第2話 新装開店メイド喫茶は順調です
想像していたのと違う。
こんなの詐欺だよっ!
「アンソニー、おかしくない? どうして、わたしと同じくらいの年齢の子がいないのよ」
「メイド服が制服でかわいい女の子として募集しましたが何か?」
確かに目を引くようなかわいい子が特別にあしらえたうちのオリジナルメイド服着てる姿はかわいいと思う。
かわいいんだけど違うのよ。
どう見ても十代後半以上の子しか、いないじゃない。
「ばあさんはいらないって、言ってるの。もっとわたしくらいの年齢の子がいいのっ」
「姫さま、残念ながら、姫さまくらいの年齢は学校に通っております。それに姫さまはご存知ないと思いますが労働法で十五歳未満はダンジョンでの労働を禁止されております」
「はぁ?わたし、十一歳ですけど? 違反じゃないの」
「経営者と労働者は違うのですよ、姫さま」
「はいはい、それでどうなの?」
「はい、は一回ですよ、姫さま」
「ひたいってびゃ(痛いってば)……はい。これでいいでしょ」
これは虐待よね?
はいが一回を教えたいなら、口で言うだけでいいのに何で抓るのよ。
「では実際の現場をご覧いただきましょう、こちらを」
アンソニーがパチンと指を鳴らすとわたしたちの前に城のとある空間が映し出される。
▽ ▼ ▽
「いらっしゃいませ、ご主人さまぁ」
ウェーブのかかったショートボブのブロンドを揺らし、男だったら、誰しも見惚れてしまうような笑顔を浮かべながら、お辞儀をする女の子。
女の子が着ているメイド服はオーソドックスなクラシカルドレススタイルの裾が長く、足首まで隠すのとは一線を画すデザインでスカート部分が非常に短い。
膝よりも上までしかないスカートに合わせ、白い二―ソックスを履いているが屈んだり、油断すれば、下着が見えてしまう危うさがあった。
お辞儀をされた青年は頬を赤らめ、彼女に案内されながら、席へと向かうがその視線が歩くたびに揺れる髪ではなく、別の揺れる豊かな場所に注がれているのは傍目にも分かる。
「おすすめのものって、あるのかい?」
席に着いた青年がそう尋ねた瞬間、注意深い者が見ていれば、彼女の瞳が妖しく輝いたのに気付いただろう。
『かかった』と捕食者が獲物を捕らえた時の目をしていたのだ。
「ご主人さまぁ、クリスのおすすめはぁ、こちらですぅ、てへぇ」
メニュー表を手にわざと屈み、胸の谷間を見せつけながら、高いメニューばかりをすすめていく。
「そ、それでお願いするよ」
「ありがとうございますぅ、ご主人さまぁ」
▽ ▼ ▽
「アンソニー、あの子……」
「クリステルですか。黒豹の獣人族の娘です。年齢は確か、十九歳かと。何か、気になる点でもございましたか?」
「あれ、普通の獣人? あれって、多分……」
「気付かれたのですか? 姫さま、嫌がっていた割にしっかりと勉強されていたんですね」
アンソニーはそう言うとハンカチを取り出して、涙を拭う。
わざとで振りなんだよね。
何度も騙されてるわたしはもう騙されないよ。
「じゃあ、やっぱ淫魔の血が混じった子?」
「曾祖母がそうだったようです。よく気付かれました」
「それであの感じってことは?」
「ええ、売り上げは順調です。この分ですと今期の売り上げだけで前年度を超える可能性もございます」
「本当? やったね、わたしの言った通りじゃない。だからさぁ、もっと年齢を……」
「それは当局に目を付けられるので駄目です」
「このケチじじい!」
わたしはアンソニーの脇を狙って、掌底を打つと見せかけ、思い切り彼の急所を蹴り上げる。
さすがにアンソニーでもそこは鍛えていなかったのか、『うっ』と呻いて蹲ったのを華麗に放置して、部屋に戻ることにした。
ぐにゃっていう嫌な感触がしたし、二度目は通じない可能性あるから、もうやるのはやめておこう。
「ふふん。かわいいよね、このメイド服」
部屋で何をするのかっていえば、密かにオーダーしておいたメイド服をこっそりと着るのだ。
そもそも、デザインの可愛さに一目惚れして、制服として採用したのはこのわたしなんだし。
くるんと一回りしてみるとスカートがひらっと翻って、それもまた、かわいさに影響していると思う。
スタンドミラーに映る自分を見つめると鏡の中のわたしがわたしを見返してくる。
わたしはよく、ママに似ていると言われる。
ちょっと癖のあるふわふわとしたブロンドの髪にコバルトブルーの瞳はママ譲りで垂れ目気味な目もママ譲り。
まるで絵本に出てくるお姫さまのような見た目だと自分でも思うし、実際、そうな訳で。
パパに似ているのは無駄に向こうっ気が強いところかな。
「うん、わたしはかわいい。一部以外」
胸はようやく育ちかけって感じでさっきのクリステルっていう子みたいにまだ、目立つほどはない。
でも、わたしはまだ十一歳なんだから、牛乳飲めば育つかもしれない。
問題はそこじゃないんだよね。
スカートの下に邪魔なものがついているのだ。
そのせいで可愛い下着も無理なんだし。
「誕生日まであと一週間かぁ……どうしよう、わたし」
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