第6話 予言書 - 2 -
『湖面に映えるように見透かし
森羅を癒すように浸潤す
空を取り込んだ瞳を持つ子らは
そうして歌を詠む』
カイの澄んだ声が読んだ。
「予言書は、この一遍の詩から始まります。これは説明するまでもなく、カヴァリヤ王家の青い瞳を指し、歌詠の力を語っています」
「どういうこと?」
私より先に、シアラが質問を投げかけた。答えたのは、フェリックスだった。
「本来の歌詠は、カヴァリヤ王家の血筋を意味する青い目を持つものだけだ。だが、歌を詠むこと自体は誰でもできる。この詩は、そのテクニックを説明している」
一同が、フェリックスの薄い青い瞳に視線をやった。フェリックス本人は多くの視線を集めているにも関わらず、予言書から視線を離さず全く動じない様子だった。その後を引き継いだのは、カイだった。
「テクニックというのは、まず見透かすように相手を知りなさい。そして相手に浸透する言葉を使いなさい、ということです」
つまり……と言って、カイはシアラに向き直り真剣な顔をした。
「シアラ様、今夜は月が綺麗だそうですよ」
「……!」
シアラは表情も変えず、言葉も発しなかったが、明らかに動揺したそぶりを見せた。リューデス村の警戒した様子にも似ていたが、なんだか……
「ダイント村で『月が綺麗』というのは愛を伝える言葉で、ダイント村の忍びを生業とする性質上、『月が綺麗な今夜、会いたい』という相引きを意味します」
「……カイ、他にもっと良い例があったでしょ」
シアラはため息をついて顔を背けたが、そのため息は浅くわざとらしかった。
「つまり、シアラがダイント村出身であることを知り、シアラに『月が綺麗』という言葉の意味が伝わって始めて歌を詠んだことになる。そして、俺が言ってたらシアラはきっと今夜俺と月を見ていたな」
「絶対ない」
シアラの返答は被せ気味だった。
「シアラ、昨日城の裏で治癒が行われていた。なんと詠んだか分からないけど、あれも今と同じ理屈だ」
そう言ったのは、ずっと口を閉ざしていたフェルデナントだった。
「治癒を見たのですね。物理的にそのようなことができるのは、フェリックス国王やカヴァリヤの血を濃く受け継いだ一部の民のみです」
フェリックスは腕を組み、自慢気に笑みを浮かべていた。
「分かった。ね、カイが昨日言ってたフィル・グリュークもそういうことでしょ? それで? 予言書は、その後どう続くの?」
私は少し急いていた。この世界で、意味の分からないことが多すぎて、魔法のような歌詠については、最早そういうものであると思うしかないと簡単に受け止められた。それよりも、早く何かしたかった。具体的に動きたかった。
「サラ様。お気持ちは分かりますが、この世界の仕組みを理解することは後々の行動に大きく影響します……、が、流石に冗長過ぎましたね。先に進みましょう」
カイは私の考えなど簡単に見破って、それでも一つ咳払いをしていつもの柔らかい笑みを浮べた。
「予言書の後半は、いわゆる予言が書かれています。と言っても、過去の国王たちが予言したものです」
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