第12話 カヴァリヤ家のこと - 2 -
図書館に似ていた。というか、書庫なんて単語は初めて聞いたが本を置く部屋なんだろうということは想像できて、それは実際そうだった。
ただ、当たり前だが本しかなかった。見渡す限り本の敷き詰められた本棚だった。それは天井まで伸び、薄暗い部屋の中で異様な雰囲気を醸し出していた。
「カヴァリヤ建国以来、発行された書物が全て保管されている。カイが部屋にいなければ、大体この部屋にいるな」
フェリックスは、近くにあった本棚から本を一冊とりパラパラと捲るとそのまま戻した。埃こそ舞わないものの、古い本独特の紙の匂いがここまで届きそうだった。
「カイは本が好きなんだね」
「そうだな、本が好きなのか知識が好きなのか分からないが、カヴァリヤに来てからこの部屋に来ない日はないんじゃないか」
「カイって、カヴァリヤで生まれた訳ではないの?」
カイは私がカヴァリヤに来てから、随分と親身になって世話を焼いてくれたけれど彼のことをほとんど何も知らなかった。もちろん、フェリックスのこともフェルデナントやサラのことも何も分からなかった。それは私が自分のことを知らないからだろうか。自分が何者でもなければ、相手が何者であっても問題ではないということだろうか。少しだけ寂しくなった。
「カイは子供の頃、兵士に連れられてやってきたんだ」
カイは不法取引を監視している部隊に保護されたそうだ。カイの生まれた国は海を挟んで遥か北のホペアという、どこの国とも国交を結んでいない謎に満ちたところだと、フェリックスは説明した。ホペア人は、陶器のような白い肌と色素の薄いシルバーの髪色が特徴的で北の妖精と言われ神秘の人種と言われている。
「カイの体格で、妖精とは笑ってしまうがな」
確かにカイは長身で骨格がしっかりしている。しかし、深く輝く銀色の髪色と白い肌は雪国で人目を避けて生きる動物たちのように、神秘的だった。
「カイは、結婚して間もない父母に引き取られた。それ以来、この書庫に籠っては言語や歴史を人一倍勉強してたと聞いている」
幼いカイが、本棚の下にうずくまりながら本に囲まれて黙々と読書に耽る様子が想像できた。
「だから、俺より父母をよく知っているし俺よりカヴァリヤのことを知っている。教育係にはもってこいだし、フェルデナントと知り合うまでは武術の指導や俺の護衛も彼の仕事だった」
「兄弟みたいな感覚かな」
「……どうだろうな。一回り以上離れているし、俺が物心ついた時から兄弟というよりは王子と教育係という一線があったように感じるな。フェルデナントの方が兄に近いかもしれない。あいつは、今でも俺を子供扱いするし王に対する敬意も畏怖もない」
「それだけ親密な関係なんだね」
フェリックスの眉が、これ以上にないほど皺を寄せた。
「兄は撤回する。あいつは、腐れ縁だ。悪友のようなもんだ」
私は笑いを堪えるように、無言で返事をした。
「……バルコニーで、お茶を淹れさせよう。ここは辛気臭すぎる」
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