第8話 予言書 - 4 -

 白紙だ。


 開かれたページから光が溢れ、みるみるうちに文字で埋め尽くされる……ことはなかった。厚手の、少しざらついた紙面は真っ白だった。


 フェリックスは何枚かページを繰り、予言書の前半部分と思われるところまでやってきた。文字は予言書と同じくらい古く掠れてはいないものの、本として成った時からずっと紙にへばりついていたかのようにインクは表面に馴染んでいた。


「……白紙だな」

 フェリックスはつぶやいた。

「最後の文章は、古い言葉で先ほどの詩が書かれていますね」

 カイの言葉に、フェリックスは今度は表紙からもう一度ページを開いた。


「言い伝えの通り、やはり詩から始まっているようですね。そして、同じ詩で前半が締めくくられています。そして……」

「白紙だ」

 フェリックスは、強調するようにもう一度言った。


 部屋が静まり返る。


「……やはり、複数人がいる前では予言はされないのかもしれません」

 思案で埋め尽くされた部屋に、カイの一言が響いた。

「いや、俺が予言書を信じていないのが原因かもしれない」

 フェリックスは、ページを一枚一枚捲りながらゆっくりとそう言った。

 また沈黙が広がる。


 私たちは、予言書に何を期待していたのだろう。


 予言書の通り私(……かどうか、私には分からないけれど)という救世主が現れた。救世主が現れたことで、予言に何か変化が現れ、本当の救世主なら分かることがるかもしれないと期待した。しかし、結果は新たな事実どころか予言すら表れなかった。

 そして、救世主の出現に合わせたかのようにエクレールとシレンシオが不穏な動きを始めている。


 私たちは、予言書に何を期待していたのだろう。

 どこか疑いながら、結局救世主の有り様や今後の動き方の指針を期待していたのかもしれない。まるで、すべての責任を予言書に押し付けるかのように。


「……もう一度、フェリックス様お1人で本を開いてみるのはいかがでしょうか」

「いや、そもそも予言を信じていないと公言している俺が、予言書の継承者として」


「エクレールに行こう」


 フェリックスの声を遮って、私は声を上げた。

 全員の落ちていた視線が、私に向かった。


「エクレールに行って、リューデス村のこともシレンシオのこともはっきりさせようよ」


 




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