第18話 雪菜の里帰り。

其れから2ヶ月が過ぎた。



日が過ぎるのはあっという間。

もう8月も終わり。蝉の声も聞こえ

なくなり街は少しずつ落ち着きを取

り戻していた。


雪菜は相変わらずケーキ屋とカフェ

の掛け持ちをやっていた。


ケーキ屋さんで12万、カフェで13万

休みをとるのは結菜が遊びにくる

2ヶ月に3日だった。

正社員には、ならない、あの大門

がいつ、邪魔に入るか分からない

お店には迷惑かけたくない。

もう、懲り懲り。



彼氏もいないし、する事ないし

家に、ボッチは気が狂いそうにも

なる。


だから働くのは苦にならない。

もはや嬉しいくらい。


晩御飯もまかないがあるし、皆と

ワイワイして楽しい。


寂しさを紛らわすには一人に、

ならない事これが一番。



ずっと大夢と居たから。

慣れた生活を棄てるのは本当に辛い。


怪我の巧妙か、働き続けて体重は

45キロになった。


何をどんだけ食べても太らない。


運動するし、働くし、何より気に

しなくてもいいからストレスなんて

無くなった。


髪も伸ばした。カールしたら可愛く

なったかな?


今まで履けなかったミニスカも

はいてみる。

前の会社の皆が見ても別人カナ?


スゴ~ク大夢に会いたい。

幸せか見届けてみたい。


9月連休取って里帰りしょう?

ちょっと大夢、見たら帰ればいい。


9月上旬、遅い夏休みが貰えた。

前から計画してたように東京へ。


大夢が今どんな生活をしているのか

確認してみたい。



合わない!見るだけ。

今の大夢はもう、遠い人間になって

るはずだ。

大門を継ぐはずの、男だし・・・



夕方六時、大夢の会社の前に立ち、

思いにふける。

此処から大夢と別れたんだ。


大夢をジッと待つ。

見るだけ、みるだけだから‥。


デモ


なかなか出て来ない。



今日は残業かな、と諦めて帰ろうと

したとき沢山の同僚と出てきた。


相変わらず様子が良くてカッコイイ


女の子達が腕をホールドして

ワイワイ楽しそうだ。


「良かった、元気そう。」

変わらずモテてるね。





ふっと振り返り明らかに会社の子

とは雰囲気の違う女の子が目に入

った後輩が、



「おい、あの子可愛いな・・・

誰か待ってんのかな?」


振りかえった同僚がテンション高

めに声をあげる。


   「オーメチャクチャタイプ」



新卒の男の子達もさわぎだした。


その声に大夢が振り向いた。


大夢は引きつけられるように

ジッと見た。


大夢の柔らかい笑顔が固くなる。

ショートカットがロングになって、

細く見えるが


       「あれ‥は?‥」


「あ、‥あ、‥あ!!雪菜」


「みんなごめん、先にいってて!! 」

バタバタと走る

雪菜の元へ。


しかし、信号が青から点滅して赤に

なった。バスやトラックが目の前を

流れ出す。


「雪菜ぁー、ユキナー」


    「ゆぅーきぃーなぁ。」

パパパーッ

ブブブー

ゴォゴオーゴォーォー


大声で叫んだが車のクラクションや

車のながれに飲まれ彼女には届かな

かった。


青になり急いで探し回ったが雪菜を

見つけられなかった。


喧嘩した日、なんであんな酷い事を

言えたんだろ。


「俺が玉の輿に乗ったら

 消えてくれるよな。」


だから消えてくれたのか?



