試練の戦い
「パーティ結成」
口から滑り出るように言葉が出てきた。
人影は無言でうなずくしぐさをすると、僕と彼らの間に何かつながりのようなものが感じられた。
『パーティ結成を確認。作戦指揮が解放されました。陣形が解放されました。オーダー残り回数は三回です』
「作戦? 陣形? どうなってるんだ!?」
『コマンダーの適性を測る試練です。彼らを率いて魔物の群れを撃退してください』
ここでふと思い至った。ここはさっきまでリンたちと入っていた訓練施設とそっくりだ。
取りあえず便宜上で、剣士にアルファ、槍使いにベータ、弓使いにガンマ、神官にデルタ、魔法使いにヘキサと名付けた。
「アルファを先頭に防御陣を組め!」
アルファは即座にガンと盾を鳴らしてゴブリンたちの注意を引きつける。そして駆け寄ってくるゴブリンを、ガンマが射抜く。さらにその矢をかいくぐったゴブリンはベータの槍に刺し貫かれた。デルタの防御魔法が前衛の二人に降りかかり、淡い魔法の光が包み込んだ。
盾で攻撃を防ぎつつ、ゴブリンと切り結ぶ。時折盾の守りをかいくぐって攻撃が届くが、デルタの治癒魔法がアルファを回復させていく。
「いいぞ、その調子だ!」
『スキル、鼓舞の使用を確認。パーティメンバーの士気が向上しました。一時的に攻撃力が増大します』
順調にゴブリンは数を減らしていく。と言うか、一般的なパーティなら、挟撃の危険がない通路であれば、百ほどのゴブリンを倒すのはそれほど難しいことではない。
これは試練だと言われた。であれば、僕の力を必要とされる虚無面が来るはずだ。
鼓舞によって攻撃力が上昇したことで、ゴブリンの群れを押し返し、反撃に転じるほどの勢いとなった。
そのまま押し込めばいいと思っていると……敵に増援が現れた。
「ヘキサ、魔法攻撃。敵を多し戻したら下がれ!」
ここまで取っておいた魔法攻撃を放って隙間を作り、進んだ分と同じだけ後退させ、態勢を整える。
戦況を確認したいと意識すると、目の前に窓のようなものが浮かび上がった。
各メンバーの体力と魔力が大まかにわかる棒のような表示と、敵の数が表示されている。
士気75/99の表示は、まだ心が折れていないことだろう。
疲労38/99と、多少疲れが見えてきていることがわかる。
そして窓の枠が朱く染まった。注意! の文字が浮かび上がる。
「何か来る! オーダー! デルタ、結界魔法展開!」
半ば無意識にオーダーのコマンドワードを紡ぐと、僕の身体から魔力が抜けていくことを感じた。
その魔力はオーダー先のデルタに吸い込まれ、結界魔法の効果を大きく増大させる。
その壁に、無数の火球が降り注いだ。ゴブリンの増援に魔法使いがいたのだろう。
「っく、オーダー! ヘキサ! 全力で攻撃だ!」
同じく魔力が消費され、ヘキサの唱えるファイアボールの魔法を大きく強化する。普通ならダンジョン内ではあまり使わない魔法だが、今は結界でバックファイアを遮断できる。
「いけええええええええええええ!!」
『コマンダーの激に応じ、テンションが上がりました。クリティカル判定……〇』
放たれた火球はゴブリンの群れの中心で炸裂し、渦を巻いて燃え上がる。
「なんだこれは……?」
たまに魔力がが暴走しかけて呪文の効果が上がることはあった。ただこれは諸刃の剣で、制御を失った魔法で仲間を傷つけることもある。
だからダンジョンにはいる魔法使いは威力よりも制御を重視する。
そして今の攻撃で気づいたことは、僕の意図した場所に魔法が着弾したことだ。オーダーは強制的に仲間にその行動をとらせることができる。
場合によっては自爆攻撃すら命じることができる。そして、今回分かったことは、本人の能力を超えたことでもそれを遂行させることができるのではないか?
今はその行動を強化するくらいの効果だけども、使えば徐々に強化されるのがこのスキルという力だ。楽しみになってきた。
などと考え込んでいると、巨大な人影が現れた。
『ボスを討伐せよ』
「防御態勢!」
アルファが盾を構え腰を落とす。その背後に仲間たちが一塊になって隠れた。
「フォートレス!」
アルファが高らかにスキル名を叫び、彼の魔力が前面に展開されて巨人の咆哮を跳ね返す。
ちなみに僕もその背後に隠れて守ってもらうことにした。
「大技を放った後はスキができる。かかれ!」
アルファは盾を構えたまま前進し、そのまま巨人の足に体当たりした。それで体勢が崩れるとベータは同じく突進の勢いそのままにもう片方の足を突く。
膝を貫かれた巨人は悲鳴を上げ、憤怒の目をベータに向ける。
「ヘキサ、閃光の魔法をあいつの顔にたたきつけろ!」
先ほどのゴブリンの群れを焼き払った一撃でヘキサの魔力はほぼ残っていない。ただ、目くらまし位はできる。
「輝きよ!」
強い光を目に叩きつけられ、巨人の身体が揺らいだ。
ちなみに神官のデルタも結界魔法で魔力を使い果たしてへたり込んでいる。
「とどめだ。オーダー! ガンマ! 奴の心臓を射抜け!」
「了解!」
限界まで引き絞られた弓は矢が放たれた瞬間に弦が切れた。僕のオーダーの魔力は矢じりに一点集中し、その鋭さを増す。
ドンっと何かが爆発したような音を立てて矢が巨人を貫き、その胸には大きな穴が開いていた。
断末魔を上げることもなく即死した巨人は魔素に還っていく。その魔力を吸収して、僕はレベルが上がったことを感じた。
『見事である』
今まで試練と称して呼びかけられていた声が聞こえ、僕は振り向いた。
そこには鎧兜に身を包んだ一人の老人が立っていた。
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