第21話 薬
寝室に戻るとエディングは薬を取ってくると部屋を出て行ってしまう。
そこまで酷いものじゃないけど今日も営みを行うとなれば別問題だ。甘えさせてもらう事にしよう。
薬って飲み薬かしら。
出来れば苦味がない錠剤が嬉しいけど子供じゃないのだからなにを渡されても文句を言わず飲むほかないだろう。
座っているのも怠いのでエディングが戻ってくるまでは楽な姿勢をさせてもらおうとソファに横になる。
「どうしてエディは私を好きなのかしら」
一人残された部屋で考えるのは昨日夫となったエディングの事だった。
契りを交わす前、彼から言われたのは私を好きだという衝撃の事実。碌に会った事もないのにどうして好きだと言ったのだろう。
やっぱりその場を盛り立てる為の嘘だったのかしら。
どれだけ考えても好きになってもらうような事はない。嘘だったと考える方が自然なのだけど。完全にそうだと言い切れないのはエディングの態度だ。
噂の冷酷とはかけ離れた甘々な態度。
呼び捨てと敬語を外す事を望む不思議な接し方。
好きでもない人にあそこまで優しくしてくれると思えないのだ。
「そのうち飽きるのかしら」
本気で好きだというのなら飽きる事はないだろうが、嘘だったらそのうち襤褸が出る事になるだろう。
試すような真似はしたくないが様子見はさせてもらいたい。
部屋の扉が開くのを感じてソファに座り直す。中に入ってきたのは小瓶を持ったエディングだった。
「待たせたな」
「いえ、大丈夫よ」
隣に座ったエディングの手に収まる小瓶を見た瞬間、頰が引き攣った。
彼が持ってきたのは飲み薬ではなく塗り薬。どろっとした深緑色のそれは患部に塗る物だろう。
「あの、それは…」
「痛みを和らげる薬だ。即効性だからすぐに痛みも治るぞ」
「そう…」
「さぁ、塗ってやるから服を捲れ」
瓶の蓋を開けながらさらりと恥ずかしい事を言ってくるエディング。
身を掻き抱きながら「無理!」と叫ぶ。
驚かせたのも拒絶したのも申し訳ないと思うが彼に塗ってもらうのは無理だ。服から覗く場所に塗られるならまだ良いけど痛みがある場所は理性がある状態で見せられる場所じゃない。
「どうしてだ?」
「じ、自分で塗れるから大丈夫よ」
「しかし…」
困ったような表情を浮かべるエディングの手から小瓶を奪い取ると蓋を閉めて立ち上がる。
痛みが走るが気にしていられない。
「自分で塗ってくるからエディはそこに居て!」
「どこに行く気だ?」
「浴室よ…」
「何故?ここで塗れば良いだろう?」
顔を真っ赤に染めて「見られたくないの」と伝えるとエディングは首を傾げた。察しが悪過ぎる。
耳元に口を寄せて見られたくない理由を説明すると彼まで顔を真っ赤に染め上げた。
「べ、別に見られても良いだろう。昨晩見たし、どうせ後で見る事になるぞ」
「状況が違い過ぎるでしょ。とにかく一人でやるから…」
後で見られるにしても今は無理。
薬を抱き締めながら言うとエディングは深く溜め息を吐いて立ち上がった。
「自分で塗って良いから浴室までは運ばせてくれ」
「分かったわ…」
軽々と抱き上げてくるエディング。残念そうな表情に見えるのは何故だろうか。
疑問に思っていると小さな声で「掛かったな」と言ってくる。つい数秒前まで残念そうにしていたのが今は楽しそうな笑顔に変わっていた。
「逃がさないからな」
嫌な予感が胸を駆け巡る。
逃れようとするが素早い動きで浴室まで連れ去られて、そして私の絶叫が響いた。
冷酷と噂される夫ですが私には甘々なようです 高萩 @Takahagi_076
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。冷酷と噂される夫ですが私には甘々なようですの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。