第6話 ある卒業生のその後(前編)
もうこれは、五年前以上の話である。
その生徒は、都立中の中でも最難関の部類に入るところを受け、作文のできからしたら充分、合格圏内にいた子だった。しかし、最後の最後、冬期講習も終わった、一月の初旬のクラス替えでなぜか、下クラスに編成され、魑魅魍魎がごった返す中で、精神的に不安定となり、そのまま、それを引きずったせいか、残念な結果となっていた。乾橘(カンキツ)自身としてはなぜ、あのタイミングで、彼は下クラスに編成されたのか、未だに疑問が残っている。もう、五年前以上の事だが。確かに、そのとき行った校舎内テストが振るわなかったというのもある。それにしてもだ。直前期で、あの環境化に陥ってしまえば、出せる結果も出せないような気がした。
ただ、そこには、引っ掛かる点もあった。
彼は、当時の校舎長とうまくいってなかったのである。こどもながらにも、真実は真実として言ってしまう面があった。
そこで反感を食らったのかもしれない。
それにしても、この時期に?と耳を疑ったが、乾橘には、「テストの結果なので。」というだけにその校舎長はとどまった。
実は、この校舎には、もうひとり、五十半ばの大ベテランの理系教師もいた。が、コイツもそういった編成に対してはまったく興味を持たない、完全なるオタクだった。そのため、話にはならなかった。勿論、この一件の解雇騒動に対しても、事前には知っていたらしいが、我、関せずで、授業以外の時間はゲームをやっているような輩だった。コイツの机には、三日に一回は、アマゾンから、漫画やゲームが届いていた。家にいる時間が短いから、校舎に私物を届けるという見事な論理で、ヤツに中では問題はないらしかった。
物凄いエピソードとして、生徒のお土産のお菓子が自分の机の上に二週間以上、放置されていて、別の小学四年生くらいのやんちゃな生徒が、「食べないなら、ぼくにちょうーだいよ~!」と言ったところ、パソコンをずっとみつめていたそいつは、ふと、そのお菓子を手にとり、「おまえにあげるお菓子はねぇ!」と、そのお菓子を横にあった自分のゴミ箱にぶん投げたのだ。
勿論、しばらくその子は、唖然としてその場に立ち尽くし、そいつはなにもなかったようにまたパソコンに向き直し、ゲームをやりはじめたのだ。
その後ろの席で一部始終をみていた乾橘。
今でもその衝撃は、トラウマのようで、脳裏に鮮明に残っている。呆然と乾橘の前を通り過ぎていったその子の顔は未だに忘れられない。
そんな人間がこの業界にはウジャウジャいる。
まぁ、先の校舎長も懲戒免職でその二箇月後の春に、我が塾を解雇されているから、そんな奴だったと捉えているが。
ではなぜ?とおもうだろう。
もう少し、詳しくいうと、独立して、隣の校舎長と個人塾をはじめてしまったのだ。
問題は、併用勤務していたということなのだ。正社員が。しかも、地区長までしている責任者が。
春期講習などは、午前だけ、こちらの塾で働き、午後はそちらの個人塾で働きと。本人は、午後は、奥さんが妊娠して、入院していて、それを見に行くといっていた。
が、ある中学生から、その校舎長がそっちの個人塾に夕方はいるよ?との情報を漏れ聞いて、発覚した。
ちなみに、その校舎長は、乾橘には直接、実家のホテルを継ぐから、塾業界からは身を引くという旨を別室でサシで、真剣な表情で言ってきたが、今思えば、それはすべて虚偽だったのだ。
去り際も酷く、乾橘もその内情を知らなく、辞めることだけは知っていたので、最後の授業で、その校舎長向けに生徒たちに作文のお別れ文を一斉に書かせたのだが、それをもらって、教室の外で待っていた、名ばかり専務に呼び出され、「妻が、妻が、はやく病院にいかないと・・・」と、それを振り切り、去っていった。つまり、お別れ文をもらって早々、教室をでた瞬間に、裏切りをかまし、去っていったのだ。
ありえないにも、程があった。
そして、先の卒業生に戻るが、彼は残念な結果になったものの、三年後にしっかりと、当時受けた中学よりは上のランクの高校にしっかりと合格し、通学しているので、ホットしている。
続く。
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