ユニークジョブ
「うむ、儂の名はハンニバル。とある国で将軍をしておった」
老将軍は唐突に語りだした。
その国は常に魔物の襲来におびえ、軍を率いて魔物の群れと戦っていた。その中で、魔物と戦うための戦術を編み出し、幾多の群れを打ち破った。
そして、魔物の中で凄まじい力を秘めた個体が現れた。魔物の王、魔王とハンニバルは決戦におよび、ついに勝利を納めた。
しかし、魔王が逃げ込んだとある洞穴は魔王の魔力によって変異をきたし、それこそ入り口から突き当りが見えるほどの広さしかなかったはずが、広大な迷宮へと変化していたという。
魔王を討たんと勇躍して洞穴に突入した勇士たちは一人として還らなかった。
「儂が死んですでに数百年は経とうとしている。そしてこの迷宮はついに成長が止まった。儂は自らの魂をこのクリスタルに封じ、儂の力を継ぐべき相手を探して居ったのじゃ」
「それで、その資質っていうのは……?」
「うむ、先ほどのいくさで見極めた。お前には戦う力がない。それゆえに仲間に頼り切るしかない。だがお前にはその広い視野と、戦術を組み立てる論理的思考、そして何よりも、危機に対して非常に敏感じゃ」
なんだろう、褒められている気がしない。要するに仲間の陰に隠れて周囲を伺い、危なくなったら逃げる。そういうことだろうか。
「ふむ、間違ってはおらぬぞ。まず何よりも大事なことは生きて戻ることだからのう。勇敢に戦って、結果派手に討ち死にと言うのは本末転倒であろうが」
「そう、ですね。だから僕は臆病になろうとしていた。情報を集めて、石橋を叩いて確かめる。そうやってに十層まで到達できたのだから」
「二十層だと!? 儂の生きていたころはその半分までもたどり着いていなかったぞ」
老将軍は驚きの表情を浮かべ、感慨深げに頷いた。
「うむ、儂の目は間違っていなかった。時が満ち、お主が力を付けたときにまた会おう。お主に指揮官、コマンダーのスキルを授与する」
そう言い残すと、将軍、ハンニバルの姿は消え、小さなクリスタルが僕の足元に転がっていた。
それを手に取る。なにか暖かいものが僕の中に流れ込んできた。
『ジョブ・コマンダーを習得しました。なお、このジョブはこれまでに就いた人がいない、固有のジョブとなります』
脳裏に何者かの声が響く。それはさっき立っていた戦場で、僕になにがしかの情報を告げた声だった。
「あ、お帰りなさい……って、え?」
儀式の部屋から戻った僕を見て、アルマが驚きの表情を見せた。
「ああ、うん。ユニークジョブだって」
「わあっ、すごいじゃない! おめでとう!」
「ああうん、ありがとう」
「それで、どんな性能なのかな?」
「そうだね、コマンダーだけど……」
かいつまんで説明することにした。そうすることで、僕自身も情報を整理できる。
基本としてパーティを組んだメンバーの能力を底上げできること。それぞれのメンバーの特徴を強化する。タンクは防御力の底上げ、アタッカーは攻撃力の底上げとなる。
強化幅は僕とそのメンバーの信頼度によって底上げされる。
僕の指示を信頼してくれることで、その効果が上がるというのはポイントだ。
スキルとして重要なものは、「陣形」だろうか。タンクに攻撃を集中させたり、防壁を作って後衛を守ったり。魔法使いの魔力を底上げするものとかもある。
そして、切り札は「オーダー」だろう。特徴は、パーティメンバーに強制的に指示した行動をとらせることができる。それこそ自爆すら命じることが可能だ。
ただそれをやってしまえばパーティとしての関係は最悪なものとなるだろう。
命じる内容によっては、メンバーの能力を限界を超えて発揮させることができる。あとは明確な指示の方が底上げ幅が大きくなる。あいまいな指示はだめだということだ。
後、オーダーには僕の魔力を消費する。数に限りがあるので使いどころは見極めないといけない。
「ふええええええ」
説明を聞いたアルマは、頭を抱えて何やら猫のような声を上げている。
情報量が多すぎてパンクしかけたとは本人の言い分だ。
これまでにも支援職として様々なバッファージョブは存在した。それは戦闘と支援の比率がある程度決まっていて、戦闘よりだったり支援寄りだったりしていた。
ここまで支援極振りのジョブはこれまでになく、僕がソロで迷宮に挑めば、すぐにでも行方不明になれることは請け合いだ。
「んー、ということはですよ? クリスさんは新しくパーティメンバーを探さないと、ですねえ」
「うん、そうなんだ。ただ、僕の冒険者としての評判は……」
「元がジョブなしの雑用係でしたからね」
「ですよね。とりあえずチコさんに相談したらどうでしょう?」
「ああ、けどそれは明日にしておくよ。今日は色々と疲れたし」
「うん、そうですね。お疲れさまでした」
アルマに見送られ、僕はギルドを後にした。定宿にしている黒龍亭で借りている部屋にはいるとそのままベッドに倒れ込む。
「今日は波乱の一日だったな……」
そうぼやくと、すぐに瞼が降りてきて、僕は眠りに落ちていった。
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ギルドの一室、アルマとチコが密談をしていた。
「これが試練の内容です」
アルマの手にあるクリスタルの板には、クリスがパーティを率いて戦っている姿が映し出されていた。
「うーん、なんかすごいわね」
クリスの指揮に従って戦闘を繰り広げる冒険者たち。的確なタイミングで的確な行動をとり、そこには一切の無駄がない。
初心者向けと言われるが、実は最も初心者を殺しているのもこのゴブリンで、群れとなったときの戦闘能力は下手な大型魔獣よりも危険とされている。
「ええ、彼が部屋に入った後、急に魔力の消費量が上がったと思うったらこれですよ」
その部屋はダンジョンコアとつながっていると言われていた。その最奥に眠るとされるいにしえの魔王は、自らの身体をコアに変貌させてダンジョンを作り上げた。
そして入ってくる冒険者たちを喰らい、自らの力としている。
「ゴブリン二百体と、ティターンの召喚かあ。さらに五人分の素体って言うか、これ、戦闘能力的にフェンリルの牙のメンバーですよね」
「それでも彼らのパーティ評価じゃ勝つのは本来無理なんだけどね。最初の群れはどうにかなっても、ゴブリンメイジの奇襲で終わりでしょ。クリス君がなんかあり得ない勘を発揮して防いでるけど」
「そうなんですよ。その次の魔法もただのファイアボールが、火炎魔法最上位のインフェルノ並みの威力になってますし、そもそもそんなのダンジョンの通路でぶっ放したら、味方もバックファイアで丸焼きですよね」
「んー、まあもともとの指示通りにするしかないんだけどね」
「ええ、マスターに報告の上、王宮にあげましょう」
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