第2話 婚約

こんな光景、、、観たことがある。

たしか『春の日』の一場面にこんなシーンがあった。夕暮れ時、公園の木の元で主人公が幼馴染である"渉"に向いて言うんだ。『愛してる』って…あのシーンはあの『春の日』を代表したシーンと言っても良いだろう。それが僕を主人公として起こってる。

あり得ない、心の底からそう思う。あんなのが起こっていいのはドラマの中でだけであって現実の…しかも普通の体現者である僕に起こっていい出来事ではないはずなんだ。


「どうしたの?」


そう、呆けていた僕に話しかけるテレビの中で見た少女…

僕の頭の中は混乱でいっぱいだった。


「……君、大月和泉君で当てるよね?」

「え…?あ、合ってますけど…」

「やっぱり。私の事覚えてないの?」


僕の事を知ってる…?覚えてるも何も貴方みたいな有名人知り合いに居ませんよ…?いや、一人は居るはけど…従姉妹だし。


「……泉…玲子さんですよね…?」


僕がそう呟く。彼女の名前の筈の言葉を、

すると彼女はその名前を聞くと頭を横に振った。


「…それは芸名、ホントの名前は"美鈴三 玲子"…"泉"って苗字は君の名前である"和泉"から取ったんだ。」


衝撃の事実、実は僕の名前は有名女優"泉玲子"の元でした。なんて…誰も信じないだろうな。


「…本当に覚えてないの?」


彼女はそう呟く。

頬を赤く染めて僕を見る彼女、その目線はズルい。なんでも答えてしまいそうになる。


「…ごめん…」


僕はそう答えるしかなかった。


「…そっかぁ~じゃあ、さっきも言ったけどヒント」


彼女は手を挙げながらそう言う。


「私ね、丁度あの位置で君に言ったんだ。」


そう言って彼女は木の下を指刺した。


木の下…そこは僕が…


「……あの子に…」

「…好きって言ったんでしょう?知ってますよ〜。そして、その相手は?」


 ……あり得ない。


その一言が浮かんだ。あり得ちゃならない、だって…

正直今の僕にあの娘に対してあの時ほどの熱意は無い。"覚えている"本当にただそれだけなのだ。そんな中途半端な僕に……彼女が帰ってきた…?


いや、駄目だ。多分僕は勘違いしてる。"帰って来た"なんて言う表現…まるで僕の為に戻ってきたみたいじゃないか。そんな自己中心的な考えで物を考えちゃだめだ。


「……たしかに君だ…」

「でしょう?」


なんてニヤニヤと笑う彼女、まるで一人だけドラマ中の様な笑顔でこちらを見つめる。してやられた…か、


「……で、この度はどのような用件で?」

「む~、なんか他人行儀~」


口を尖らせながらそう抗議する彼女、観た光景だ。十何年も前に…


「忘れたの~、10年後今日、会いに行くって。」


え、そんなにピンポイントで約束交わしてたの?

き、記憶がない。僕が、今日ここに来たのは本当にたまたまであり、別段そんな約束を覚えていたからという訳ではなかった。


「…悪い、覚えてない…」

「な~んだ、覚えてたから来てくれたんじゃないのか~」


と、ガッカリする様子で頭を下げる。


「…まぁでも来てくれたしね…」


彼女はそう呟くと僕の顔を見た。



「じゃ、婚約しよう!」



そう、ニッコリと笑った彼女に俺は言った。


「こんにゃく…?」

「違うよ〜、KONNYAKU☆

 まだ私たち高校生だし、そう簡単に結婚出来ないでしょ?だから今は約束だけ…ね?」


「…へ、正気…?」

「これ以上ないくらい正気よ?」

「これ以上無いって…」


人生が何処から変わるか、なんて事は誰に聞いても何処で調べても分かるような問題じゃない。どんなに頭が良くてもどんなに高性能なコンピューターがあっても分かるのは今か過去だけだ。あいにく様、普通な僕には今も過去も理解できてるなんてのは二の次で正直覚えているかも危ない。

でも、たしかにこれだけは理解できた。


―――これが僕の転機だった。と






☆ーー☆ーー☆ーー☆ーー☆ーー☆ーー☆ーー


私、大月美鈴、中学3年生。

少し絵が上手いだけのただの女子中学生!

