第十三条 魔法令遵守
月曜日になった。
ウェストミンスターの鐘と同じ、もはやお馴染み過ぎる朝のチャイムが鳴り、担任の教師が教室に入った。
みなだらだらと席に着く。その様子を教卓に着いた教師は徐に俯瞰して気付いた。
「アラディアはいないのか」
まさしく。敬雅の前が空席である。何人かの生徒はそれを確認したり、ひそひそ囁き合ったりする。
白狼だけが頬杖をつきあえて無関心を装っていた。いや、あとは壱子がそんな彼を気にしている。
「まあ、あれでしょうね」
教師の勘繰りを先取りして、学級委員長が指摘する。
「あれ、か」
それだけで、教師も察したようだった。クラスメイトたちも同様だ。
「じゃあ、ホームルームを始めよう。日直、お願いします」
ありふれたことのように担任は進めて指名した。当番が返事をして席を立ち、前に出て朝の会を始める。
一人の生徒がいないことを除けば、何の変哲もないあり触れた学校の日常だった。厳密に言えば、アラディアがいないこともそう珍しくはない。
登校して来た時点で、彼らは全員魔法の記憶を思い出している。たいてい、こんなとき彼女は〝魔法少女の仕事〟に出かけているのだ。おおよそ超常的な何かと察して、彼らはそう呼称していた。
「ねぇ、白狼」
いつのまにか、一時限目までの僅かな休憩時間になっていた。合間に壱子がアラディアの席に座し、声を掛けてきたのだ。
「彼女と一緒になんかやるんじゃなかったの?」
「おれの知ってる限り、やることは終わったよ」敬雅は相手を見向きもせずに答えた。「あとは汚ぇ仕事みたいだから断った。不都合な記憶は後から消されんじゃねーの。おまえも道連れみたいなもんだから、解放されると思うぜ」
たいして感心なさそうに、だけどふと女子高生は一言を発する。
「なんか、らしくないね」
「は? 会ったばっかでおれの何知ってんだよ」
発作のように返した敬雅。
一時限目の教師がほぼ同時に入ってきた。それを確認した壱子は、自分の席に戻りながら最後の言葉を後ろに投げる。
「そういうの、拒否られても首突っ込んで自分で変えようとする奴だと思ってたからさ」
止まったように感じる時間の中。壱子が去っていく。
牙をもがれた白狼には、もう日直の合図も教師の声も教室のざわめきも遠く感じていた。
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