第7話 予言書 - 3 -
予言書は厚さ5、6センチほど。重厚な表紙を除けば、3、4センチほどだろうか。丁重に扱われているだろうが、それでもなお特別な本であることが窺えるのは、年季を感じる皮の質感のせいだろう。
カイは表紙を撫で、机の上を滑らせてフェリックスの前に本を寄越した。
「私は、予言書を開くことを許されていません。聞き伝えで知っていることは、冒頭の詩と概要のみ、そして……」
「本の後半は、俺が……カヴァリヤの王位継承者が開くと予言が書き記される」
フェリックスが、手元の予言書の表紙に手を置いた。
「待って、書き記されるってどういうこと?」
部屋は静まり返っていたが、思わず声が出た。書き記される、と言われるとまるで紙に文字が浮かび上がるように想像してしまう。
「サラ様、カヴァリヤの王位継承の作法によると、継承者が予言の書を開くと、その世代の予言の言葉が本に浮かび上がるとされています。先王は二度、開いていますから、その世代のというよりは本を開いた時のという方が正確かもしれませんね」
「予言の中身の前に、方法が信じ難いな」
そう言ったのは、これまで口を閉じていたフェルデナントだった。
「そうだな。俺は中身も方法も信じてない」
フェルデナントとフェリックスの2人は、悪びれる様子もなく冷静にこれまでずっとそうであったし、これからもそうであるということに確信を持っているかのように言った。顔を見合わせることもなかったけれど、その確信が2人の間の絆であるように響いた。
「フェリックス様、フェルデナント。確かに儀式の様子は、継承者以外に見た者はいません。しかし、そうしたことがカヴァリヤにおいて信じられ、引き継がれた事実を軽率に扱うことは許されません」
たとえフェリックス様であっても、とカイは続けた。
「……俺は、今日、この場で予言書を開く。予言書も救世主もカヴァリヤも、全てをここで明らかにする」
フェリックスは、どこか悲しそうだった。
信じていないものを否定する時の憎しみや怒りといった感情ではなく、信じたかったものの幕を自分で引かなければならないような、そんな表情だった。
「異例のことですが、私はフェリックス様の決断を尊重します。亡きクラウス様も伝統に縛られず、最善の予言をフェリックス様とカヴァリヤに残されました」
前王は王位継承の時期を待たず、予言書を開狗ことで私の存在を詳らかにした。それが最善だったのか分からないけれど、ひょっとしたら救世主の存在がカヴァリヤの希望になったのかもしれない。
フェリックスの長い指が、表紙の端を捉えた。
予言書の中ほどに差し込まれて、ゆっくりと本が開かれていく。
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