美術部の部活で1ヶ月後のコンクールに向けて絵を描いていたら、遅くなっちゃったので少し焦る。今日の料理当番は私だった。

兄は…多分私が苦しんでる姿を見て喜ぶ外道だから(私が料理当番の日に限って)私のために料理を作ってくれるなんて事は絶対にしないだろうし、自分が餓死しようとも私に作らせるだろう。何が兄さんをそこまで駆り立てるのかは分かんないけど、多分兄さんならそこまでするって言う確信が私にあった。


「ごめん!遅くなった!」


玄関を開けつつそう謝罪する。


「…あれ?」


目の前には誰もいない、いつもなら兄さんがムクッと立っているのにも関わらずだ。不思議だなぁと、靴を脱ぎ玄関を閉じる。

ふと、ツーンと鼻につく匂いが一つあった。良い匂いだ。油物か、

まさか兄さんが私のために料理を…!いや、母さんが帰ってきた可能性も!

唐揚げ?いやエビフライかな?


「ただいま〜!!」


リビングの扉を開けると兄さんがスマホを弄りながらテーブルに付いている、料理を作ってるのは…兄さんではない、じゃあ…


「おかえりなさい!美鈴ちゃん!」


トントントンと野菜を切る音にグツグツと鍋が煮える音…そして、私に微笑みかける美少女感強めの見たことない美少女、


………だれぇ??


この場面一つに困惑の声を心の中で上げる。おかしいな、目の錯覚かな?なんかあそこだけ画風が違くない?あそこだけ少女漫画やってない?周りに花が咲いてる気がするんだけど…


「あ、おかえり〜、美鈴。今朝遅刻したろ?安心しろ、僕は遅刻しなかった。」

「え…?あ、うん…ただいま兄さん…この人…って、」


外道っぽい言葉を吐きながらニヤニヤと笑間見ている兄に向かってキッチンで料理を作っている女性を指差す。人に指差してはいけませんって言うけど今はそんな事気にしている場合ではなかった。


「そういやぁ、玲子、知ってるか?俳優の白石正樹が捕まったらしいぜ、」


気づいていない。こちらに対して気に留めていないらしい。ちくしょう、後でお兄ちゃんのゲーム機のセーブデータ初期化してやる。


「え、それほんと?私によく話掛けてくるから怖いなぁって思ったけどやっぱりかぁ、」


え、ねぇ?無視?

そろそろ酷いんじゃないの?いや、女性の方は料理に集中してるみたいだけどお兄ちゃんに関してはゲームしてるじゃん…気付けよ鈍感兄

しかもなんか夫婦みたいな話し合い始めたんですけど…


いじめかな?いじめじゃないよ、虐りだよ、尚更悪いわ、


なんか兄さんがラブコメ主人公やってる。何?気持ち悪いよ?絶対主人公ってガラじゃないでしょ!


「あれ……?なんかイラついたわ。美鈴、後で覚悟しろよ?」


「理不尽!?」


身の危険を感じつつ席に座る。

やはりと言うかこの空間の異常さが感じ取れる程に場は甘ったるかった。


「で、お兄ちゃん。あの人は誰?」


「ん、美鈴見玲子さん、今日から此処でお世話になるから。」


「そ、そうなんだ〜。…なんで?」


そこが玲子さんが出来立ての唐揚げをテーブルに持ってきた。


「あ、ありがとうございます。」


出来たてホカホカの唐揚げに目を向ける。

ヤベェ、超うまそう。なんだこれ、プロか?まさか……プロなのか?


「…玲子さん…貴方…唐揚げのプロなんですか?」


「え…?唐揚げのプロではないよ、

ちょっと前まで料理のプロはやってたけど」


「マジっすかヤベェ、嫁力高ぇ、」


てかこれお母さん泣かせで有名な"泉玲子のレイコキッチン"に出てくる唐揚げまんまじゃないですか、やだ、レベルが段違いだわぁ、


「そういえば美鈴ちゃん。久しぶりだね。覚えてる?」


そう言う玲子さん。こんな美人知ってたら後世まで言い伝えますから、多分会った事ないと思います。(進言性)


「いや、お前が居た時コイツまだ4歳だから、覚えてないと思うぞ。」


「あ、そっか、美鈴ちゃんとは仲良くしてたんだけどなぁ」


4歳…って事は10年くらい前かぁ、


「あれ…お兄ちゃん…あの人?」


お兄ちゃんにそう聞く。お兄ちゃんは嫌な風に顔を顰めた。


「あの人って?」


玲子さんがそう問う。


「お兄ちゃんが恨めしそうにいつも言ってたんだよ。好きな人が居るって。

正直、元カレを忘れられないOLみたいなのを男がやってるから気持ち悪かった。」


そう言うと「好きな人…ね、」と玲子さんが呟く。ふむ、この人もまんざらではなかったと言う訳か、


「…なんだよ、」


不貞腐れたようにお兄ちゃんは玲子さんに向かって問う。


「べっつに〜?まさか和泉くんが私の事をそう思ってくれてたとはね〜」

「10年前の話だよ。今は知らん」

「でも10年間美鈴ちゃんに言い続けてたんでしょ?」


「ぐっ………」


なんだろう。なんか気分良いな。

これがいつも兄さんが言っていた、愉悦か!


