第五条 守秘儀務

 放課後。

 敬雅と壱子とアラディアが残っていると、みんな空気を読んでさっさと教室を去っていった。


「――ってなことがあったわけだ。怖がらせて悪かったな」

 茜色に染まる教室で、敬雅は自分の机で転校してからこれまでに遭遇した超常経験を語り終える。

「へー、そうなんだ」

 すぐ横の開けたままの窓枠に座って聞いた壱子は、実に素っ気ない感想を洩らした。

「それだけか?」思わず、同級生の興味なさげな顔を睨んで敬雅はがなる。「トンデモすぎだろ、もっとツッコめよ!」

「あのね、ここに一年も通えばそんなに不思議じゃないわよ」

「……そういや、そうか」

 もはや不良にも慣れてきて臆せずに言い切る壱子に、男子生徒も納得してしまう。

 学校にいる間は、嫌でも魔女に関する超常現象が実在すると自覚させられるのだから無理もない。

「ただそうね」もっとも、女生徒は付言もした。「アラディアの他にも外に不思議が広がってたってのは意外だわ。どうせ学校出れば忘れるし、何のために詳しく教えたか知らないけど」


「心配はいらん」

 教室後ろの壁に寄り掛かり、腕を組んで聞いていた魔女が口を挟んだ。

「昼休みにも告げたが、君と敬雅は例外的に記憶を保つようにするからのう」


「だーかーら!」

 壱子は不機嫌そうに窓枠から降りた。

「なんでんなことすんのよ、あたしは平穏な日常で充分。でなきゃ、外であんたたちのことばらすわよ!!」

「保つのは記憶だけ、校内で起きた魔法が関与する記録は外に出た途端これまで通り消すわい。騒いでも頭のおかしい女と思われるだけさね」


「なっ!!」

 絶句する壱子に、アラディアはいやらしい笑みで補足する。

「心配するでない、君には魔法に関係することは頼まんよ。ただ、実生活でも秘密を共有する仲として白狼が望むときは力になって欲しいだけさ」


 壱子と敬雅は同時に抗議した。

「わけわかんない。なんであたしがそんな!」

「おれもだぜ。なんでこいつなんだ?」


 そんな二人を交互に見比べて、魔女は意外そうに言及する。

「好意を抱き合っておるようだからのう」


 すると、今度は壱子と敬雅が互いを指差し、声までそろえて同じ台詞を紡ぐのだった。

「「こんな奴に興味ないって!」」


「そら、ぴったり息も合おう」

 得意げにアラディアが肩を竦めると、残る高校生二人は恥ずかしそうに背を向け合った。


 その後。魔女は壱子だけを帰らせると、さっそく敬雅に依頼してくるのだった。

「ではとりあえず、わしの仕事の見学のつもりでここに行こう。香奈々が持ってきた、ちょうどいい事件があってな」

 言って、彼女は貧相な胸元を漁ると制服の内側からスマホを取り出して突きつけてきた。

 画面にはとあるニュースサイトの記事が表示され、写真が添えられていた。最近巷を騒がせている連続不審死事件の最新現場だ。


 転校初日に壱子たちが噂していた、〝見たら死ぬ動画〟の都市伝説元でもある。

 少なくとも十人が、ここ一ヶ月の間に密室でパソコンやスマホを眺めた形跡のまま原因不明の死を遂げているというものだ。

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