逃亡

ひぐらしが鳴いていた

ここはまだ君の居場所じゃないよ

そう言われてるみたいだった

苔のむすアスファルト

あの広い池の中には何人も人が入水で

自ら命を絶つと言うが

確かに魅力的であった

水面がゆれ静かな時間がそこでは

ゆっくりと佇む様に流れていた


最近思うことがある

自分の命が帰る場所を探している

土に還るなんてよく言うが

単に死にたいって理由では無く

帰る場所 落ち着く場所 僕を受け入れる場所

それを探している

部屋だったり家だったり

今の駅近徒歩5分の部屋には

雑多な服やらタバコの空き箱やら積読本やら

沢山の物が落ちている

きっと此奴らにも本来帰るべき場所があるはずなのだ

其れを私は縛り付けているのかも知れない

それと同時に私もここに縛られている

誰かの為と決め事とかがある訳でも無いが

この空間は私をここに居させようとしているのだ



彼女の居たあの部屋を思い返すたび

あの六畳間を思い出す度に

本来この命があるべき場所について

考えさせられる


彼女の事はよく知らない

ただ巡り合わせで運命的な出会いでの

繋がりを持ってしまった

僕は彼女が怖い

彼女に会いたくないと深く思う時に

出会ってしまう

会う度に萎縮する気持ちの量は増え

目を合わす度に言葉のを失ってしまう

ただ彼女とだけ 勘違いかも知れないが

行間での会話が成り立つ

会話の途中に黙って目を見ると

返事が返ってくるのだ

2人だけの秘密が解かれまいとする

無言の間が僕は好きであると同時に苦手だ

筒抜けになっている様な気分に陥る

騙し騙し生きている僕の軽薄な心の内を

隅々まで見通されている様だ

ただ言葉の上では否定されていない

それがなお際立ち粒立ち嫌気が刺す


彼女の言いなりになったら

僕は幸せを掴めるかもしれない


彼女の傍に居られれば

きっと悔いの無い死を迎え居れることが

出来るかもしれない


彼女の全てが僕のもので

僕の全てが彼女のものになれば

それが今の僕の幸せの絶頂に感じれた


とても嫌だ

嫌悪の対処だ

話題がお互いを縛ることの無い良い友人

関係だと そんな話の中でこんな事を思う僕は

彼女の言葉を借りるのならば


阿呆



だから僕は心の

命の帰る場所を探している

逃げ出している

現実からも彼女からも

そんな僕を友人と言い

愛する人と書き放した彼女から

僕は今日も逃げている


多摩湖

遠くの常夜灯が連なったあの畔に

水面に片足突っ込んで

そのままで居たかった

それは叶わなかった

またこの部屋に帰ってきてしまった

逃げることからも逃げ出した先には

何があるのだろうか

きっと何も無いのだ

それが今僕の心の内と重なるように


死んでしまいたくなる8月下旬の日だ

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