俺は冗談でも言うことじゃなかっ

たんだ。

ゴメン、ゴメン、


帰って来てくれ。


あの事件のあと山倉勲と名乗った

元秘書から



「あなたと別れて頂く為八桁を用意

すると 申しあげたら一円も

いらない。と言われました 。

彼氏を金で売ったりしないと。」



聞いた話は雪菜が居なくなる理由と

俺の吐いた馬鹿な軽い戒めに言った

言葉が原因だった。


「消えてくれるよな!! 」


雪菜の心を引き裂いた言葉

そして俺自身 大事な宝物を無くす

ことになった言葉‥

本気じゃない、唯の口喧嘩のつもり

だった。


・・・ゴメン。



「もしもし、ユイ、今東京に来てる

んだ会えない?光寿郎さんと

デート?」

雪菜は、せっかく東京に来たのだから

結菜とご飯でもたべたかった。


 「光寿郎は毎日一緒だけと

  雪菜、何処にいるの?」


「うん、あ‥もいいや…。

 光寿郎さんに悪いし‥

 最終のバスで帰るよ。今なら充分

 間に合うし、またね。」


  「え!! ちょ‥ゆきな。」


なんかゴメン、ユイ

会いたかった大夢に会えたけど

やっぱ、愛されてるユイを見るのは

今日は羨まし過ぎるかも。

ゴメンユイ。


そのまま足は大夢のマンションに

向かってしまった。

もう来ないし合わないだから

だからちょっと近くで見たかった。

大夢の部屋にあかりはつかない。。


マンションの中の小さな公園で

ちぢこまりながら彼を待っ、

せっかく来たし

ビジホでも泊まればいい。



するとベロベロに酔った大夢が

タクシーから下りて来た。


ストーカーみたいになってる

自分を少し恥じながらも

大夢の事が心配になって駆け寄った。



「大丈夫?なんでこんなに飲んだ

のよ。」



やっと立ってる大夢を支え

エレベーターに乗る。何回も躓きな

がら身長180ちょいもある大夢を

抱えるのには無理があった。


鍵で部屋を空け、大夢をベッドに運ぶ


ゴロンと転がった大夢のネクタイを

とり四苦八苦しながら大夢の上着を

脱がせベルトを外す。



華奢な雪菜が長身の大夢をベッド

まで誘導するのは大変だ。

身体鍛えてるけど、

お、お、重かった。


雪菜も疲れてたから自然と眠りに

落ちた。


ああ、大夢と寝たら彼女に申し訳ない

そう思ったが大夢を抱えたのに、残りの

体力を使い果たしてしまった。

大夢が無意識に雪菜の髪を指で

掬ってる。



昔から大夢は私を寝かしつけるとき

必ずそうしてた。


大夢の手、気持ちいい。


「ねえ、大夢! どおして

髪の毛すくのぉ」


「これはね、大好きだよって言って

るんだよ。パパが言ってた。

 大好きな子には腕枕してこう

やるって‥」


「じゃあ、大夢は、雪菜が

好きなのぉ」


「毎日言ってるだろ。

 雪菜は僕のお嫁さんだよって、

お嫁さんは

 好きな人がなるものなんだ、

だから

 雪菜がお嫁さんだよ。」


「フウ~ンわかったー。大夢の

お嫁さんになるー。」


そんな昔の幼い記憶が懐かしく、

腕枕の中で幸せな気持ちが甦る。


雪菜!雪菜!

柔らかい雪菜がいる。


あ~懐かしい雪菜の匂い。

雪菜は眠ると、俺の首に腕を回して

右足を俺の股間に絡ませる。

そうそうこうやっ‥てだっこ枕状態!


薄く目を開ける、これがせいいっぱいだ。やっぱり雪菜だ。


目が開かない。うう‥かた目だけ‥


やっと、帰って来たんだな。

根性なしめ!! おれが‥どん‥な‥に

苦しんだか‥知ってる‥の‥か?


ああ…おばちゃんの屁じやないが

自然現象には勝てない。ね‥む‥い

雪菜のスースースーリズム感のある

寝息がまた俺を睡眠へと引き戻す。


駄目だ!! 駄目だ!!

雪菜を起こして‥あやまら‥_ないと

雪菜を取り戻せ無かった悔しさから

自棄酒を飲んでしまった。

何で…からだ‥が動かねー!


雪‥菜‥ゆ‥き‥な雪・・・zzz、zzz。



ベットから降りるとシワよけに

脱いだ、スカートを慌ててはく。


時計を見るとAM5:00


いつものパン屋さんなら開いてる

時間。雪菜は長崎でケーキもパン

も凄く上手に焼けるようになった。


しかし大夢は玉の輿に乗ったはずだ

ここには長くいられない。


あの雌ライオンに見つかれば破談に

なるかも知れない。

大夢の夢は砕け散る。

それだけは避けたい。



急いでスポーツドリンクを買い

パン屋さんに走る。


大夢が好きなハムたっぷりのホット

サンドと

野菜たっぷりチーズサンドを.購入

する。


冷蔵庫に入れて

ポーチから生理痛の時に飲む痛み

止めを書き置きの上においてバタ

バタと大夢の部屋の鍵をかけて出る。


この鍵は、返せない…


大夢と私を繋ぐたったひとっの物

大夢が誰かと結婚したらこの

マンションを出るだろうし

雪菜が来たことがわかれば部屋鍵

をかえてしまうだろう。

あの雌ライオンならやりかねない。


そんな寂しい事を考えながら

マンションを後にして、長崎行きの

バスを待つ。

雪菜はまだあの事件を知らなかった。


ウトウトしそうな時、

結菜から着信があった。


「もう!! ユッキー電話出なよ。」


「あっ、らぁ~ゴメンゴメン。

 ウトウトしてた。」


「もう着いた?」


確かめるように結菜は聞いてきた。


「ゴメン。昨日元カレんちに        泊まっちゃった。」


「うっ‥マジ。」

やったのかとでも聞き出したそう

な声が電話の奥から響く。


 「違うって誤解すんなーっ

  酔った彼をベッド連れてったら、

   ん~長くなるけど、


    ちがうんだから!!」


「ああ、ゆっくり聞くから‥!!

 まだ東京?」


「うん。まだいるけど、新宿の

バスタにいる よ。」


  「分かったー、直ぐ行く。


ユイの住んでるとこなんて知ら

ないけど30分したら、眠そうな

光寿郎さんと結菜が

やってきた。


お腹をポリポリ掻きながら

大きな欠伸をしている。


「オウ、ユツキーおひさ。

 俺、友達んちに居るからさ、

 帰るときは、電話して向かえに

 来るから。」


そう言うと大きな背伸びをして

いなくなった。






ん~。俺の腕枕に静かな寝息が

聞こえる、足がゴツゴツあたる。

雪菜、良かった。




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