魔王様は今日もわがままを言う

黒幸

第1話 魔王グレモリー

 わたしはマリア・レジーナ・ノイブルク。

 十一歳になったから、来年になったら、学校に通える年齢だ。

 それが令息や令嬢の義務なのにそれすらもわたしには許されないらしい。

 わたしだって、同い年のお友達とキャッキャウフフとか、したいのに許されないんだ。

 まだ、早いかもしれないけど恋の一つだって、してみたいのに許されないなんて、罰ゲームに等しい。

 あー、許されないばかりでおかしくなりそう。


「それで姫さ……いえ、魔王さま。難しい顔をして、何を書いておられるのです? 落書きはいけませんよ」


 床に寝そべって、わたしが必死に書いている事業計画書を覗き込み、落書きだのと抜かしてくる失礼なやつはアンソニー。

 ママが魔王の時から、我が家に仕えている執事でわたしの家来のはず。

 ママが子供の頃にはもう大人だったって聞いているから、相当な年齢のおっさんなんだと思うのに見た目は眼鏡が似合って、執事服が似合って、長身で顔はいいのにいけすかないすかぽんたんだっ!


「お前って、執事よね?」

「さようでございます。イグザクトリーですよ、姫さま」


 こいつ、ついに魔王様とも呼ばなくなりましたよ。

 雇用主に対する敬意ってものがないの?

 ねぇ、教育的指導しちゃうよ、いいの?


「まぁ、いいわ。これはね、わたしの考えた事業計画書よ」


 同じフィールドに立って喧嘩をすると同類に見られるもん。

 しょうがないから、我慢してやるわ。

 わたしはとても丁寧に書いたこの城を有意義に使った事業の計画を手にするとアンソニーの前にビシッと差し出した。

 そのあまりの素晴らしさにアンソニーのやつは声も出ず、プルプルと震えてやがりますよ。


「姫さま、これは何の冗談ですか?」

「は? 冗談は嫌いよ。本気! 時代はぐろーばるでわーるどわいどな視点から、いのべーしょんなすたんすで切り開かないといけないの」

「訳の分からない単語を適当に並べて、煙に巻くのはやめましょうか」

「ひ、ひゃい」


 解せぬ。

 なぜ、魔王で姫たるわたしが執事に首根っこを掴まれて、プランプランされてるのよ?


「どういうことですか、御説明いただけますよね?」

「ひっ、わ、分かったわ。そこまで言われたら、説明してあげま……いえ、させてください」


 なぜか、地べたに座らされて、凄みを利かせた怖い顔で睨まれちゃった。

 下着がちょっと汚れたかもしれない。

 わたしは悪くないもん。

 こ、怖くなんてないんだからね。

 それにわたしの考えた事業計画は完璧なんだから。


「魔物を徘徊させて、やって来る冒険者や勇者から、金品や魔力を奪い取るなんて、古いのよ。時代に乗り遅れちゃうと思うの。分かる? あっ、アンソニーはじじいだから、分からないか? あっ、ちょっ、痛いから、やめて!冗談だって」


 こめかみを拳でグリグリするのはいけないと思うのよ。

 わたし、魔王よ。

 だいたい、お前、執事じゃない!

 おかしくない?


「こほん、それでね。時代のニーズに合ったダンジョン経営をするべきだと思うのよ」

「その時代のニーズとやらがダンジョンを娯楽施設として運営することだと仰るんですかね?」

「そ、そうだけど? これなら、合法的にお金を取ることが出来るのよ。冒険者たちは楽しむ、わたしたちは儲かる。誰も損しないよ?」


 時代はかわいいなんだよっ!

 今時、気持ち悪い・怖いだけの魔物なんて、人気が出ないんだよっ!


「ほぉ。それで姫さま、募集する人材がかわいい女の子だけなんですかね?」

「それはほら、わたしもお友達欲しいじゃない? 出来たら、かわいい子がいいなぁ」

「どの口がそういうこと言いますかね?あぁ゛ん?」

「だぁら、やめて! それ痛いって」


 こめかみをグリグリするのやめっ!

 髪が乱れるわ、痛いわの二重苦だって。


「あのですね、姫さま。職権濫用はいけませんよ、魔王としての常識ですよ」

「濫用してないじゃない?ちょっと好みの子を侍らせたかっただけ」


 そう正直な気持ちでそうしたいだけなのにアンソニーはうるさい。

 だいたい、ママがバカンス行きたいから、魔王やっといてって、そこからおかしいでしょうが!


「わたしはやりたくて、やってるんじゃないもん」

「姫さま、姫さまももう十一歳。十二歳になるまでに決めないといけないんです。お分かりですか?」

「分かってるわよ。どっちになるかを選べばいいんでしょ? 分かってるって、そんなことくらい」

「仕方ありません。メイド服を制服として、女の子を募集すればいいんですね?」

「うん」


 こうして、十一歳の(仮)魔王グレモリーが運営する白亜の城を模したダンジョンはメイド喫茶の様相を呈すのであった。

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