「……でも、だったら、なんで"婚約"の件、了解してくれないの?」


玲子さんがそう呟く、へー兄さんこの人と婚約してたんだ…


婚約……

こんにゃく…


…ん?


KONNYAKU!!??



「え!!なんの話ですか!?」



即効で反応した。

え!?何それ私聞いてない!!こんな美人と兄さんが婚約!?アニメかな?

いや、知ってたよ?だって私みたいな美少女系妹居るもんね、そりゃあ主人公だわ、


「実はね、10年前に婚約の約束をしててさ、だから今日来たのに中々取り合って貰えなくて」


「お兄ちゃん!今すぐこの人と結婚して!」


「アホか!お前ら!!」


お兄ちゃんが怒った。

プス〜としてるけどあんまり怖くないのがお兄ちゃんらしいな、


そんなこんな事思っていると私は玲子さんに気になった事を口にした。


「でも玲子さん、なんでこんな普通&普通の奴好きになったんですか?玲子さんならもっとイケメン捕まえられたでしょ?」


兄は鬼畜だが、基本普通だ。価値観も倫理観も基本スペックも全て平均の域を出ない。何もやっても普通なんだ。

だからてっきり兄は普通に就職して恋愛も普通にして普通に結婚して死ぬものなんだと思っていた。




「うーん、確かに…なんでだろうね。」



玲子さんは兄の頭を撫でながらそう言う。

何これ、なんでこの状況でいちゃいちゃし出すの?え、彼氏できない歴=年齢の私に対する当て付けか、




「いつの間にか好きになってたって言うのが答えでかなぁ。生まれてから6年間ずぅ〜っと一緒だったからねぇ、

結婚したい人って言えばこの人だったし、

何よりこの人以外を好きになれないんだ。私」


おっふ。

ご飯のブドウ糖が活性化してる気がする。

甘いでぇ、玲子ちゃん。甘々やぁ⤴︎


あ〜、吐きそう。


口直しに唐揚げ一個もらお


「甘っ…………」


なんだこの敗北感は…

なんだこのしてやられた感は…


わ、私は負けたのか…?


顔だって美少女だって言う自信はある。現在進行形で叩き潰されそうだけど。


でも兄にこんな出来た美少女の嫁が出来て私にイケメンな美男子の彼氏が出来ないのは間違っている、いない?いるんだ!


「甘い?砂糖入れたっけなぁ、」


「い、いえそうじゃないんです!な、なんか口の中が甘ったるくて、」


「え?…まさか学校の帰りに甘いものなんか食べたの?夕飯食べれなくなるよ?」


「いえ!それも違いますから!」


そう言うことじゃないから!!

あんたら2人が甘いんだよ!




「…で、でも…玲子さん10年間もどこ行ってたんですか?」



疑問はなんでこうも好きあっている2人が別れていたかという現状だ。どうせ転勤かなんかだろうけど、

と思っているとそれを聞いたお兄ちゃんが「え!?」と声を上げた。


「ま、まさか、お前まだ気付いてないのか!?」


「え?気付いてないって、何が?」


「あ〜もう!玲子!テレビを付けてくれ。」



それを聞くと玲子さんは「え?あ、はい、」と言いピッとテレビのリモコンを押す。何?お兄ちゃん玲子さんの扱い酷くない?

とりあえず私は「もう、何よ〜」とテレビを覗き見た。





『時刻は7時20分です。ニュースの時間です。ついに泉玲子さんが引退してしまいました。』


『先日引退を発表した泉玲子さんは12も年前子役としてデビューし、さまざまな映画ドラマで活躍しました。』


知ってるニュースだ。と言うか今朝見たばかりだ。

何気なく、テレビに映る例の泉玲子さんを見る。


「そう言えば玲子さんこの泉玲子さんに似てません?もしかして本人だったり〜w」


なんて冗談で呟きながら玲子さんの顔を見る。


…あり…?


なんかさっき見たような、というかそのままの様な…あれ…


『あ、おかえりなさい!遥ちゃん!』


テレビの中でそう言う彼女の声が耳に入った。

その声も形もその存在感あり得ないという現状も。


ピッチの高さも全てが一緒、しかも彼女が先程言った当たり前の言葉、それが事実を物語っていた。






「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」






泉玲子いこーる美鈴三玲子だと、

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