分で五十九階に足を踏み入れるのだった。




「んー、何か、物足りなくない? 五十九階って、最上階のすぐ下でこんなのでいいのかな」


 恨めしい、恨めしいとまとわりつこうとしてくる鬱陶しいゴーストを紅蓮の炎で燃やし尽くしながら、長い長い廊下を歩いている。

 もううんざりするくらい歩いているんだけどどうなってるの?

 ま、まさか……これが無限回郎ってやつ!?


「あっ、いいこと思いついたわ」


 わたしはすぐそばの壁に拳で大穴を開けて、壊してやった。

 見えているところだけを通らないといけない、なんてルールないし!

 ひたすら、壁を壊しまくっていたら、下り階段が見つかった。

 余裕じゃない?

 わたしの手にかかれば、謎解きなんて、楽勝なのよっ!


「姫さま、それは謎を解いていません。力業でゴリっているだけです」


 最上階でその様子を見て、頭を抱えるアンソニーであった。

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