第六章 呪居侵入罪
かくして、次の土曜日。
ジャージ姿の敬雅といつもの衣装なアラディアは電車で東京まで行き、迎えに来たSGTの覆面パトカーでとある住宅街に招かれた。運転手はあの変な中世騎士ではなく、スーツを着た普通の人間だった。
時間が掛かるかもしれないそうなので、いちおう敬雅は外出の旨を家族に伝えておいた。身内は放任主義だし、不良として家出などもいくらか経験済みなため、心配されそうにもなかったが。
そんなことを考えているうちに、街の一角にある事件現場の一軒家には着いた。
敷地はブルーシートで囲われ、門前にパトカーが停まっていてそばの道路もバリケードテープで塞がれている。マスコミもちらほらいた。
覆面パトカーは警備など素通りで、問題の家前で停車した。
敬雅はマスコミらの目が気になったが、アラディア曰く、
「このあいだは魔術の実在を信じてもらうために儀式を披露したが、不可視化の簡略化はできている。もう、着衣も含めてわしと君に施したから互いにしか見えん。カメラなどで捉えられても術が解けないよう弱点も克服済みだ。会話も現場に着くまでは
とのことだった。
「余計な世話まですんなよ」
最後の部分に敬雅はぼやいたが、覚悟する暇もなくアラディアに引きずられて降車させられた。そのまま、短い庭を歩いてほぼ無理やり屋内に連れ込まれる。
『今さらだが、ちょっと待て』
玄関内でドアが閉まると、男子高校生はやっと念話で抗議する。
『ここのニュースは知ってたよ、連続不審死だろ。でもどこが魔法の係わる事件だ? まさか都市伝説の、〝見たら死ぬ動画〟なんてのが事実なわけないよな』
『惜しくはあるぞ』
平然とアラディアは言ってのけた。
『正しくは、〝あることをしながら見たら死ぬ文字〟だがな』
『んなことあるかよ』
笑い飛ばそうとしたが、乾いた笑声になるだけだった。もはや、魔術が存在することを認知してしまっているのだ。
現実となった非現実的な日常から目をそらすように、敬雅はとりあえずぐるりと屋内を観察してみる。
事件現場なので当然警官たちがいる。――混じって香奈々もいた。
驚く間もなく、制服姿の彼女が警部といったところだろう年配の人物と口論している内容が耳に入る。
「ハムの出る幕じゃないだろ!」おそらく警部、が怒鳴る。「同一犯だろうに横取りしておいて、いつまでも
ハムとは公安のことだ。表向きはそういうことにしてあるらしい。
「察庁から指示は受けたでしょ」香奈々は意に介さなかった。「
最後の台詞は明後日の方向に投げていた。目前のたぶん警部は、不思議そうに目を瞬かせる。
それもそのはず。香奈々が呼び掛けたのは、そばに寄った敬雅たちなのだから。
「着いて来て」独り言のように述べて、警部たちに向かっては改めて「あなたたちじゃないわよ」と釘を刺し、香奈々は近くにあった階段を上り始めた。
どうやら、魔女の気配を彼女のみは察せられたらしい。
呆然と立ち尽くす一般警官たちを尻目に、敬雅は不慣れ過ぎる状況で内心戸惑いながらも、平静を装ってアラディアと香奈々を追った。
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