第25話 光

「な、何?」


 アルがうろたえた。内面の楽しみを映したリアの笑みは状況にそぐわなかったようだった。


「ごめんなさい。これからどうやって鍛えようかと思うと楽しくて」


 冗談めかして紛らわせた。アルが気弱な笑い声を出した。リアは、すぐに表情を引き締めると言った。


「…もう一つ、話しておかないといけないことがあるわね」


「?」


 レガートのことだった。アルと組む以上、曖昧にしておけない事柄だった。


「文礼室に行く前に追いかけてきた男性種がいたでしょ?」


「…レガート、って呼んでたね」


「そう。彼のことよ」


「お互いに知ってるみたいだったけど…」


「…そうね。だって、レガートとは出身が同じだもの。父と旧知の貴族の息子で、幼い時から知ってる。…どんな考え方をして、どんな行動を常としているか…。どんなものが好きか…。たいていのことなら分かるわ」


 そこまで言って、リアは目を伏せた。


「…恋人だったの?」


 アルの言葉にリアはかぶりを振った。


「恋人とは違うわ。お互いに愛を囁いたことなんてないもの。…そうね。何て言えばいいのか、自分でも分からないわ。確かなのは、あなたと出会うまでは一番近しくて、一番大事な男性種だったことだけ」


 言って、リアはアルの目を見た。


「―そして、あたしは自分の目的のためにそんな人を捨てたの」


 二人の間に沈黙が訪れた。


 ややあって、リアは視線を外した。


「…軽蔑する?」


 アルは首を横に振り、否定の言葉を口にした。


「…ありがとう」


 静かにリアは微笑を浮かべた。アルの答えが慰めになっていた。仮に本心と違っていたとしても嬉しかった。


「次はあたしからの質問」


 気を取り直すと言った。


「あなたの相転儀は、『光』。そうよね?」


 アルが頷いた。


 やはり!


 強い高揚にリアは包まれた。先刻までの沈む気持ちは失せていた。大広間での直感の正しさが証明されていた。


 光の属性の相転儀を使う魔族は極めて珍しい。というよりも歴史上、記録は皆無だ。


 魔族の世界に横たわる属性は闇であり、相応する色は黒だった。そのため、黒は魔族から最も高貴な色として重んじられていた。求法院の制服の色に採用される

理由でもあった。


 実際、リアの相転儀も黒と相性がよかった。触媒を髪飾りの形で持ち歩く習慣もあって装飾を意識して他の色も試してみたことがあるが、魔力の発現には黒が最も適していた。


 だが、魔族を取り巻く世界にも光は存在する。魔力が世界を構成する要素の一部である以上、光の属性を持つ魔族はいてもおかしくなかった。そして、体現した人物がリアの目の前にいた。

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