第6話
『はいーどうもー、スカイドルトです。』
少数で、テンポがズレた拍手が会場に響く。高くて、聞き取れにくい声が響き渡る。
『俺さ、今度彼女にプロポーズするから、大園くん、彼女してくれる』
『おお、分かった。』
『明日香ちゃん、俺と結婚してくだい。』
『結構です』
『どいう意味ー、ちゃんとしてよ』
『ごめん、ごめん』
静まり返っている会場に彼らは、焦ってるように思えた。さすがに、プロの漫才ではなく、素人の漫才だということを痛感させらる。笑いに来たのに、笑えない。彼らが一生懸命やっていることは分かっている。ただ、段々と声が小さくなっていく。
『違う、、って』
修正できないので、言葉が流れていく。会場の客が、どのタイミングで笑うって時があったり、笑っていいのか迷っていいるのか、声を抑えるような小さい笑い声が、たまに聞こえてくる。救いようなのない、訳の分からない時間が流れていく。
『どうもありがとうございました。』
照明が暗くなって、音楽が鳴る。いわゆる出囃子というものだろう。
こんな感じなのが、続くのだろうか。この会場に求めれるものはきっと笑ってくれる人だろう。
照明が明るくなり
『はい。どうも―』と男女のコンビが出てきた。
『この前さ、アプリで知り合った、まさや君から連絡来たの?今度、会おうって言われたの?だから、その時の練習させてくれない?』
『いいよ』
よくありがちなマッチングアプリのネタだった。オチが相方でしただけはやめてくれと思っていたが、やっぱり予想通りの結末だった。微かな笑い声に包まれていた。
男女コンビが袖に下がっていくタイミングで、隣の青田が話しかけてきた。
「ねえ、もう、帰らない。なんか可哀そうに思えてくる」
「可哀そう?なにが?」
青田は僕を睨んで、僕の肩に頭を乗せてきた。寝る気だろう。それを振り落とすように、肩を揺らした。
「意地悪」
「1人で帰れよ。ここのお金は俺が払ってるし」
青田は帰ろうとはしなった。不機嫌そう舞台の方に顔を向けている。
一度、照明が落ちて、少し暗くなる時間が長かった。
『はい、どうもー』
そう言って出来てた、コンビの1人に見覚えがあった。チラシをくれた男の子だ。その子のことが気になって、話が入ってこない。
『今度、引っ越そうと思って…』
『どのような間取りで…」
話が途切れる。耳に入れたいのに、男の子が気になる。
『誰か住んでるやろ』
どこかで聞いたことのある漫才だ。完全なコピーとは言わないが、似たような感じだった気がする。頑張ってほしいと思うが、面白いとは思えなかった。彼らがこんな場所で日々、何を希望に生きているのだろう。それを言うなら僕もだろう。誰かに助けを求めていても、置いてるようで、どこにも置かれていない。
「ねえ、終わったよ。帰ろう」
「えっ?!」
物思いにふけてしまって、最後の2組のことを全く覚えていなかった。
「戸上って、考え過ぎよね。もっと、気軽に生きれないの?」
「何、言ってんの?」
「気づいてないなら、いいや。面倒臭いから」
睨みつけるのに青田を見ると、「ウザっ」と言って、出口に向かって歩いていった。
それを追いかけるのが、鬱陶しく思えてくる。
出口に向かって歩いて行くと、後ろから「あのー」と声を掛けられた。振り返ると、チラシをくれた男の子が立っていた。
「今日は、来てくださって、ありがとうございました。」
「いや…」
続きを言うとしたタイミングで、「とおきー」と呼ぶ声がした。男の子がその声を聴いて「はーい、すぐ行きます」と言って、戻ろうとしたが、もう一度、僕の方を向いて、「また来て下さいね」と満面の笑顔をして深いお辞儀をして、戻っていった。あの時、男の子は笑顔で、チラシを渡してくれた。あの笑顔に僕は助けれたのかもしれない。
青田は建物の外で、僕を待っていた。
「何で笑っているの。会場で笑わなかったくせに」
「ほっといてくれ」
少しは、来たかいがあった。
助けはどこに置いていますか? 一色 サラ @Saku89make
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます