第8話 アイス
玲子の手元には三角形の円錐を逆にした様な物から派生した虹色に縦に並ぶ異様なナニか(アイスクリーム)があった。時折茶色などの虹色には合わない色もあるのだが、それでも眺めているこちらからしてみれば壮観な物だ。まるで空から虹のかけらが丸くなって縦に一個ずつ落っこちてきた様な、その違法建築待った無しな物品はもはや語るまでもなく、イカれてやがった。
どうやって立っているんだと言う心とどうやって食うんだよそれ、と言う心が入り乱れている。
横の長さはそうでもない、たかが10センチ程度だ。だが、高さはとうに1メートルを超えている
化け物というべきその"アイスクリーム"はいつになく凶悪な顔をしている様な気がしてならない。
「マジで食うのか…」
「うん、これくらいならよゆーよゆー」
玲子はそう言うとお店で貰ったスプーンを取り出し、1メートル上のアイスは食べれないと少し焦りながらも地面にアイスの土台を置いて立ちながら上から食べていた。
とてつもなくシュールな絵面を眺めながら、自分のアイスクリームを食べる。
いくらアイス好きでもこんな風に食う人がいるだろうか、いやいないな
「しかし、お前がそんなアイス好きだったとはな、昔はそんな積極性見せなかったから意外だな、」
「ん、いや〜ね、仕事の都合上食べる事全般が好きになったんだよ。レイコキッチンなんかやってたら余計に作るのも大好きになっちゃって、」
「まぁ、大好きってレベルじゃ無いがな。もはや、依存ってレベルだよ、。と言うか、そのアイスお前の身体の何処に入るんだよ………って!?」
僕がそう言ったと同時にパリッと音が鳴る。
その正体は玲子がアイスのコーンを食べた音で…
あれれぇ〜おかしいなぁ〜二十秒くらい前まで目の前にあんなに高いアイスのタワーがあった筈なのになぁー
「……何も無い…だと…?」
んなバカなと心を殺す、この小説、SFとか異世界ファンタジーとかじゃ無いのに…いや、まぁ、ある意味ファンタジーではあるけど…
目の前でキョトンとしている玲子を尻目に自分の目が疲れてるかもしれないと目頭をつねる。
「…それはまぁ、食べましたから…?」
現実は非常だった。
僕はそう心の中で呟くと、まだ冷え切っているアイスクリームに齧り付いた。
ああ、歯が冷えて痛い
「い、いくらなんでも食べるの早過ぎやしないか?」
「ん、そう?あー、でも仕事で早く食べないと遅刻するって場面多いんだよね、多分それが原因…かな?」
「いや、だとしてもアイスクリームは別だろ。頭キーンってしない?」
「しないなぁ、する必要ないし、」
「いや、必要とかじゃなくて生理現象では?」
そんな事を話しながら少し液体化してきたアイスを舐める為にアイスを口元に運ぶ、すると、ふと、周りの視線に気がついた。
前も横も、後ろを振り返ってみても、みんな僕らを見つめている。
何だ…?さっきの玲子のアイスの一瞬食いが原因で見ているのか?それとも玲子が泉玲子だってバレたのか?
まぁ、といってもバレてるって事は無いだろう。玲子が付けているメガネは縁が少し太い、そのおかげか、今までの泉玲子のイメージとはかけ離れる物が多いのだ。少しでも雰囲気が変われば人はその人が誰だとか、簡単に見失ってしまう。ついでに「あの人気女優がウチの制服を着ているなんて〜」という概念的なバックアップもある事によって、間違っても"泉玲子"="美鈴三 玲子"という公式に当てはまる事はあるまい。
だから多分コレは別の事だと思うのだが。
ふと、向かい斜め右に座っていた女子高校生達の話が耳に届く。
「あの子めっちゃかわいくない?」
「顔ヨシ、性格ヨシ、スタイルヨシ、…うーん、非の付けようが無いって言う…嫉妬しようにも嫉妬できるとこが無いんよ…」
「さようなら、私の自尊心。」
「なら男漁り辞めなよぉ〜」
「それより向かいの男って…」
「彼氏…?にしては…釣り合わなすぎよね。顔フツー、服フツー、ブサイクじゃ無いだけマシって感じ?」
「だよねー、わかるぅ〜」
わかるぅ〜じゃないんよ。まじで泣くぞ。
ふと、携帯をカメラモードにして、自分の顔を覗く。ああ、うん、いつもながらの普通の顔だ。自尊心のカケラも無い、なぁ〜んにもない心が、ちょっと傷付いた気がした。
「どうしたの?」
「いや、」
そう呟く、少し起こる気持ちを抑えながら、アイスのコーンをパリッと食べた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
わかる様な、わからない様な、
アイスを食べる彼を見ながらそう思う。みんな彼を普通と言うが、私にとっては十分印象的だし、魅力的だ。
すべて私本心の言葉、嘘偽りなど何処にだってあるわけない。だけどみんながみんな、アイドルや俳優を特別視する。おかしいってわけじゃ無い。良い人も多いし、カッコいい人も多い。けれど大体みんな私があまり好きじゃない人を魅力的と言う。
私がおかしいのかな、
私は彼が好きだ。昔からずっと、
不真面目で、気力が無くて、頼り甲斐が無くて、不器用で、なのにふと気付くと優しくて、暖かくて、不思議と彼が居るから頑張れるって…なる。
現実嫌いな私のたった一つだけの、大好きで大切な現実。
おかしい事にその
好きな物を否定されるのは少し堪える。
後ろに座っている女の子達の声に反応する。わかっている、怒るべきなんだろう。散々喚いて惨めったらしく謝るべきなんだろう。おかしい事じゃない。私だって、普通だったらそうしていた。
だけど、今の私にはわからなかった。
普通の言葉の意味が。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ってへ、不定期投稿だけど許して!次回はきっとすぐだから!てか、もう書いてるから!
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僕の許嫁は元女優 マッキーマン @makkman
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