第15話 偽装カップル?
「へえ、私の家からはそれほど遠くないんだね」
スカイツリーを後にし荷物が多かったのでタクシーで俺の住んでるマンションまで移動し、タクシーから降りた夏菜が周囲を見回しながらを呟いた。
「会社まで歩いて40分くらいだからね」
エレベーターを降り部屋へ向かう途中で隣の部屋の住人の女性と鉢合わせした。
「こんにちは
この隣人は五十代の女性で大学時代から住んでるこのマンションでの知り合いだ。
なので俺の昔の彼女の事も知っているのだが、今はその話題は出して欲しくないところだ。
「そ、そういうのでは――」
「おにーさんの彼女で
彼女と思われてしまうと夏菜にも申し訳ないので、否定しようと言い掛けた言葉を夏菜が会話に割り込み中断されてしまった。
「な、夏菜⁉︎」
(ここは話を合わせましょう。彼女でも無いのに家に女を連れ込んでると思われちゃいますよ?)
夏菜が俺の耳元に口を寄せて話し掛けてきた。そのぷっくりとした可愛い唇を意識してしまい思わずドキッとしてしまう。
確かに付き合ってもいないJKを家に連れ込んでると思われても困るけど……でも彼女とか嘘を吐くのも
「おばちゃんは隣の部屋に住んでる掛川っていうの。夏菜ちゃんよろしくね」
「はい! よろしくお願いします!」
「おばちゃんは泰治くんが大学生の頃からお隣さんなのよ。うちは子供がいないから息子みたいなものね」
「そうなんですね。大学生の頃って言ってましたけどその頃の彼女ってどんな女性でしたか?」
夏菜も何を聞こうとしてるんだ……俺の女性遍歴など聞いても面白くもなんともないし恥ずかしいから止めて欲しい。
「あら? 夏菜ちゃん気になるの?」
「ち、ちょっと掛川さん……その話は勘弁してくださいよ」
このままだと夏菜に全て筒抜けになってしまいそうだったので止めるようにお願いした。
「あら、ごめんなさい。確かに新しい彼女さんの前で他の女性の話をするのはデリカシーが無かったわね」
「夏菜ちゃんごめんさいね。前の彼女といっても何年も前の話だから気にしなくていいわよ」
「はい、大丈夫です! 後はおにーさんに聞くことにします!」
後で聞くって後ろめたい事がある訳じゃないけど……正直なところ夏菜には聞かれたく無いと思った。
「あらあら、夏菜ちゃんは元気で素直な子ね。泰治くん良い子見つけたわね」
「そ、そうですね。俺には勿体ないくらいです」
恋人設定になってしまっているので恥ずかしながらそれっぽい事を言ってみた。
「へへへ……」
夏菜さんなんか嬉しそうで顔がニヤけている。
「それじゃ掛川さん俺たちは荷物置いてから買い物に行くので」
このままだとボロが出そうだし色々と聞かれそうなので早々にこの場を後にする事にした。
「それじゃ夏菜ちゃん泰治くんの事お願いするわね」
掛川のおばさんの中では夏菜は恋人ということで確定してしまったのだが本当にいいのだろうか?
「はい、私に任せてください!」
夏菜もなんかノリノリだし心配してるのは俺だけ?
「ふふ、本当に明るくて可愛い良い子ね。泰治くん今度は大事にしなさいよ」
「は、はい……分かりました」
「おにーさん大事にしてくださいね!」
それは嬉しそうに夏菜は満面の笑顔だった。
「お邪魔しまーす」
掛川のおばさんと別れ購入した調理用具を部屋に置く為にドアを開け夏菜を招き入れる。彼女は恐る恐る部屋を覗き込み足を踏み入れた。
「ふーん……思ったより広いし、おにーさんの匂いがする」
匂いに関しては長年住んでいて染み付いているのだろうか? 昨日十分に清掃して換気もしたのだが自分では匂いは分からなかった。
「く、臭かった?」
「ううん、そんな事ないよ。寧ろ良い匂い、かな?」
臭いと言われなくて良かったが良い匂いと言われるのも気恥ずかしいものがある。
「おにーさんは大学生の頃からこのマンションに住んでるんだね」
「そう、それで掛川さんは大学生の頃に一人暮らししてる時からお世話になってる人なんだ。入院中もお世話になったし本当に良い人だよ。こっちでの母親みたいなもんかな?」
「そうなんだぁ……私も気に入って貰えるよう頑張らないと」
「夏菜はもう気に入られてるのは間違いないよ」
「ホント? 嬉しい!」
夏菜の人懐こさは誰でも彼女に好印象を抱くだろう。だから誰に会わせても心配はいらない。彼女のその笑顔を見ているとそう思えてしまう。
「のんびりしてると遅くなっちゃうから買い物に行こうか」
「うん!」
ご機嫌な夏菜を連れてカレーの材料を買いに近所のスーパーへと向かった。
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