第24話 一番伸びるのはあなた
「じゃあ、何?」
「えっと…」
丸めた手を口元に当て、アルは考え込む仕草をした。
「…その、ぼくは森の試練を抜けるのも一番遅かったし、胞奇子の中でも最低のランクなんじゃないのかなって、そう思えてしょうがないんだ」
「あなたが遅れたのは船のせいじゃない」
「! どうして知ってるの?」
驚くアルにリアは得意げな表情を見せた。
「それも後で説明するわ。ほら、やっぱり違うでしょ?」
「…うん」
視線を外して返事をするアルを見ながらリアは思った。
…魔族としては珍しいタイプね。自信が極端に少ない、って感じがするわ。性種に関わらず、時折見かける…。
横顔を見ていたリアは改めて問うてみた。
「そんなに自分が下だと思う?」
アルが顔を振り向けて頷いた。
「あたしはそうは思わない!」
リアが語気強く言うとアルが目を丸くした。
「大体ね、魔族なんてものは自信過剰と傲岸不遜が服着て歩いてるようなのが普通なのよ!? なのに、どうしてアルはそんなに卑下しちゃうわけっ!?」
「そう言われても…。それに、魔族がみんなリアが言うような人間ってわけじゃ…」
「そんなことない! 魔族はそういうモンなのっ!」
「決めつけられても…」
アルが絶句したところでリアも追撃をやめた。表情を緩めると小さく息を抜いた。
「どうしても最低だと思いたいなら思ってもいいわ。ある意味ラッキーだもの」
「え?」
「だって、これ以上はどうやったって悪くなりようがないじゃない」
笑って言うリアを見て、アルも気弱に笑った。
「ホントだ」
「ね? 後は上がるだけよ。そして、あたしはあなたの力を引き上げるためにここにいる。分かるわよね?」
アルは神妙な顔で頷いた。
「でも、あたし一人がどんなに意気込んでも、あなたに上を目指すつもりがなければ決して上がることはないの。これも分かる?」
もう一度アルが頷いた。リアは顔をほころばせた。
「成り行きはどうあれ、あたしと組んだ以上は頂点まで上がってもらうわよ。昇りがいがあるでしょ?」
今度は、アルは困ったように笑った。
「頑張るよ」
リアは指を立てて横に振った。
「頑張るだけじゃ駄目よ。必ず結果を出してもらうから、そのつもりでいなさい」
返事をしたアルがあまりにも緊張した面持ちをしたので、つけ加えた。
「いい? 期限の直前に到達したあなたは、もしかしたらあなた自身が言うように最低ランクの胞奇子かもしれない。だけど、それはこれからもそうだってわけじゃない。あなた次第でいくらでも向上できるのよ」
顔を頷かせるアルをリアは見つめた。
分かってる? もし、あなたが最低の胞奇子なら一番伸びる人間はあなたなのよ。今、完成している人間はどうやったって伸びようがない。だけど、能力がありながら磨く機会のなかったあなたには大きな伸びしろが残されている。どこまで伸びるか楽しみだわ。
心の中で呟き、浮き立つ感情のままにリアは笑った。
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