第7話:花恋姉は努力する

「なるほど。やっぱすげえよな、花恋かれんねえ

「いやいや、それほどでもあるよ。ねぇ、もっと褒めてもっと褒めて!」


 いや、こういう軽いノリが、努力家に見えないところなんですけどね。


 あ、でも待てよ。そう言えば花恋姉って、中学までは今みたいにキラキラ輝く感じじゃなかったよな。

 もちろん顔の作りは昔から美少女だったけど、もうちょっと野暮ったいって言うか。こんなに学校中から人気が出るほど、バリバリのリア充って感じじゃなかった。


「もしかして花恋姉。今みたいに可愛くてモテモテになったのも、もしかしてその戦略と実践でモテる努力をしてきたからとかー?」


 いや、そんなはずはないな。俺とは違って、顔の元の作りがいいんだ。そんな大げさな努力なんてしなくても……


「そ、その話はいいでしょ! 今はテニスの話をしてるんだから!」


 花恋姉はちょっと焦ったように顔を逸らした。手のひらで、せわしなく髪をワシワシといじってる。


 ──え?


 違うなら違うって言うよな。その話はいいでしょなんて言い方しないよな?


 もしかしてビンゴ?


 マジか。花恋姉は花恋姉で、綺麗で人気のリア充になるために、ちゃんと努力してきたってこと?


 でもちょっと引きつったような花恋姉の焦り顔を見てたら、これ以上真相を追及するのは悪い気がして、俺は何も言えなくなってしまった。


「わかったよ花恋姉。花恋姉の理論は単なる受け売りじゃなくて、ちゃんと自分で実践してきたものだって。そして素晴らしい結果を生み出したものだって」

「うんうん、そうかねそうかね。ようやくアンタにもわかったかね、私のすごさが」


 花恋姉は口では偉そうに言ってるけど、その顔つきはちょっとホッとしたような感じ。

 さっきの話題から話がそれたからだろう。


 でも花恋姉は、モテるために努力してきたってことをそんなに隠したいんだろうか?

 赤の他人にならともかく、弟みたいな俺にならホントのことを言ってくれてもいいのに。


 あ、逆に子供っぽい弟だと思っているからこそ、モテる努力してたなんて知られるのはいやなのかも。そうだよな。それはわかる気がする。


 俺はそういうふうに自分なりに納得して、花恋姉のレクチャーの続きを聞くことにした。



***


「じゃあ、そこ座ろっか。あ、トーイ。新しいノートとシャーペンを用意して。説明することをちゃんとメモるように」


 花恋姉はベッドの横にある丸いローテーブルを指さした。

 俺は勉強机からノートとシャーペンを取り出して、花恋姉と向かいあってそこに座る。

 俺は目の前にノートを広げ、シャーペンを手に持つ。


 なんだコレ。家庭教師みたいだな。

 彼女を作る方法って、こんな感じで習うものなのか?

 いや、普通は違うだろ。


 そんな俺の戸惑いを気にもせず、花恋姉は突然クイズのように訊いてきた。


「まずはモテるための三要素。なぁーんだ?」

「えっと……顔と顔と顔か」

「アンタはアホか! それなら一要素でしょっ!」

「イテっ!」


 頭をぽかりと殴られた。

 だって、モテるのはイケメン。それしか思い浮かばなかった。

 確かにアホな答えだったけど。

 いちいち殴るなよ。


「答えは『見た目』と『コミュニケーション力』と『性格』ね」


 うわ。最初の二つは俺は壊滅的だな。

 となると、ギリ勝負できそうなのは性格か。

 自分でもよくはわからんけど、俺は真面目で誠実だし。


「モテるために、この中で最初に大事なのは、やっぱり『見た目』だね。これが5割以上。下手したら8割を占める」

「そんなに!?」

「うん」

「マジか。やっぱ見た目勝負なのかよ……」


 はぁっ……やっぱ現実はそんなに甘くはないか。


「でね。『コミュニケーション力』40%、『性格』が10%くらいかな」


 はぁっ!?

 性格が10%?

 マジかよ。俺の唯一の頼みの綱、性格がたった10%だなんて。


「モテることと性格はあんまり関係ないのか? 嘘だろ? 嘘だよな? 嘘だと言ってくれぇぇぇ」

「まあまあ。そうもだえなさんな」


 いやその話、悶えたくもなるだろ。俺だって同じ悶えるなら、萌えて悶えたかったぞ。


「性格ってのは、表からはわかりにくいからね。ホントは性格悪いクソヤローでも、爽やかな見た目で、感じ良く見せるコミュニケーション力があったらそれなりにモテるでしょ」


 いや、美人女子高生がクソヤローなんて言うのはどうかと思うぞ。

 あなた、学年でダントツ人気ナンバーワン女子なんですけど……


 外では絶対こんなことは言わないのに、花恋姉って俺の前では結構素を見せるよな。


 でも確かに、花恋姉の言うことは間違ってはいない。性格は実はモテるのに関係ないのかも。


 ああ。なんだか、もう詰んだ気がする。

 俺の人生はここで終わりだ。

 さようならお父さんお母さん。先立つ不幸をお許しください。


「でもね、それはお互いの関わりがまだ薄い段階の話。付き合いが深くなると性格もわかってきて、重要度が高まる。相対的に見た目の重要度も下がるわけ」


 花恋姉は目の前のノートを取って『見た目30%』『性格40%』『コミュニケーション力30%』と記入した。

 そして俺の方にノートを向けて、テーブルの上に置く。


「おおーっ……」


 俺の口から、思わず感嘆の声が漏れた。

 これなら勝負の目も出てくるかも。


 急に目の前がぱあーっと開けたような気がした。

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