第17話 夏菜は料理上手(前編)
「うわ、本当にブカブカです。こういうの萌え袖って言うんですよね」
下着にバスタオルを巻いて全裸に見せかけた悪戯をしたはがいいが、結局恥ずかしくなりYシャツに着替えた夏菜が余ったシャツの袖をブラブラさせている。
――うん、萌えるな。
ブカブカの白いYシャツがよく似合っている。胸元が少し開いていてそれもまたセクシーだった。
「下のジャージが微妙だけど中々いいな……確かに萌えるかも」
「それじゃあ下のジャージ脱ぎましょうか? パンツ一枚になっちゃいますけど」
それはそれで見てみたいがそろそろ理性が崩壊しそうで危ないから止めて欲しい。
「はいはい、どうせまた恥ずかしいって逃げ出すんだろ?」
今日は終始やられ放しなので、少し意地悪な言い方をしてみた。
「へえ、おにーさん強気じゃないですか? 我慢比べをしましょう。私が恥ずかしさに耐えられなくなるのが先か、おにーさんの理性が崩壊するのが先か」
え、なに? その危険なチキンレースは。
「そんな我慢比べしたくないわ! そんな事よりそろそろ調理を始めないと遅くなっちゃうよ」
急な豪雨で雨宿りをしたり夏菜がシャワーを浴びたりしていたら既に陽が傾き始めていた。
「そんな事とは心外ですが、確かに時間も遅くなってきたので料理を作り始めますね」
「俺に何か手伝うことはあるか?」
「今日は私が全部やるのでおにーさんもシャワー浴びてきてください。風邪引いちゃいますよ」
「分かった。それじゃあお願いするよ」
「任せてください! とびきり美味しいカレー作りますから!」
そう言って張り切る夏菜は本当に楽しそうで、その笑顔がキラキラ輝き眩しかった。
ずっと一人暮らしだったからこういう暖かい雰囲気に憧れていた。いつも部屋に帰ると誰もいなくて寂しくて、疲れて寝るだけだった我が家に癒しの女神さまがいる。たとえ今だけだとしてもこの時間を大切にしたい。
「はぁ……」
「それにしても今日の夏菜はなんであんなに挑発的なんだろうか……」
俺は浴室でシャワーを浴びながら今日の夏菜の言動を思い出し溜息を吐いた。正直、夏菜が色々と揶揄ってくるが実はかなり嬉しかった。でも、その身体を張った揶揄い方が問題だ。
「あ、やべ……」
夏菜のバスタオル姿や下着姿を思い出し、悲しい事に下半身が反応してしまっていた。
「このままじゃ出れないな……抜くか? いや、本人が近くにいるのにオカズにするなんて不誠実だな……」
シャワーを浴びながら悶々と葛藤していると脱衣所のドアが開く音が聞こえた。
「おにーさん、お背中流しましょうか?」
――な、夏菜?
ドア越しに声を掛けてくる夏菜。何もこのタイミングで登場しなくてもいいのでは? 見られている訳ではないけど咄嗟に下半身をアカスリタオルで隠した。
「け、結構です!」
夏菜に
「遠慮しなくてもいいのに」
「い、いいから! そ、そろそろ出るからキッチンに戻っててくれないか? お願いします」
「はーい、分かりました」
パタパタとスリッパの音を鳴らしバタンとドアが閉まる音がした。夏菜は脱衣所から出て行ったようだ。
「ふう……心臓に悪いな……まったく」
俺はシャワーを冷水に切り替え、頭から水をかぶり心を落ち着かせる。ついでに大きくなってしまった下半身にも治まるまで水を掛け続けた。
「なんか身体が逆に冷えちゃったな……」
シャワーを浴びたはずなのに何故か身体を冷やしてしまうという本末転倒な
状況に、脱衣所で身体を拭きながら俺は苦笑した。
シャワーを浴び終えリビングに戻るとYシャツに下はジャージという出立ちに、ホームセンターで買ったエプロンを着た夏菜がキッチンに立っていた。
「夏菜、エプロン似合うな」
「裸にエプロンの方が良かったですか?」
「そんなのどこで覚えてくるんだよ」
「綾歌が教えてくれました。男の人はそういうの喜ぶんだよって」
「ああ……この前会った夏菜の同級生だったっけ? 何でも真に受けるんじゃありません」
「おにーさんは嫌いですか? そういうの」
「好きとか嫌いとかじゃなくてだな……そういう質問には答えにくいのだけど」
「大丈夫です! おにーさんにどんな性癖があろうと私は受け入れます!」
「俺にアブノーマルな性癖は無いからね? 至ってノーマルだから」
「それで結局のところ裸エプロンは好きなんですか?」
いや、好きだが今はあまりそういう話はしたく無いんです。やっと冷水で治ったばかりなのに想像してしまうとまた息子が復活しそうなので。
「あ! 夏菜、鍋が吹き溢れそうだぞ!」
「え⁉︎ わ、大変!」
丁度良いタイミングで話題を逸らすことができた。お鍋さんありがとう。
「夏菜、よそ見してると火傷するぞ。料理に集中しなさい」
「はーい、ごめんなさい。もう少し時間が掛かるからおにーさんはテレビでも観て待っててください」
「くれぐれもケガとか気を付けてくれよ」
「炊事は慣れてるから大丈夫ですよ」
「そういう慢心が事故を招くんだよ」
「分かりました!」
夏菜はビシッと敬礼をした。
「ホント、分かってるのかな?」
今日の夏菜は浮かれているようなので少し心配だ。
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