第16話 夏菜の悪ふざけ

「なんか雲行きが怪しくなってきたな。今日は雨の予報だったっけ?」


 スーパーで買い物を終えて帰ろうと思ったが雲行きが怪しくなり今にも雨が降りそうだった。


「本当、真っ黒な雲が出てきたね。急いで帰った方がいいかも」


 俺たちは早足でマンションに向かった。


「うわ! メチャ降ってきた。ちょっとそこのマンションのとこで雨宿りしよう」


 ポツポツと降り出した雨はあっという間に滝のような雨となり容赦無く俺たちの身体を濡らしていった。


「結構濡れちゃったね」


 あまりに雨足が強くなりたまらず近くのマンションの駐車場で雨宿りをすることにした。

 雨にさらされたのは一分にも満たない時間だったがお互いに結構濡れてしまう。


「通り雨ですぐに止むといいんだけど……」


 ザァーという雨音が響き俺たちは会話も無いまま雨が止むのを待つ。


「なんか止みそうもないね……」


「このままだと身体が冷えちゃうし部屋までもう少しだから走って行こう」


 止みそうな気配がなかったのでずぶ濡れを覚悟して帰る事にした。


「うん、分かった」


「よし、夏菜気をつけてな」



 激しい雨の中ずぶ濡れになりながら走り、なんとか部屋の前まで到着した。


「まさか走り始めてから更に雨足が強くなるとは……」


「下着までビショビショになっちゃったよ」


 夏菜の白いブラウスが雨で濡れて身体に張り付き、ピンクのブラジャーが透けて見えてしまっていた。

 夏菜は気付いていないようだがこのままだと目の毒だ。


「ち、ちょっと待っててタオル持ってくるから」


 俺はドアの鍵を開け部屋の中に入り脱衣所からタオルを持ち出し夏菜に渡した。

 

「は、はいタオル」


「ありがと……おにーさんなんか挙動不審ですね」


「い、いや、そんな事ないぞ。うん」


 どうに夏菜の濡れた身体に目がいってしまう。ピンクのブラに薄らと透けた肌に濡れた髪。なんとも扇情的な光景だ。


「お、おにーさんのエッチ!」


 俺がチラチラと夏菜を見ていたせいで気付いたらしく、自分で自分の身体を抱くように透けたブラジャーを隠した。


「こ、これは不可抗力なので勘弁してください」


「おにーさんはむっつりなので仕方ないですね。それじゃシャワーを貸してもらえますか? このままだと風邪ひいてしまうので」


 むっつりって……むっつりスケベってことだよね? まあ否定はできないけど。


「そ、そうだな。洋服は寝室でハンガーに掛けて暖房付けておけば帰る頃には乾くと思う」


「それじゃあ、私の着替えはおにーさんの洋服という事になりますね」


「あ、確かにそうだな……洗濯してキレイなのを出すけど俺の着ていた服はイヤだよな……」


「ぜんぜんっ、そんな事ないですよ! 着替えはおにーさんのYシャツを所望します」


「Yシャツ? 会社に来て行くやつか?」


「そうです」


「確かにアレならクリーニングに出してあるからキレイだな」


「いえ、おにーさんが着ていた服がイヤなのでは無くてですね……ブカブカの白いYシャツを着てみたいのです」


「う、うん? よく分からないけど、バスタオルとYシャツと下は……ジャージかなんかを用意しておくよ」



 使う予定とかもちろん考えてなかったけど昨日お風呂も清掃しといてよかった。ホントにお風呂使うなんて考えてなかったからね?

 ひとり言い訳をしながら夏菜を脱衣所に案内する。


「覗いちゃダメですよ」


「覗かないから!」


「あ、どうせなら一緒に入りますか? おにーさんもすぶ濡れだし」


「覗かないし一緒に入らないから!」


「おにーさんも意気地なしですね」


「いいから早く入ってきなさい。風邪ひくよ」


「はぁい」


 こんな時でも夏菜は俺を揶揄うモードだな。いや……むしろこういうシチュエーションだから面白がってるのかな。



「夏菜、タオルと着替え置いておくからな」


 浴室からシャワーの音が聞こえる。曇りガラスの向こうに全裸の夏菜のシルエットが映し出され何とも言えない気分になってしまう。


「はーい」


 い、いかん……どうにも今日は夏菜を意識し過ぎている。変な気持ちを抱く前に退散しなければ。名残惜しくも俺はさっさと脱衣所を後にした。



 俺は濡れた服を着替えた後、悶々としながらリビングのソファーに座りテレビを観ていたが、夏菜の全裸のシルエットが頭をよぎり番組の内容は全く頭に入ってこなかった。


「おにーさん!」


 夏菜がシャワーを終えてリビングに戻ってきたようだ。


「な、夏菜⁉︎ な、なんでバスタオル一枚なんだよ⁉︎」


 姿を現した夏菜はなんとバスタオルを巻いただけのほぼ半裸だった。思わず見惚れてしまう白くて綺麗な肌、最近大きくなったと自分で言っていた二つの膨らみがバスタオルを押し上げ胸元に立派な谷間を作っていた。


「えへへ、バスタオルの下はですねぇ――」


 夏菜は挑発的な笑みを浮かべ身体に巻いたバスタオルに手を掛けた。


「ジャーン!」


 夏菜は手に掛けたバスタオルを躊躇なくバサッと取り去う。


「な、夏菜、やめ――⁉︎」


「バスタオルの下は裸だと思いましたかぁ? 残念でした! おにーさんに選んで貰ったランジェリーでした! 肩紐が着脱できるんです」


 バスタオルの下は全裸だと思っていたが、夏菜は下着姿だった。少し残念な気持ちもあったが下着姿の彼女も十分官能的な姿であった。


「あはは、おにーさん耳まで真っ赤ですよ? 目をつむっていたように見えたけど薄目で見てましたよね? うふふ」


 く……今回は完全に夏菜にもてあそばれている。このままでは年上としての立場がない。俺はすぐさま反撃することを誓った。


「そ、そういう夏菜は裸じゃなくても下着姿を堂々と晒して恥ずかしくないんですねぇ?」


 全裸ではないといえ水着では無く下着姿を男の前で晒すのも普通は恥ずかしいはずだ。


「ふぇ⁉︎ おにーさんのエッチ!」


 今更だが自分の痴態に気付いたのか夏菜は全身を真っ赤に染め再び脱衣所まで逃げるように戻っていった。


「結局、夏菜は一体何がしたいんだ……」


 自爆した夏菜の下着姿とシミひとつ無い綺麗な肌を脳裏に焼き付け、夏菜は何も考えてはいないんだな、と俺は溜息を吐いた。

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