第23話 強さとは

「あなたの調制士であるあたしの言葉が信じられない?」


「そうじゃない。けど…」


「けど…、何?」


 リアが問うとアルは一度視線を外した。しばしの間を置き、顔を上げた。


「リアはどうしてぼくをパートナーに選んだの? …廊下を追いかけてきた、レガート? 彼とか、たとえばドロスとか。他にいくらでも候補になる人がいそうな気がする」


 リアは顔をしかめた。ドロスの名を出されたのが不快だった。


「レガートはともかく、あんなのとあたしを結びつけないでよ」


「ご、ごめん。でも、ドロスは身体も大きくて強そうだし…」


 言い訳をするアルを見つめながら、リアは軽くため息をついた。


「あなたは強さというものを誤解してるわ、アル。確かにドロスは体格に恵まれているし、パワーもある。今、ここにいる魔族の中でもトップかもね。だけど、それは肉体的なパワーを破壊力に変換する能力が優れているだけで、俊敏さのような能力には欠けてる」


 リアは一度言葉を切り、アルが真摯に耳を傾ける様子を確かめた。


「何よりもいけないのが、傲慢さよ。やつには死角が多すぎる」


「死角?」


「そうよ。人の思考には限界があるの。これはどれほど頭脳が優秀で、分析や情報収集に長けた者にも当てはまる。どんな人間であろうと思いの及ばない領域というものがあるのよ。そして、傲慢さはその領域を広げることはあっても狭めることはない。傲慢は己を省みたり、情勢の変化を見定める賢明さを遠ざける。…これはレガートにも言えることだけどね」


 リアはわずかに沈鬱な気分を味わった。


 …そう。あたしはそのことに意識の奥底で気づいていた…。だから、アルの力を目

撃した瞬間に思いが弾けたんだ。


 リアがしゃべるのをやめてもアルは静かに目を向けていた。気恥ずかしかったので、思い至った事柄には触れずに先に進むことにした。


「それに、力には使い方、やり方というものが不可欠なの。仮に、あなたの相転儀が山の形を変えるほどの威力があったとしましょうか?」


 一つ、アルが頷いた。


「で、その相転儀を目標物に向かって撃ち出せるとするわね。これは後で確認するから」


 アルがまた一つ頷き、リアはさらに話を続けた。


「だけど、絶大な威力を持つ相転儀であっても何もない場所に撃っても意味がない。だから、目標に向かって撃つという当たり前のことを実行しないといけないし、撃つなら撃つで、より効果的に当てることを考えないといけない。戦争なら戦略や戦術と呼ばれる分野ね。そして、これは個対個の闘いにも当てはまる」


 そこまでしゃべり、リアは人差し指を使って自らの頭を指し示した。


「今言ったことを実行するにはここを使うの。戦闘には程度の多寡はあっても必ずクレバーな要素が必要よ。いい? 必ず、よ」


 リアは『必ず』という言葉を強調して話を終えると微笑んでみせた。


「とりあえず言っておくことはそれだけ。闘争に絶対的な力は必須だけど、力だけあっても駄目なのよ。まあ、ドロスに頭がないとは言わないけど、メンタルな面では穴だらけに見えるわね、あたしには」


 リアが説明し終えてもアルは浮かない顔をしていた。


「まだ、納得しない?」


「そういうわけじゃないけど」


 アルは慌てたように指を広げた手を振った。

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