第3話

「申し訳ありません。鈴木さんのほうに、謝罪をしておきます」

「すぐにそう言えば済む話だろう。お前ほんと使えないよな」

さあ、本当に何を謝るのだろう。席に戻ると、隣の席の元木は何も知りませんと言わんばかりに、パソコンの方と向いている。その場にいる社員全員が敵に思えてくる。今のやり取りは誰も聞いていませんというように、誰も僕の方を見ることもなく仕事をしている。そうなんだ。分かっている。関町にペコペコして、機嫌を取っている。波風立てないように、僕みたいに理不尽に怒られることを避けて、上手くかわしているのだ。僕も彼らのように、なぜ上手く立ち回ってれないのだろうか。

 しばらく席に座っていると、足を蹴られる感覚がした。付箋がデスクに貼られた。『睨まれてますよ』と書かれていた。元木だ。周りを見渡す。睨んでいるのは関町だった。ああ、今すぐに鈴木の所に行かないと言っているようだった。

 派遣のいるブースに行くと、常時4人いるのだが、2人だけしかいなかった。

「鈴木さん、いますか?」

見た目が40代くらいの子どもがいそうな女性が「帰りました」と言われて、腕時計を見た。

「帰った。まだ11時ですよ。」

隣に座って、膝をついて、迷惑そうな20代にも30代にも見える女性が「青田さんに、帰るように言われたみたいです。『嫌です』とか鈴木さん言ってたけど、青田さんも戻ってこないので、まだ別室にいるかもしれませんけど。」

まだ、社内にいる可能性を示唆してきた。

「気持ち悪いよね。ほんと、仕事出来ない人と仕事したくないわ」と40代くらいの人が言っているのを横目にして、聞き流した。

「ああ、そうなんだ。ありがとう」

別室とよく派遣の人が使う会議室も行くと、誰か使用しているようだった。確認のため、ノックをした。返事があったので、中に入ると、青田アリスが1人座っていた。青田とは、派遣社員を取り仕切っている責任者だ。

「今、話すことできる?」

「いいですよ」

会議室にある大テーブルの向こう側に座った。

「鈴木さんは?」

「帰ったわよ。それにもう、この会社に鈴木さんは来ないわよ」

「なんで?」

「派遣契約を打ち切ったから」

青田はため息が漏れて、明らかに疲れ切っている。

「人事も大変だな」

「代わってくれる?」

「無理」

「でしょうね。そういえば、何で、鈴木さんを探してるの?」

「関町さんが、俺が鈴木さんに怒ったこと謝ってこいって言ってきたので探してます。」

「ああ、不倫野郎ね。本当に、プライベートの関係を仕事に持ち込むやつって気味悪いわ」

「じゃあ、鈴木さんは帰ったことが確認できたから、俺も戻るわ」

「愚痴くらい聞けないの?」

「聞けない」

青田が僕を睨んでいることは知っているが、愚痴を聞いたとこで、何も解決することなどないのだ。それより、関町に何て報告するかが、僕の頭の中で、回転している。

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