第7話 てぇてぇ
「…やっぱり、推せるわぁ〜」
春野花代は職員室側の屋上から、教室側を持参の双眼鏡でのぞいていた。覗く先はもちろん美玲三さん事みーたんの姿がある自分とは隣クラスになる教室だ。
彼女がもし私のクラスに居たのならこんな面倒な事をせずともあの尊き姿を眺めながら食事を行えたものを…くっ、今は隣のクラスを呪うしかできない自分が腹立たしい…厄介オタクと言われても…奴らだけは許さん、呪ってやる!呪ってやるぅぅ!!!
「…あ、今、上の空な顔してる…あぁ〜今の絶対大月くんの事考えてたでしょ…ひゃあ、てぇてぇ」
てぇてぇ、と心の底から思いつつ隣のクラスに双眼鏡をズラす。今の私はみーたんのファンでもあり、れいいずを推している者だ。だからお相手である大月くんの姿を確認するために私人身のクラスを見るが、居ない。そう言えばいつも昼になると霞くんと何処かに行くんだよね。
あれ、すまない。NTRはエロ以外では専門外なんだ。
そう思いながら隣の屋上を見る。居た。
「あ、あの顔絶対、れーたんの事考えてる顔だって。やべぇ、辛い、てぇてぇが過ぎてちらい。」
双眼鏡を大月くんに向けた瞬間、今なんだか物思いに耽ってるような顔をしていた!0.3秒くらい!
何がヤベェって私の通っている学校でこんなアニメみたいなラブコメ見れると言う事だ。しかもお相手は相思相愛のバカップル!ハッピーエンドしか終わりがねぇ。ヒヒヒッ、やばっ、ヨダレ出た。
悲恋なんて私は望んじゃいねぇんだよ!悲恋より喜劇!はっきりわかんだね!!
「でも霞くん…NTRは良くないんじゃないかなぁ。」
間男は許さない。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「ヒィッ、なんか悪寒が。」
「何それ、ワロタ。」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
帰り道、隼一のゲームを受け取りに隣町のTSUT〇AYAまで歩く。隣には全試練を乗り越えた歴戦の勇者の様な佇まいをした玲子が歩いている。本気で疲れたのか足取りが昨日より少し遅かった。
「大丈夫か…?」
僕も少々気になって声をかける、正直顔色が良くない。まるでなんの練習もした事がない人が500キロのダンベルを補助無しで持ち上げてる様な顔だ。
「だ、大丈夫…あれくらい、芸能界時代に比べれば…」
「いや、それ完全に比べるべき対象じゃないと思うが…」
そう突っ込むがやはり結構無理している様子で、返しがない。
「そろそろ休もう。君なんだか倒れそうだし、」
そう言うと玲子は僕は一頻りに見る。
「…休憩…ですか、気にしなくて良いんですよ?」
まだ頑張ると言うのか、
「いや、普通にこんなになってる子の隣を平然と歩くのは気が引ける。それに近くに美味しいアイスクリーム屋があってね。一度行ってみたかったんだ。」
「アイスクリームですか…しかし、夕食前の間食は…」
「何言ってんのさ、今の君にはカロリーが足りてないの。早く行こう。」
僕はそう言うの玲子の手を引いた。
正直彼女の"ソレ"は完全に度を超えている。何か強迫観念に駆られている様なそんな意味の無いまるでツギハギの感情を持つ人形の様なのだ。この1日話してみて分かった事は彼女には大事な物が抜けていると言う事だけだった。
言わば、発する言葉全てが何処か偽物くさい。何処か自分のものじゃない様な。それでいて小説の中の台詞の様な。
彼女のイメージを全て並べてみるだけ並べても未だに彼女を掴めない。
理解する必要も無いのかもしれない。
でも少なくとも彼女を受け入れる事だけは辞めたくない、そう思った。
「味色々あるけど、好きな味とかある?」
「全部ください。」
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